第27話
「私達の様な存在は、基本的にブレないし揺るがない。コレはアギロも言っていたと思うけどね。要は
ギュンターは腕を組んで私を見詰めている。
どこか憐れむような彼の視線を受けながら、私は戸惑いながら彼の話を聴いていた。
「人間の器に入っているっていうのは、本当に想像以上に大変だと日々実感するよ。私はまだ属性的にマシではあるというかそうでもないかもだけど。伯父上やフリードリヒもね。ただ……。ああ、そうだね、”属性”と言うのは、人間が言っているのとは私達の感じ方が違うんだよ。人間にとっては単純に魔法や魔力の力の性質や分類って所だけど、私達にとっては”存在の根本的な性質”であり”存在を示すモノ”だ。ソレによって存在の最低値も決まるし、どんな力を使ったとしても、その力が帯びるモノも決定する。だから君の場合、どんな力を使ったとしても、その力は『聖属性』を帯びるんだよ。『聖属性』って事は、そうだね、例えばだけど、君が治癒系の魔法を使えたとする。もしくはそういう能力でも可。そうすると、君が使う治癒には『聖属性を』帯びる関係で穢れを綺麗にする、つまり”浄化”の効果も付与されるって事。攻撃系にしろ防御系にしろ、”闇系”や”穢れ”、”夜”、といった反対属性の奴には特効効果がある。”狭間の諸々”や”堕ちたモノ”には凄まじいよ。特に君と正反対の属性にはとんでもなくね。ただ君達『聖属性』は根本的に誰かを、ナニカを傷つけるという事が出来ない。そういう存在だからこそ、君と正反対の属性や反対に属するだろう属性は『聖属性』に執着する。どうしようもなくね。これは本能だから私達の様な存在には強烈な効果かある。だからこそ『聖属性』を見付けたら惹かれてしまう。逃げられない。まっさらな『聖属性』であれば余計にね」
穴が開きそうな程に強い視線だと思う。
私が瞳を瞬かせたとき、ギュンターはちょっと優しく笑って、眼差しが温かくなった。
「考えた事はある? 人間の感覚だと、全身を寸刻みに毎秒切断される状態を続けてまで側にいるっていうのがどういうモノか。本能的にはズタズタに滅茶苦茶にしたいのにそれを自分を削って抑え込んで守るっていう感覚。君の血を見た瞬間、喰いたくて喰いたくて狂う程の餓え。それでもそれら全てを抑え込んで側にいる。……君に憑いてるのは君がソレを知らない事をカードとしてくるだろうことは想像に難くない。だから今知っておいた方が良い」
ギュンターの言っている状態はどう考えても尋常ではない。
誰もが狂気の沙汰だと思うだろう。
何故それをカードとして私に使えるのだと思うモノがいるのだろう……?
「さっきも言ったけど、私達が人間として生れ落ちるのなら、重要なのは日時で年じゃない。ねえ、前世の君のとてもとても近くに居て、誕生日がほぼほぼ変わらなかったのは、誰?」
……思考が、ただでさえ停止している状態。
それでも簡単に出てくる存在。
――――誰より側にいて誕生日が変わらないのは……
「そう。彼は君に惹かれて人間の器に入った。本来子供が産まれない夫婦に出来たイレギュラー。だからこその世界に出来てしまった多大な歪み。君は『聖属性』だからそいうのは無意識に修正できるんだけどね……。だが彼は君とは見事に”正反対”の属性だ。その属性を持っているって事は、それだけで化け物ってこと。私達の様な存在だからこそ、その属性持ちには絶対に近づかない。私達の誰もが恐れる属性。君達に他のどの属性よりものめりこんで惹かれるのもその属性。とはいえ、そこまで自分を犠牲にしてまで側にいるなんてのはまず居ない。普通は見つけた瞬間に自分のモノにしている。誰にも見せない様にするだろうね。『聖属性』を他の誰にも盗られることを許さないのがあの属性の特徴だから。だから本当に珍しい。君の意思を出来得る限り尊重するなんて言うのは。あの属性が他者を重んじるとかあり得ないんだけどね。彼が存在するが故に歪みがまた別のその属性を呼び寄せるとか悪循環。ここまでは大丈夫?」
先程の比ではない震えと後悔が襲ってくる。
心が張り裂ける。
掻き毟って頭を打ち付けたい衝動が止まらない。
私は――――
「ソコを突いて来るから。だから知っておかなきゃだめだ。君と正反対の属性の存在は、『聖属性』に出逢えないと餓えたまま、穴が開いたままなんだよ。あの属性は力が強ければ強い程餓えが酷い。だからそれを抑えられるのもそれ相応の『聖属性』じゃないと。おかげで強い程蒐集が止まらないし増えていく。君レベルの『聖属性』を見付けるのは本当に至難だ。出逢えたら奇跡以外の何者でもない。中途半端な奴が見つけたら取り合いだね。本来とは比べ物にならないとしても、彼クラスが側にいてでさえ虎視眈々と狙われるんだから厄介だよ。彼はほぼほぼ無力な状態にまで自らを落とし込んでいたからね。そうやって隠していても……ああ、人の器の彼と出逢う前か。その時に種を植え付けられたと。なら彼の落ち度ではないね。あの世界の『管理者』の落ち度だ。君と彼を合わせないようにしたら結果的に最悪な事態になったと。彼がそこまで君に献身的だとは普通は思わないしね。あの属性としてはあり得ない。絶対にあり得ないレベル。ロックオンされていたとしてもなるべく遭わせないようにって言うのは間違いじゃないからなあ……。難しいね、これは」
そこまで言ってから、ギュンターは私を優しく見詰めた。
「ごちゃごちゃ言ったけど、君と出逢えたことは彼にとってこれ以上は無い幸福なんだよ。他の何を忘れても良いからこれだけは覚えておいて」
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