第91話
ベッドに入り寝ようと目を瞑ると、先程までのリーナとの会話が脳内に響いていた。
「あのね、瑠美。このままエルザがギルのイベントをこなすのはそれはそれで危険じゃないかなって思うの。エルザは皇妃候補筆頭な訳でしょ。だから他の男性と恋愛沙汰はスキャンダルにしかならない。シュヴァルツブルク大公爵家にとっても良い事じゃないのは分かるよね。だからギル様も皆でってしたんだと思う。だからちょっとゲームからのこの変更もそうだよねとは思ったのよ。現実に合わせた上で確かにエルザを思えば一対一であまり会わない方が良いからね。ギル様が貴族として普通の感性してたらそうなるって瑠美を見たら落ち着いたから、うん、それは良いの。否、良くもないんだけどね。誰かが、何らかの意思でエルザを失脚させようとするなら、この点とかも突いてきそうだとは思ったのよ……まあ、一番の危惧は違うけど、一応さっき言った事も頭に入れておいて。もしかしたら何処かの誰かがエルザを追い落とそうとするのなら、恋愛スキャンダルは好都合だって事は。だってエルザは基本的に高評価だし、家柄的にも血筋的にしても力的にも容姿的にも幻獣にしろ誰にも文句は言われない。むしろ文句を言った相手が皆から非難される。それを覆そうとするのなら、エルザが皇妃に相応しくないって思わせれば良い訳よ。そうだとすると、一番手っ取り早くて確実なのよね、恋愛のスキャンダル」
言われれば確かにそうなのだ。
私は幸い貴族のトップである筆頭大公爵家の正式な娘で、祖母は皇族、母は他国の王族、魔力無しだから妃としては文句も出ない。
容姿にしても、私は皇族の特徴である金系の髪に青系の瞳だから尊重される上に、幻獣は皇族しか選ばないというドラゴンだ。
客観的に見ると非の打ち所がない、と思う。
言動もなるべく人前だと気を付けているけれど、絶対にボロが出ていないとは言い切れないから、これは問題だと個人的には思うけれど、私の利点である魔力無しという事で全ては覆されてしまうのだろう。
成長して思ったのは、魔力無しに対する周りの態度だ。
劣る存在として軽んじられるのではないかと当初は戦々恐々と内心はしていたし、誰の役にも立たないと落ち込んでもいたから。
それが違うらしいと、ルーに言われて気が付いた。
皆は私から距離を置いているのではなくて、真綿に包んで大事に大事に、という感じだったのだ。
それはお茶会でもそうで、私に話しかけないのは、どうやら何か言って私が傷ついたらとか色々私を慮って考えた結果、自分からは難しかったらしい。
そうアーデルハイト様達に後に言われて、そういうものかとも思った。
どうやら周りの認識としては、魔力無しは全てにおいて大事に大切にしなければならない存在であるらしく、絶対に傷つけてはいけない、という認識なのだとか。
それに加えて私の祖母の事とか、私の家柄の事、容姿、幻獣と全方位尊重せざるを得ないらしいのである。
これは私的には本当に居た堪れない。
自分がたいした存在だとは思えないのはいつもの事だからだ。
どうにも客観的に見れば周りの反応は理解できる。
だが、だからといって私が納得できるかと言われれば疑問符でしかない。
難しい。
非常に難しいのだ。
大切にされればされる程申し訳なく思ってしまう。
だから何か役に立ちたいのだが……
ああ、そうだった。
リーナの一番の危惧。
エリザベートが転生者か否か。
リーナは自分以上にゲームを知っていたら厄介だと言っていた。
ゲームの内容がほとんど朧気の自分よりも優位に立たれると面倒だ、とも。
そして、エリザベートが現在皇帝陛下と第三皇子殿下の加護を得ているのも危険だと顔をしかめていた。
私にとってはいくら注意してもし過ぎという訳ではないと、そう忠告してくれたリーナ。
”遅咲きの桜”のイベント。
ゲーム知識のある転生者であった場合、現れる可能性は高いかもしれないとリーナは言う。
その上、転生者でない場合でも、ゲームと同じ展開にする補正があった場合は現れるだろうとも。
リーナの想定している事態は三つ。
一つは転生者でゲーム知識があり、フリードリヒとのイベントの為に現れるというパターン。
二つ目は転生者ではなくゲーム通りになる様に補正が働いたというパターン。
三つ目は、転生者でゲーム知識もあり、尚且つゲーム通りにな補正が働いたパターン。
一番警戒しなければいけないのは三つ目のパターンだというのは私にも分かる。
これをどう見極めたら良いやらとリーナは思案しているらしいのだが、有効な手段が分からないらしい。
ボロを出してくれたらめっけもの、位の意識だと嘆息していた。
何か良い手段でもないかと考えてみたが、相手次第なところも大きいかなぁというのが私の考えだ。
どんなに上手くいったとしても、相手が上回ったらお仕舞である。
本当に、どうしたら良いのだろう……
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