第43話
「あ~あ。失敗しちゃったな。能力を覚醒させるつもりはなかったのに。でも、ま、いっか。どうせまた封じられる」
どこか愉しそうに言葉を続けた誰かに、私は勇気を出して声をかける。
どうしてか湧いて来る震えは止まらなかったけれど。
……懐かしい気もするその気配。
いつかどこかで逢った気がするのに……黒い膜に邪魔されて霧散する。
「――――貴方は……誰……?」
私の問いに、声は嗤った。
当然だという嘲りと諦念を滲ませて。
……薄っすらと奥に絶望を感じて困惑する。
「そうだね。そうだ。わかっていたさ。君にとって……ボクがどの程度の存在かは」
楽しそうに愉しそうに嗤う……声。
視線の粘度は増した気がする。
声にさえ粘着質なモノを感じて戸惑いが抑えられない。
「ああ、そうだとも。創造主クラスを始めとした支配者層にとって……僕は取るに足りないよ。それこそ吹けば飛ぶような存在だ」
自嘲を多大に込めた声。
何故それ程自虐するのかが分からないからだろう、どうして良いかが分からなくなる。
……当惑も深まってしまう。
「だから……良いじゃないか。少しくらい奪ったって。沢山持ってて恵まれてるんだから……下層な存在に譲ってくれたって罰は当たらないと思う」
さも当然という響きで言い切った後、愉しそうに嘲った声が続く。
「持つ者には、持たざる者の気持ちは決して分からない。逆もしかりさ」
こちらを見つめている視線に更に圧と熱が籠った気がした。
思わず逃げたくなるのは何故だろう……?
「だから……持つ者である君には、僕は理解出来ない。してもらおうとも思わない。 君はさ、全然これっぽっちも分かっていないみたいだけど、君は存在が生まれついての支配者階級。所謂、貴種なんだよ。なのに搾取されてばかりなのは気が付いてるかい?」
私は声のいう事に目を瞬かせることしか出来ない。
……どうして良いかが分からないのが本音だ。
「ま、あれだね。君は無意識に使っているけどさ、この世界の住人なら、特に君の所属する国ね、その連中ならさ、狭間や堕ちた連中に攻撃がある程度効いてるんだけどね……分かってないから効果的じゃない攻撃して効率悪いんだよ。この世界の住人の一部って、管理者達に改造されてるから強力なんだよね。だから効率悪い攻撃でもある程度効くんだけど」
唐突に話が変わって困惑する。
声は相変わらず嘲笑している響きを隠さない。
「……あの、どうしたら効率良く攻撃出来ますか?」
思わず訊ねていたのは……どうしてだろう、記憶が混濁している。
それを訊かないといけないと強く思うのに、理由が分からない。
混乱ばかりが加速する。
それでも訊こうと思う自分に更に脳内の回線渋滞は加速した。
「何でそれをボクが教えないといけない訳?」
最もな返答にぐうの音も出ない。
「……そうですね……ごめんなさい……」
クツクツと嗤った影は愉しそうだ。
「君はさ、自分の属性も分かってないんだよ。だから無意識に使ってはいるけど、効率はやっぱり格段に悪い。しかしここまでアレだと、君を××××××は不幸だねえ」
私の属性……何だったかな……ギュンターに聴いたと思うのに、不思議と霧がかかったように分からない。
確かに聴いたはず。
それなのに……何故……?
「彼等が君の属性が分かればねえ……さぞ面白いだろうに。一部しか分からないのにそれでもアレだけ寄ってくるんだ。君がその属性だから君の力はアイツ等に効くんだけどね」
愉しそうにこちらを観察している気配がする。
何かを探っている様な……
「……一部……? 属性……?」
先程から脳内で知っているはずだと囁くのに、どうしても出てこない。
度忘れしているにしてはおかしすぎる。
白い膜で隠されている様な気がして仕方がない。
「そう。あ、魔力とかの属性じゃあないよ。魂の属性さ。人じゃ……分からないだろうけど」
言って嗤う声がした。
「ジャイアントキリング、相性次第で勝てる……なんてのは一定以下の連中にしか該当しない戯言だよ」
諦めている様な響きで自嘲する。
「創造主、造物主、管理者……連中にはその存在よりも存在が上でなければ……一切攻撃は通じない。格下が格上に勝つ方法なんて無い。無いんだよ。全くね。相手より強くなるしか……ないんだ。それしかない。強くなるっていったって――――生まれついての上限値は超えられない。そう、全ては……存在が誕生した瞬間に決まるんだ」
自分を嗤う声。
どこまでも自らを貶める声。
「生まれついての貴種か、奴隷しか……無いんだよ。ならさ……少し位……少しだけで良いんだ。奴隷が貴種から奪ったって良いじゃないか。全て持っているんだから……一つ位くれたって……良いだろう? それだけで良いんだ。それだけで……後は、望まないから。唯一……それだけが……欲しいんだ 」
――――瞬間、暗闇の中だというのに、更に沈んでいく気配がして……意識は途切れる。
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