第19話
無心で歩こうと思うのに、どうしてかグルグルと思考は回転中。
停止しないだけましだと思うけれど、大半は機能停止続行中
脳味噌さんは絶賛仕事を放棄した上大半は逃亡して行方不明。
それでも何かが思考に差し込んでくるように言葉が下りてくる。
誰の言葉だったか……
歩きながらふと脳裏に過った言葉。
「あのね、私は、何の対価も無しに願いや夢は叶わないと思うの。対価を払ったって叶わない事の方が多いとも思っているわ。だから、願いや夢が叶うのは、本当に奇跡じゃないかなって……何らかの対価の先に奇跡があると、そう思う。何の努力も犠牲も無しに自分の願いを叶えようとするのは、きっと傲慢な事じゃないかなと……何もしないで願いが叶えと言ったり思ったりは、違うのじゃないかなとか、それで願いが叶ってしまったら、実は知らず知らずに危険な対価を支払わされているかもしれないって思う。魔法だって対価無しには使えないじゃない? 奇跡は対価も無しに願いが叶う事だろうと言う人もいるのだろうし、それこそが奇跡なのかもしれないけれど、でも、必死に積み重ねた何かの先にしか奇跡は起きないと、私にはそう思えて……ごめん、何が言いたいのか自分でも分からなくなってきた……
ええと、その、ね、何も支払いたくない人は、奇跡を期待しちゃいけないと思う……?」
懐かしいような、気がする。
では前世での誰かが言ったのだろうか……?
けれど誰だったかがまるで分からない。
親しかったのか、そうでなかったかさえ朧気だ。
奇跡。
奇跡か……
その単語が、アギロとの会話を思い出させた。
『わたし達には、誰かや何かに信仰されているかどいかはまったくもって関係が無い。そんな事で存在強度や能力、強さを劣化させるなんて、所詮その程度の存在なんだよ。他者に何であれ揺らされるなんて、弱さの証だからね』
当たり前の様に告げるアギロ。
それが世界の理だと高らかに。
『強ければ強い程、完璧であればある程、何かに干渉されてもまったく変わらないものだよ。何も持たないなら奪えないかもしれない。だからと言って、持っている存在から何かを奪えると考えるのは、それこそ傲慢が過ぎるよ。完全だから、完璧だからこそ、付け入る隙が無いものだからね。奇跡は無いよ。起こらない。彼岸の力の差は絶対だ。ジャイアントキリングが起きるとしたら、その程度なんだよ。所詮はどんぐりの背比べ、五十歩百歩でしかない』
優しく微笑みながらのアギロの言葉は、どうして凍えるようだと思ったのだろう。
温かな笑み。
いつものアギロの笑み。
なのに――――
ああ、前世の両親の事が、現在の両親の事が、浮かんできて消えない。
幼馴染の皆の言動が私の理解の範疇外だからだろうか……
考えるのを逃亡した結果、前世と今の両親の事に囚われてしまった……?
父と母では、私に対しての接し方が違った、と思う。
前世でも、だ。
今の父は私をとても大切にしてくれるけれど、私が間違えたら諭して窘める。
母は基本的に優しく見守っていて、父の暴走に歯止めをかける、という感じだった、と思う。
私が考え込んでいると、寄り添ってくれるのも常だった。
前世の父は、私を思う通りに動かしたがった、と思う。
今考えれば、だけれど。
所有物、だったのだろうか……?
前世の母は、私を無視する事が多かった、だろう。
そして自分と少しでも同じだと嫌がった、と思う。
だが、私を連れ回すのは好きだった、様な気がする。
私が意にかなっていれば機嫌は良かったのだ、と思う。
あれ? 前世の両親はそろって私が自分達に従順でいる事を望んでいた?
ああ、根本は前世の二人は同じなのだ。
現世の両親も夫婦で根っこは同じなのだと思うけれど、うん、前世の両親の様な、一緒にいるだけで感じた息苦しさを感じた事が一切無い。
今更気が付いた。
前世の両親と居ると、息が上手く吸えなくなる感じがした。
窒息死しそうで、本当は怖かったのだ。
それが現世の両親には感じた事がまるで無い。
温かくて、居心地が良くて……
帰りたい場所、なのだ。
前世の私が息が出来た場所は、勇だった。
舞ちゃんも居心地が良かったし安心だけれど、帰りたい場所は、勇なのだ。
ああ、お前は姉だから、家族に全力で尽くすのが当然。
それを拒絶するのは人として最悪最低な事だ、と初めて言ったのは、前世の父、だった。
それ以降は前世の両親揃って言う様になって、弟達もそれが当たり前、だったと思う。
これはちょっと違うのではないか、と転生して今更ながら思う様になった。
姉だから、ではなくて、家族だからだと思ったし、全力で、は、家族が困ったり大変な時で良いのではないか……?
こう思えたのは、ギルとリア兄妹やリーナとウル、フェリーの姉弟を見ていて、だろう。
イザークは……
ああ、そうだ、イザーク。
現在の弟のイザーク。
あの子は、今、どうしているのだろう……
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