第28話
それだけは覚えておかないと。
誓って私の一番深い所、魂に確実に刻み込む。
勇にとって、私と出逢った事が間違いではないのなら。
……少しでも何か勇にとって救いになれたのだとしたら。
――――私が私を否定しない理由になる。
「本当に君にとって彼は大切な存在なんだね。彼も君が心底大切なんだろう。無理矢理にでも”番”にしてしまえば面倒ごとは無くなっただろうに。彼クラスなら”所有の印”でも付ければそれだけで事足りる。君が”巫女”で”聖属性”だからこその配慮が裏目に出たって所か。世界の管理者も非協力的だったのも致命的」
そこで言葉を切ったギュンターは、目を瞑ってため息と共に一気に言い切った。
私の脳内どころか心に埋め込む勢いで。
「ああ、”聖属性”=”聖者”、”聖女”って分類されることもあるけど、ちょっと違うんだよね。”聖女”も”巫女”も生贄としては最適だし、”聖女”って分類は”巫女”の最上位って区分けにする事も多い。だから”聖女”と言えども”聖属性2を持っているかっていうと持っていないというのもザラ。本当の”聖属性”はそれだけ稀。聖なる力を持っているから”聖女”だとか”巫女”ってなるんだけど、”聖属性”の力は聖なる云々レベルじゃない。本物を見たら”聖属性”と聖なる力が使える程度の”聖女”を同一になんてできないよ。聖なる力っていう分類は確かにあるけど、”聖属性”の力とはまた違う。普遍的なモノと限定的なモノの違いなんだけどね。当然普遍的な代物が”聖属性”。限定的なのが聖なる力。ここら辺人間には分からないかも。一緒くたにしてる世界が多いよね。私達には一目瞭然だけど、人間には見分けってつかないみたいだし。誤魔化すには良いけど。君も森の中に隠れたら分からないから便利だよ。”聖女”なり”聖女候補”が一杯いるところに入り込むと人間には分からない。より貴重で強力な”聖属性”だとはね。人間が区分ける場合に”聖属性”って分け方するところもあるけど、あれ単純に聖なる力だったり、強力な”光属性”とか”太陽属性”とかだったりするんだよね。確かに強力だし珍しいよ。でも”聖属性”とは比べ物にならない。真正だったり純正は特にって注釈付くけど。それぞれね。”聖属性”以外の場合本当の”魔”にはあんまり効かないから流石に遭遇したら人間にも分かるかもだけど。でも”真正の魔”に出遭ったら普通に終焉だからね。純正まで付くのだともうね……。喰われて養分になってそれ所じゃないのが目に見えるようだよ。確かに私も”正”の方かって言ったら”中”じゃなくて”負”の方だけど、”真正且つ純正の魔属性”には見つかりたくない、絶対に。アレの対は”真正で純正の聖属性の巫女”だけ。単に”魔属性”っていう存在でさえ私たちにとって怪物だけど、真正が付くのだけでも出遭ったら終わりだよ終わり。更に純正なのとかもう……。アレ等は狂ったように”聖属性”を探すけど、”聖属性の巫女”の中でも更に”真正で純正”じゃないとダメなんだよね。餓えは収まらない。でも面倒な事に”聖属性の巫女”、その中でも”真正で純正”ならどれでも良いっていう訳じゃない。”巫女”としても破格のレベルじゃないと。それならあらゆる”真正で純正の魔”も満足するんだろうけど、残念な事に全部そろったのなんて、寿命の無い私達と言えども諦めたらってレベルだし。だから見つけたら問答無用で手に入れようとするだろうね。”負”なら出逢ったが最後誰でも喉から手が出る程に固執するし永遠に執着する。”中”でも怪しい。”正”といえども愛着って所か。魂が消滅するまで。人間でもそうならないとは言い切れない。私達とは存在規模は違うけど、人ならざる存在なら間違いなく妄執するだろう。だから彼も前の世界の管理者も君を隠してたんだけどね……。”聖女”や”聖者”に分類されるレベルでさえ”負”は執着するんだよ。”巫女”にもね。だから”聖女”や”聖者”であり”巫女”でもあるっていう存在には強く強く執着するんだよ”負”に分類される属性は。それ以上の”聖属性の巫女”には推して知るべしっていう……。もっと”巫女”や”聖女”について説明しても良いけど、知らない方が良いとも思うよ。君の場合はね。さて、ここまでは大丈夫かな?」
凄い情報量であるにも関わらず、ストンと頭に入ってきたのはギュンターの力だろうか……?
不愉快ではないしありがたいと思う。
お礼を言おうと口を開こうとしたら、ギュンターは唇の前に人差し指を当てて微笑んだ。
「そうだよ。それにありがとう。でもまだあるんだ。長々と言ったけど君は覚えておかないと危ない。危ないなんてもんじゃないからね。”聖女”やら”巫女”について知りたかったら問題は無いって判断できたら話すよ。約束する。さて、今までの話を踏まえて何が言いたかったかというと、君という存在は”負”に属する存在を問答無用で惹き付けるって事。有象無象問わずにね。もし君という存在に気が付いたなら”魔属性”の輩さえ現れる。確実に。”真正”や”純正”ではなくても私達が”魔属性”と分類している存在が顕現した場合、その世界は終わるから覚悟してね。誇張も何も無くて本当にそうなるから。対抗できるのなんて同じ”魔属性”しかないかな。”聖属性”は……難しいね。どうにかできるんだけど、どうしてもね……」
物騒極まりない事を告げてから、ギュンターはこちらを温かな眼差しで見詰める。
どこか心配そうな色を瞳に忍ばせて。
「君は汚染されていない”聖属性の破格の巫女”っていうとんでもない存在だから、何が現れるか本当に分からない。十重二十重にも隠されているけど、それでも見つけるだろう。実際君は何度も出遭っているよね? どうみても”負”でしかない存在に。前の世界でも、この世界でも」
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