第78話

 <最後に忠告。俺の一族の者が完全に覚醒するのは十歳以降なんだけどさ、それで分かった事がある。フリードリヒには注意した方が良いよ>


 エドの言葉に頭が真っ白になる。

 それは一体どういう……?


 <それから…聞きたいんだけど、――――""に逢いたいかい……?> 


 全てが瞬時に停止した。

 心も頭も体も何もかもがだ。


 <さて、ここまでかな>


 どうにか瞬間冷凍から復活。

 ついでに気がついた。

 ……いつの間にか先程エドに蹴られたところが全然痛くない。


 私が知らない間に治してくれていたのだと分かった。

 こういうところがやはり変わらないと思う。


 彼女の前で本当に私を蹴らなければ、あの状況ではエドがどうなったか分からない。

 というよりも、魂に憑りついていた代物を使ってエドを動かし、私に被害を与える事を忌避したからこその行動と言葉。

 さり気なく私に最低限の負担しか無いようにしつつ、その上で分からないように治してもくれたのだ。


 お礼を言おうとしたのだが……エドの気配が非常に厳しい印象。


 エド……?

 先程までは声の響きが相も変わらず優しいものだった。

 けれど同時に何かを思い切る様な声音だったのだ。

 けれどエドの纏う空気が氷点下になってしまっている。

 お蔭でどうにか思考回路をまた起動させ、結果首を傾げていた。

 それでも治してくれた事への感謝を伝えようとしたのだが……突然扉が思い切りよく蹴破られたのだ。


「何をしている……?」


 凍えるほど冷たい響きの…声変わり済みな少年の美声。

 辺りさえ凍結させる勢いだ。

 それに対して気にも留めず皮肉気に嘲りを返したのは――――


「視て分かりません?」


 今までも密着していたのに、エドはより私へと身を寄せ抱き竦める。

 ……そう言えば私、エドに完璧に押し倒されていた様な……?

 うん、マットの上でエドと二人で誰がどう見ても抱き合っている感じですね。

 有り体に申し上げてあらぬ誤解を受けるのが間違いはない体勢。

 客観的にどう言い繕っても逃げ道が皆無な感じに見えなくも無くも無いようで頭がコンガラガッテ終了。

 大分どころではなく混乱しているけれど…私の状況――――大問題では……?


「――――ふっ! は、アハハハハハ! エルザ暢気すぎ。心配しなくても大丈夫。問題が起きたら起きた時」


 ワザとなのだろう、エドが見せつける様な動作で私の頬を撫でた。

 多分これだけ密着しているのであれば、エドは声を出さなくても私と会話ができるはずだ。

 それをしていないという事は――――


 <正解。この状態であればエルザが何を考えてもアイツには伝わらないからさ、先入観無しに良く見てごらん。知っている相手?>


 彼等という言葉で複数だと分かる。

 だが見ろと言われても、エドに抱き竦められたこの状態ではとても目では見られない。


 ――――つまり眼以外の何かで見ろという事なのだろう。


 そう判断をして目を閉じる。

 いまいち誰が来たのか、何人いるのかが分からない事に違和感。


 更に精度をあげてみる。


 何だろう……?

 知っている相手なのは分かった。


 ただ……私は彼等をいつから知っているの……?


 三人……?

 だと思う。

 気配は三人。

 けれど此処に居るのは――――二人……?


 それくらい一人の気配が非常に分かり難い。

 居るのは確か。

 これについては間違いはない、と思いたい。

 本当に感じるのに苦労する。

 それでも三人居るのだと確信が持ててしまうのだ。

 けれど一人がまるで霞を診ている様な気分にさせて何とも言えず戸惑う。


 一言で表すのであれば――――訳が分からない。


 もっと良く診てみるために意識をより集中。

 彼等の奥深くまでしっかりと感じ取れるように。

 全てを詳らかにする勢いで隅々まで視る。


 金色の光が私の内心に輝いてるのを感じながら、それをフィルターにして三人をしっかりと調べるために気合を入れた。


 エドに声をかけた相手。

 前世から知っている気がする。

 この世界でも良く知っている、と思う。

 何だろう……?

 悪寒を感じる。

 また遭ってはいけない存在、の様な寒気がした。


 もう一人の沈黙を守っているけれど殺気を隠しもしない相手。

 この人も前世から知っている気がする。

 やはり生まれ変わってからも親しくて馴染むほどの存在、だと思う。

 ……懐かしい……のだが……勇には相容れないのが分かってしまった。

 勇と彼は本当に心底共存できないのだと不思議と確信が持てる。


 それから気配がとてもとても薄い相手。

 前世で何度か遭遇したかもしれない。

 この世界でも会った事が幾らかある、くらいだと思う。

 ただ……彼には――――


「何をなさっておられます?」


 思考をまるで狙ったように止められる。

 まるで澱んで凍った空気を一新させるような…清涼感のある雰囲気に私の居る物置小屋が包まれたのだ。

 しかも唐突に見知った声さえもが響いたものだから、思わず目を開けてしまっていた。

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