第63話
――――”力”が無い。
それこそが問題……?
英里の……?
”力”が無い。
それはまるで――――
「君とは違うよ。君には”魔力”が無いだけ。”力”はある。だが英里には……俗に”魔力”と言われるものも君の前世の世界においても普通の人間レベル。”力”に至っては微塵も無い。全く無い。全然無いんだ。これは君の前世の世界において普通の家であったのならば何の問題も無かった。だが……前世の君の母方の一族にとっては致命的なレベル。存在してはいけないと言われる程のね。君の立場が良かったのは、君の”力”故だ。君に”力”があったから、君の母方の伯父は君へと援助した」
頭の中が真っ白になる。
……理解しようと思うのに、上手く頭が回ってはくれない。
「――――つまり、瑠美の母方の一族は皆何らかの特別な”力”を持っていたという事?」
声を、言葉を出そうとするのに、ハク、ハクと口が動くけれど……どうしてだろう、何か言おうにも何を言ったら良いのかさえ分からない。
私は、何かを致命的に見落としていたのだと、そう思うのに、おもうのに――――
「そう。その”力”で生きてきた一族だよ。財も地位も”力”で得て来たんだ。だからこそ”力”が無い者には厳しい。一族としては見捨てても、その子孫までしっかり監視して、”力”を持って産まれた子が出たら引き取るんだ。そういう一族だったからね、裏切り者には厳しい。君は知らなかっただろうけど、あの一族は”力”がない者とは婚姻しない。絶対にね。破ったら……破らせたら……報復は苛烈だよ。君の父親と母親が生きていられたのも取り敢えず君が産まれるまで待ったんだ。この組み合わせで強い”力”を持った子が生まれるなら生かしておこうっていう判断。そして君が産まれたから生きる事を許された。もう二、三人は最低でも作ることを条件にね。どうしても人工授精や体外受精じゃ優秀な”力”の持ち主は生まれない。どこの世界でもだ。だから有効な組み合わせは利用されることが多い。なるべくたくさん子供を作れってね」
私に”力”があったから、前世の両親は……
「生きられたんだよ。君のお蔭でね。見えた限りでは父方はかなりエグイ惨状だ。諸悪の根源である君の父親には金輪際関わり合いになりたくは無いから、縁を切った。書類上の物もあるけど、霊的な意味でも、魂的な意味でも、文字通りの縁を完全に切ったんだ。恨み言さえ言えないレベルで徹底的に虐殺した君の母方に頼むという異常さでね」
止めいていたらしい息を大きく吐いたのは加奈ちゃんだ。
私へと痛ましそうな表情を向け、けれどかける言葉が無いのだろう。
背中を摩ろうかと手を伸ばして虚空で手を切った後、加奈ちゃんは眉根を寄せながら腕を摩りつつ口を開く。
……何かとても恐々としている様な気がする。
「”力”を使って生きている人達が他にも結構いるっていう話は欅の御方から伺ってはいたけど……そこまで……?」
そんな加奈ちゃんへとギュンターは苦笑した。
これはどこにでもある当たり前だという言葉が、聞こえてきそうだ。
「君の一族は欅が直接手を下していたから君達が気がつかなかっただけ。否、気がついてはいない振りをしていただけかな」
加奈ちゃんは目を見開いた後、静かに笑った。
まるで納得しているように。
「酷い良い方ね。でも……確かにそう。否定はできない」
私は何かを言いたいのに、息さえうまく吸えなくなって、過呼吸さながらの様相だ。
それをどうにか抑え込む。
なにかがせり上がってくる気がするけれど、兎に角呼吸を整える事に集中する。
そうすれば……この混乱した頭も正常に働いてくれるだろうか……?
「英里の父親は本来なら瑠美の母親と結婚するはずだった。一族の取り決めで。これがどういう事かは今までの説明で分かると思うけど」
ギュンターそこで一旦言葉を切る。
感情を消したような顔を見ていると、彼にしてみても何かしら思う事を封じて話しているのを感じる。
「つまり、英里の父親もなにか”力”を持っていたって事? それじゃあ彼女の母親は……?」
加奈ちゃんは険しい表情になりながら、優しい手つきで私の背を摩ってくれる。
どうやら彼女にしてみても混乱の極みであったらしい。
折り合いをつけたからこそどうにか動ける様になったのだろう。
「英里の母親は瑠美の母の妹だ。双子のね。ちなみに、この姉妹の兄が瑠美の従兄妹である勇の父」
……頭が殴られたような衝撃を受けた。
「双子……?」
声が震える。
……知らなかった。
あの二人は容姿も性格もまるで違う。
――――年齢さえ、離れているのかと思っていた。
「……二卵性だからね。さて、ここで問題だ。英里は骨の髄まで”力”が無いとどうなるかを知っていたし分かっていた。そんな彼女に”力”は無いんだ。では――――何故現在”力”を振るえているんだろうね?」
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