第85話

 ベアトリス様とアーデルハイト様がどうなってしまわれるかが分からないので、取りあえずリーナと二人、パンケーキは食べ終えておこうという意見で一致し、お二人の結果を案じながら雑談を交わしつつ食べ終えた頃、お二人が戻ってきた。


「どうでしたか……?」


 下を向いておられるお二人に、思わず前世の母達が思い起こされて心配になりながらおずおずと私が訊ねると、


「――――エルザ様! ありがとうございます!!」


 ベアトリス様が顔をパッと輝かせながら、私にお礼を言いつつ手を握る。


「本当にありがとうございます、エルザ様!!」


 アーデルハイト様は幸せそうに微笑みながら、私に更に手を重ねる。


「ええと、その、どうなりましたの……?」


 リーナと顔を見合わせてから、思わずお二人に訊ねていた。



 お礼を言われる様な事はした覚えは無いのだけれど……

 だから純粋に不思議だったのだ。


「も、申し訳ありません! 浮かれてしまいきちんと状況説明が出来ておりませんでした……」


「わたくしも嬉しさのあまり……申し訳ありません、エルザ様……」


 激しく狼狽してしまわれたベアトリス様とアーデルハイト様。


「悪い事はおこらなかったのですね。それでしたらゆっくりで構いませんから」


 私が微笑んで言ったのに続き、リーナが優しく諭す。


「お二人共落ち着いてくださいませ。座ってお茶でも飲まれては……?」


 ベアトリス様とアーデルハイト様は恥ずかしそうにしながら座り、お茶を一口飲まれた。


「上がっておりましたのね……ようやく落ち着きました」


 ベアトリス様は頬に手をやって溜め息を吐いておられる。


「わたくしもですわ……想像以上に舞い上がっていたようです……」


 アーデルハイト様はペタペタと頬を叩いていらっしゃる。


「大丈夫ですか……?」


 私が案じて訊ねるとお二人は微笑み肯いた。


「はい。あの、恥ずかしながらお話させて頂いてもよろしいでしょうか……?」


 ベアトリス様をそう仰って自分を落ち着かせる様に指を組む。


「わたくしも大丈夫ですわ。あの、是非お二人に話を聞いて頂きたいという身勝手な我が儘ですけれど、あの、どうしてもエルザ様とカタリーナ様にお話を聞いて頂きたくて……」


 アーデルハイト様は頬を赤らめ真剣な眼差しになられた。


「エルンスト様と話しましたの。出来る限り自分の思いを伝えたと思います――――そうしましたら、エルンスト様が今までわたくしを傷つけていたことを知らなかったと謝って下さいまして、一緒に選んで下さるとも仰いまして、わたくしときちんと話すとも仰いましたの! わたくし、本当に嬉しくて……!」


 ベアトリス様は嬉しくて嬉しくて堪らないという笑顔で笑み崩れいている。


「ギュンター様も、わたくしを悲しませていたことに気が付かなかった事を謝られましたの。それからわたくしときちんと向き合うとも仰って下さいました。これから一緒に食材やお弁当箱を選ぼうとも仰って下さって、わたくし……!!」


 アーデルハイト様は感極まってしまわれたらしく、涙ぐんでおられた。



 私はリーナと顔を見合わせてから、思わず顔が綻んでしまう。

 私の母と叔父の様にはならなそうな事に心から安堵する。


「それは本当に良かったですわ」


「ええ、本当に。心配しておりましたのよ。ですけれど、待ち合わせはどちらで?」


 リーナが訊ねると、ベアトリス様とアーデルハイト様は顔を見合わせてから慌てて


「――――そうでしたわ! すっかり頭から抜け落ちておりました。あの、他に良い場所も知りませんでしたので、この店で待ち合わせをと言う事に……」


 ベアトリス様が仰った言葉に続きアーデルハイト様も落ち込みながら


「わたくしも他に良い場所を知らないものですから……」


 私とリーナはまた顔を見合わせてからコクンと肯く。


「そうでしたの。それでしたらわたくし達は席を外した方が良いですわね。お茶を飲み干せば良いだけですし、直ぐに失礼致しますわ」


 私がそう言ってから安心して欲しくて微笑み、リーナも恐縮しておられるお二人に優しく微笑みながら


「気になさいませんよう。エルザ様もわたくしもお二人が幸せになって下さるのを祈っておりますから」


 ベアトリス様もアーデルハイト様も酷く落ち込んでおられるから心配して


「あの、わたくし達は大丈夫ですわ。本当に気になさらず」


 私がお茶を飲み干してそう言いながら立ち上がると


「このお礼は我が名と一族の名に懸けて必ず致しますから! 本当にご無礼ばかりで恥じ入るばかりです……」


「わたくしも我が名と公爵家の名に懸けてお礼は必ず! 至らぬ事ばかりで本当に申し訳ありません……」


 悄然と肩を落とすベアトリス様。

 意気消沈のアーデルハイト様。


「折角お慕いしていらっしゃる方に会われるのですから、その様な表情では駄目ですわよ? わたくし達は大丈夫ですから。リーナ、失礼しましょう」


 私が微笑みながら言うと、リーナも笑みを浮かべながら


「ええ。折角の美人が台無しですわよ? 本当にわたくし達は平気ですわ。それよりもお二人共楽しまれて下さいね」


 リーナと二人連れ立って会計を済ませ、お二人に笑顔で手を振って店を後にした。

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