第62話
夕食を部屋で摂り終わり、リーナを待っていた。
夕食前に作ったお菓子のラングドシャは、お花のお礼に今日の内に渡してしまおうと準備完了。
何も飲まずに話すのも何だしと、侍女達がお茶を淹れてくれる事になったから、先程作ったラングドシャ作りで余った卵黄を使った、卵黄プリンも出そうと準備は完璧。
アデラとルチルは今日も眠そうで、私が帰ってきてから眠りにつき、今もスヤスヤと睡眠中。
さあ、後はリーナを待つだけとニコニコしていたら、チャイムが鳴る。
「どうぞ」
鍵を開けると、普段着らしい、黄色系のワンピース姿のリーナが登場。
私は、お昼寝やら料理がしやすいラフな格好のままで、失礼になるかもしれず、着替えれば良かったかと若干落ち込む。
「エルザ、時間を取ってくれてありがとう。これ、遅れたけれど、誕生日プレゼント。面会謝絶中に誕生日だったでしょう? お見舞いに行った時は、お見舞いの花で、今回のは誕生日のプレゼントだからね」
ソファーに座りながら、リーナは微笑み、手に持っていた、暖色系と白のフリージアの花束を差し出す。
「わあ、ありがとう! 綺麗ね。私、花は基本的にどれも好きなの! あ、そうだった。後でお見舞いのお礼、渡すね」
目を見開いてから、満面の笑顔でお礼を言う私に、リーナは苦笑。
「喜んでもらえたのなら良いけれど。でも、お見舞いのお礼まで用意させちゃって、ごめんね」
私は慌てて
「そんな! 気にしないで。嬉しかったから、お礼したいと思っただけだから」
リーナは微笑み
「ありがとう、エルザ。それで、二人っきりで話をしたいから、侍女達は下がらせてもらえる?」
リーナの言葉に侍女達を見ると、
「それでは、お花をお預かりいたします。お茶はお淹れしましたので、おかわりはご自由にお楽しみ下さい」
そう言って私の持つ花を持ち、侍女達は退出していった。
リーナは、意を侍女達が居なくなってから、意を決した様に私を見る。
「あのね。あれから私なりに考えてみたのよ。それでさ、今まで、ゲームの設定と同じというか、似た出来事が、登場人物には起こっているでしょ?」
私は肯きながら
「ええ、確かに。私は拐われたし、フリードはルーに対してのコンプレックスがあるし、フェルは容姿についてのコンプレックス。イザークも寂しさというのは同じみたいだし、シューは魔力が強くて色々問題を抱えていた。ディルは売られて私と出会った。エドやギルは違うみたいだけれど、ゲームの主要登場人物と同一らしい人達が、これだけゲームと似た設定通りなのも、上手く言えないけれど、ざわざわする」
私の言葉にリーナは肯きながら
「うん、落ち着かないよ。それに出来事が似ているからか性格も似ているしね。私はさ、ゲームと似てても、エルザに言われるまで、特に疑問に思った事はなかったんだよね。ゲームの世界に転生しちゃった、位でさ。でも良く考えたら、ゲームの世界って何だよって、思った。そうなんだよ、ゲームの世界なんて、おかし過ぎる。ゲームの物語世界に、どうやって行ける訳? それに一番気になるのは、そのゲームの世界には、命は宿っているの? 単なる、人間の創作物だよ? そりゃ、登場人物が勝手に動く、なんて話は、小説家や漫画家から聞くけど、それって比喩的なものでしょ。それなら、単なる背景の植物とか動物にも命が宿るのは変だって話。私が今までこの世界で出会った人達、生き物には、全て、命が宿っていた。魂があるかないかは、私には、分かる。それで、今まで魂が宿っていなかったモノは、見た事が無い。なら命は宿っているし、魂も、ある訳だ。創作した世界丸ごとに命と魂を宿らせるなんて芸当、人間には不可能でしょ。宿っていないのなら、プログラムされた事以外、出来ないと思うのよ。高度なAIなら違うかもしれないけど、そんな技術使っていたとも思えないし、理由が分からない。なにより、人間の創作物の中に、どうやって入るんだってなるし。だいたい、命と魂がこの世界のモノには宿っているんだから、ゲームの中って事は無い。なら、世界を創造し、その世界の全てに命も魂も与えられる存在なんて、それこそ造物主、創造主って言われる、神、しか、居ないと思うんだ」
飲み物を飲み、ちょっと一息吐いたリーナ。
続けて彼女は
「ああ、ごめんね。まだ上手く整理出来ていないんだ。ええと、私の話、分かった?」
私なりに、何とか理解した事を告げる。
「つまり、人間の創作物の中に入るなんてあり得ない。世界を創造し、命も魂も与えられる存在は、神様しかいない、という事で、良い?」
リーナは我が意を得たりと言った感じで
「そう! そんな感じ! それでね、ゲーム設定と似た様な展開がある、っていうのはさ、世界が、誰かの書いた脚本通りに進んでいるって事じゃない? この世界では、”月華のラビリンス”ってゲームのね。その通りになるべくそうように世界が動いているのなら、その脚本を設定したのも、脚本通りになる様に世界を設定したのも、世界を創造した存在だと思う訳だ。それで、世界を創造する、なんて出来るのは、神しかいないと思ったんだよ」
私も、確かにと思っていると、リーナは続けて、
「比喩じゃなくて、世界を創造して、比喩じゃなく、その世界の全てに命や魂を与えられる存在は、どう考えても、人間には無理だと思う。なら、この世界は、誰かが、私達が元居た世界の、元居た国で創られた、”月華のラビリンス”というゲームを元にしている、のだと思うのね。なら、疑問。どうして、数ある創作物の中から、それを選んだのか? これがまるで分からない。本当に、どうしてよ?」
私も首を傾げつつ、
「単に気に入ったから、とか?」
私には、これくらいしか思いつかない。
「それだけが理由で、世界を創ったりする?」
リーナの懐疑的な表情に、そうかもとも思うが
「でも、それ以外の理由、考えつかないなぁ……それなら、どこの世界の神様が、わざわざゲームと似ている様に世界を創ったのかな? それに気になるのは、ゲームと全て同じではない所。世界まで創ったのに、どうして違いを盛り込むという事をしたのか、これがまるで分からないと思うの」
私の疑問に、リーナも眉根を寄せつつ
「ああ、うん、だよね……なら、全く同じになる様な強制力は、無い、って事で良いのかな……?」
リーナの言葉に、私も首を傾げるしかなかった。
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