第63話

 リーナは腕を組みつつ


「まあ、強制力については、今の所ないから、注意はしておこう、って所か。あのさ、私とエルザの共通認識として、人間には世界の創造は不可能、って事で良い?」


 私が肯くと、リーナは額に手を添えながら


「確かに、物は百年経れば命が宿る、とも言うし、知っているけれど、あのゲームは発売からそんな年月経っていないし、考えてみても、人間の凄い魔法使いや魔術師が居たとして、それでも世界の創造とか出来ないだろうと思う。そもそもそれが出来たら人間の範疇に含まれないでしょ。なら、精霊か妖怪かという事に成るけれど、やっぱりそれが出来たら、そもそも神クラスでしょと思った訳だ」


 リーナの言葉に、気になった点がある。


「あの、精霊や妖怪って言っていたけれど、その、見た事あるの……?」


 リーナは目をパチクリとし、


「え? 前世で何度も見た事あるよ。妖怪だと黄昏時とか、天気雨の時とか、深夜だったり。割と居るよ」


「精霊、も……?」


 訊ねてみると、リーナは肯く。


「うん。居た居た。年月の経った物とか木とかに宿ってたし。後はフラフラしてるのとか居たね。まあ、私が知る限り一番凄い精霊は、っていうか、あれは神クラスだと思うけれど、そいつは母方の実家に居たし」


 何というか、こう、眩暈がしてくる様な、気がする。


「神クラス……? そういうのも、その、居たの……? しかも、母方の実家に……?」


 リーナは思い出す様な遠い目をしつつ


「居たのよ、これが。神話の時代から、つまりは縄文時代かそれより前かは分からないけれど、それ位古い木らしいよ。


「元々? どういう事なの?」


 私の問いに、リーナは腕を組みつつ、思い出す様に


「あのね、元々在った場所に、母方の先祖が良く遊びに来ていたらしいのね。その先祖も霊感が有ったらしくて、当時すでに精霊に成っていたその木、まあ、欅なんだけど、その欅の木がね、そのご先祖が婿に行く事になってさ、凄く欅としてはそのご先祖を気に入っていたらしくて、なら自分も付いて行くって決めて、自分の木の種子から生まれた欅の小さな木に、自分の全てを移したらしいんだ。それで、御先祖はその木を婿に入った家の庭に植えた訳。で、時が過ぎて、今度はそのご先祖が植えた場所がダムの底に沈む事になってね。で、一番力が有って気に入っていたひいじいちゃんに、欅の精が頼んでさ、また小さな若木に自分の全部を移して、今のひいじいちゃんの家、つまり、母方の実家に植えられた訳。もう結構太いんだけどさ、ひいじいちゃんは心配して、その欅の種から沢山子供を作ってね、欅の盆栽に仕立てて、不自然に思われない様にしてたのよ。まあ、ひいじいちゃんは、周囲に欅の盆栽が大好きって思われてるんだけど、実際は、いざって時に持ち運びが簡単な様に、欅を増やしてるだけなんだけどね」


 何とも壮大な話に、クラクラしそうだ。


「神クラスっていう位凄かったの? その、魔力とか、霊力とかあれば分かる感じなのかな……?」


 リーナは首を傾げつつ


「どうなんだろうね……確かに、一目見た瞬間から途轍もなく凄いのは分かったけどさ……ただ、あの木、周囲の守り神というか、そんな感じでね。嫌なモノとか、悪いモノとか、力の効果範囲には居られなかったよ。人も含めてね。だから、私も母方の実家はいやすかったんだけど。後、そうだなあ、あれだ。その地方が旱魃っぽくなったらさ、昔から雨を降らしていたりとか、長雨が続いたら晴天にしたりとか色々していたらしいよ。だからダムの底に沈むってなった時は、その集落の人達とか、周囲の集落の人達、移転させようって思ったらしいんだ。だけど、ひいじいちゃんが連れて行くって言ったから、納得されたとかなんとか……だからだろうけれど、ひいじいちゃんの家に、私が死ぬまでの間にも詣でる人結構いたよ。昔から母方の一族は、霊感あるってその集落と周囲に有名で、その欅の守り人役というか、昔は名主というか庄屋だったから、尊敬集めてたって聞いてる。だからか、その集落の、ひいじいちゃんの一族の事知ってた人から話聞いた、とかで、霊関係の相談に来る人、かなりいたからなあ。昔から、失せもの探しとか、霊障の治療とか、除霊とか、相談されたらしてきた一族らしいんだわ。一族皆、見えるっちゃ見えるんだけど、特に強い子が稀に生まれてきて、そういう子が跡を継いで、そういう霊関係の事とかもやってきたんだってさ」


 後半、どこか空虚な、空ろでありながら悔恨を込めた様な表情に、心配になる。


「リーナ?」


 彼女は慌てた様に手を振ってから、苦笑する。


「ごめん、ごめん。これは今関係なかったね。悪い、色々思い出しちゃってさ」


 そんなリーナに、私は、真摯に答える。


「リーナ。話しづらい事なら聞かないけれど、何か話して楽になる事があるのなら聞くわ。いつも私の話を真剣に聞いてくれているじゃない。だから、私もリーナの話、しっかり聞くよ。いつだって構わないからね」


 リーナは、虚を疲れた様な表情に成ってから、また苦笑した。


「本当に、大したことじゃないんだよ。ただ、転生とか、世界の事とか考えていたら、無性に前世の事が頭から離れなくてさ――――……うん、瑠美、私の話、聞いてくれる?」


 それに私は力強く肯いた。


「勿論!」

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