第59話
前世で見えた事のない存在達だ。
瞠目してから口を開いた。
「……私は前世で妖精も精霊も見た事は無いの。……周りに居た……!?」
私の驚愕に、ギュンターはちょっと目を見開いた。
「あれ? 気がついていなかったの!? 特に幼い頃は彼等が君を守っていたじゃないか。君の宝物に出逢う前だよ。彼等が大勢君の周りに居たから、君の伯父も君に気がついたんだ」
言われて思い出すのは――――あの小さなアパートで、両親が私に何か危害を加えよとした時、必ず怖がっていたのは両親の方だったという事。
確かに私は傷つけられた事が無い。
それは単にあの二人の良心ではなかったのだ。
……守られていたから。
それに気がつけば色々な事が見えてくる。
呼べば、色々な子が来てくれていた。
それはもしかしたら動物に擬態していた精霊や妖精だったのかもしれない。
――――私が飲まず食わずでも生きていられた理由でもあるのだろう。
「それは一部が正しくて間違いだ。君は確かに人から外れていた。飲まず食わずでも君は生きていける。それでも君は人たろうとした。だが君の前世での両親はそれを踏み躙ったんだ。精霊や妖精は見ていられなくて君の手助けをしていた。それこそ陰日向にね。君の宝物が彼等が側に居る事を望まなかったから、それ以後は離れてはいたけど。でも見ていた。彼等には人間の常識や価値観は分からない。だから見た事をそのまま君の宝物に告げていた。だから君の宝物と再会した時には隠し事はしない事だ。彼の元々の能力と精霊と妖精の善意で、君について君の宝物は知らない事は無いからね。これは本当に忠告。下手に隠すと余計に拗れる。これ以上は無い程にね。さて、それじゃあ良く思い出して。分かるはずだ。”堕ちたモノ”であるのなら、君が気がつかないはずはない。これはそういうモノなのだから」
真剣なギュンターの言葉で記憶を探る。
悍ましい思い出にも手を付けなければならないだろう。
――――それを勇が既に知っているというのなら。
「もし、もしだ。君の夢にその”堕ちたモノ”が出てきていたのなら、そいつは一回死んでいる。死んで亡者よろしく蘇り堕ちたんだ」
さも当たり前のようにギュンターに言われて、思わず目を瞬かせる。
疑問符で一杯な私の頭の中が分かったのだろう。
彼は一瞬躊躇してから、痛ましそうに口を開いた。
「君の……特殊な夢に出てくる人物は――――皆死んでいる。死んだ者しか出てこない」
言われた言葉に……頭がまた横殴りに思い切りされたように痛む。
――――では……今まで私の夢に出てきていた人達は――――
「うん、死んでいる。転生しているかの有無は関係が無い。あの夢に出てきていたモノは皆すべて死んでいるんだ。思い返してみると良い。すぐに分かるはずだ。彼等は既に生きてはいないと」
淡々と告げる言葉を、頭に叩き込む。
……考えてみれば、確かにそうだと、分かってしまう。
分かりたくは無くても分かってしまうのだ。
――――アレは……死者たちの哭く声だった。
そうであるならば……伯母は……勇の母だった人も亡くなっていたのだ。
私が転生するまで一体どれだけの時間が流れたのだろう。
その長さ如何では伯母も亡くなるのは分かる。
分かるけれど、決して私に関係が無い等というとこはあり得ないだろう。
だからこそ夢に見たのだ。
……”堕ちたモノ”だという、この事態を招いた元凶。
夢の中で会った事が確かにある。
――――私に話しかけてきたあの禍々しい存在。
それに前世で逢った事があるような口ぶりだったのを思い出す。
どこでだっただろう。
あの気配には確かに覚えがあると思うのに。
それに――――いつかどこかで警告を聞いた。
加奈ちゃんの話を聴いている時に何かが過った事がある。
此処まで出かかっているというのに、上手くピンポイントで掻けない様なもどかしさに苛立つ。
――――ふと、疑問が湧いてくる。
何故エリザベートは…否、英里は、フリードだけではなく、他の皆も変えてしまったのだろう。
彼女の性格は逆ハーレムが好きという訳でも無かった、と思うのだが……
「ああ、そうそう。何故”アレ”がフリードリヒに執着しているか、だったね。ソレと瑠美だったエルザの大切な幼馴染達を貶めているのは理由が違うんだ。ある意味フリードリヒも貶められているけどね。コレは不可抗力。やる気でしてはいない。ただ結果的に最悪な事をしているだけで。彼女はいつもそうだ。やることなす事裏目裏目。いつだって最悪を選んで転げ落ちていく。言ってしまえば間が悪かった。これに尽きるんだよ。でも彼女はそれを認められない。たった一人を除いて彼女は本来誰でも良いんだ。ホレホレと甘やかしてくれるのなら、それが愛だと誤認できるのなら。それが出来ないのなら、いつもいつだって悪い事が起きたらソレはすべて瑠美の所為。そうやって彼女は生きてきたし、これからも変わらない。変わる気が無いからね」
表情を凍らせたようなギュンターは、感情の籠らない声で突き放した様に言葉を言い終えた。
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