第24話

 思考停止中の私を楽し気に見詰めながらギュンターは言葉を続ける。


「君がこの世界に産まれたのは意味があると私は思う。何しろ君という存在がこの世界を選んだことで、ルディアスにしろフリードリヒにしろ、そして私もだが、引っ張られてこの世界に人として産まれた訳だからね」


 ギュンターの話を理解するのを、どうしてか私の脳味噌さんは拒絶したいらしく、話が頭にうまく入ってこない。


「だから産まれた日時が近いんだ。年数はあまり重要じゃない。確かに同じ年である場合の方がより、ではあるけれど、私達の様なモノには日時の方が大事なんだ。最善は全く同じ日時に産まれる事。因みに、私は君と同じ年でまったく同じ日、同じ時間に産まれたよ。幻獣の王やアギロはだから私に注目してるんだけどね。エルザが”巫女”で”聖属性”だっていうのは彼等からは一目瞭然だから。それと全く同じに産まれたとかどう考えても……っていう」


 ……どう考えても、とはどういう事なのだろう……?

 回らない頭で考えても答えは全く浮かばない。


「フリードリヒの場合、おそらく何もなくてもこの世界に産まれた可能性は高いとは思う。ただし、人として産まれるのなら本体の一部だっただろうけどね。一部とはいえ本人に違いはないから性格は変わらない。けれど一部でしかないから誰かを心から愛する事も出来ない。人の器が死んだ後に統合されたんだろうけど……。でも現在は、本体が丸々この世界に居る。私もそうだ。ルディアスは……ま、おいておこう。君は現世の両親の願いを叶えて産まれてきた。なら、君が願いを叶えなかったとしたらどうなっていたと思う?」


 相変わらず楽し気にギュンターは私を見つめている。

 ……考えようとしてもまとまらないけれど、どうにか口にした。


「――――……私ではないエルザが産まれたのでは……」


 声に力は微塵も無かった。

 私という存在が奪ってしまったのだろう誰かの居場所。

 申し訳なくて、どう償ったら良いかも分からない。


「あははは、はっとごめん。本当に君は自分への評価が底辺だね。違うよ。誰も産まれなかった。君の現世の両親の間には絶対に子供が産まれることは無かったんだ。では何故産まれたという情報があるのか。答えは簡単。君が産まれなかった場合に育てていた娘はね、君の今の祖母の複製品。要するにクローンだからだね」


 頭が殴られた様に痛い。

 ……クローンという事は……


「あ、君。また自分を卑下してるね。アレは譲られたものだから気にしなくて良いよ。沢山あるんだ。姉上は知らないけどね」


 クローンだとしても立派に命だと思ってしまう。

 だからそのクローンが誕生しないようにしてしまった罪悪感が生まれるのを止められない。



 ……お祖母様が知らないのにクローンが沢山あるというのは、非常に問題なのではないかと思う。



 それに、本来ならエルザとして生きただろうクローンに申し訳ない。

 結果的に居場所を奪ってしまったのだから……


「エルザ。考えてごらん。君が聞いたエルザの末路を。それは果たして幸せかい?」


 ――――分からない。

 それでもお父様やお母様を始め家族の愛情を一時でも注がれているのといないのとでは違うとも思う。



 けれどだからといって、その最期も、それを招いた出来事も、それらに遭わないというのは確かに幸運な事だとも分かるから。


「そう。君というイレギュラーの誕生でされた時とは違ってきているんだよ。様々な面がね。私としては良い変化だと思うよ。本来、人としては決して産まれる訳がないのが完全な状態でこの世界の住人になっている。これは大きな変化だ。あ、完全な状態ではあるけど、はガッツリ嵌められているから色々影響は受けちゃうだろうけど。そこら辺は伯父上に言って。まったく面倒だよね。伯父上は傍観を決め込んでいる割に君には肩入れしているし。自分でももしかしたら自覚は無いのかもしれないけど。やっぱりそれだけ同類って大事って事なんだろうね。……理解できるのが腹立つけど」


 では、もしかしたら未来がどうなるか分からないという事なのだろうか……?

 それに上皇陛下の同類……?

 どなただろう……

 ルディアスとフリードリヒ、ギュンターの事なのだろうか……?


「うん。君って鈍い。それはそれとして、伯父上にとっての同類は君だよ君。伯父上も願いを叶えてこの世界に産まれてきたから。伯父上は”聖属性”ではないけれど。そもそも”聖属性”自体が異常だし。世界が始まってから終わるまで出ない方が多いってレベルだよ。狭間でもそれくらいの割合。誕生するのはそれこそ広大な宇宙の一粒の砂金。だから誕生直後が”聖属性”にとって最も危険なんだ。ましてや狭間で生まれた”聖属性”が無事って意味が分からない。普通は”魔属性”にすぐさま拉致監禁なのに。その上”巫女”と。なんで無事なの。うん、絶対にあり得ない」


 ギュンターは大きく息を吐いて私を面白そうに見詰めた。


「だからかな。もう一度言うけど、ルディアスとフリードリヒ、それから私もだね、君という存在に引っ張り込まれた。全員人としては産まれてこないはずだったんだから」

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