第27話

 リーナとレストランから戻り、意見交換。


「ねえ、エルザ的には、ルディアス殿下とフリードリヒの話、どう思った?」


 リーナの言葉に、思わず眉根が寄る。


「つまり、私はリーナともあの男とも離れた世界で、リーナとあの男は私よりも近い世界って事なのかな……?」


 私なりに整理した感想を述べると、リーナも困惑顔。


「うん、そうらしいね……ねえ、元居た世界を出たタイミングが違うから、で、私はおかしくないとも思うけれど、エルザはどう?」


 私なりに考えて答える。


「私もそれでおかしくはないと思うよ。リーナは死んで、直ぐに転生したと思えるくらい、死んでからの記憶は無いのよね?」


 リーナははっきりと肯く。


「うん。死んで、気が付いたら転生してた。あの男は、私より先で瑠美より後死んで、瑠美より先にこの世界に来て、私達より先に転生した、って事で良いのかな……」


 リーナの意見に、私も肯く。


「たぶん。もう調べる術が私達にはないから、憶測しかないけれど、それで良い、と思うよ。それよりも話を聴いていて不安になったのが――――」


 そこで言葉を切ってしまった。

 考えれば考えるほど、怖いのだ。


「ああ、操っていた人が分からない点と、操っていたと分からない様にされていた、というより、思考が回らなくなっていた、もしくは考えられない様にされていた事、かな?」


 リーナは私が途切れさせた言葉を引き継いでくれた。


「……うん。魔法学校内では魅了とか、暗示とか、操作系の魔法は使っちゃいけないし、防御装置みたいなのもあるって聞いていたのに、操られた人達がいて、特に私は魔力無しだから、魔道具を使ったとしても防御する術が無いのも一緒で、余計に怖いなって……」


 今朝は考える余裕もなかった訳だが、振り返れば、本当に怖い事だと思ったのだ。


「カウンター系は使っても良いんだけどね……でも、ハンバートは、あの皆が硬直していた中でも普通に動けた訳だよね……?」


 リーナの言葉に首を傾げる。


「そうだけど、それがどうかしたの?」


 リーナは苦笑しつつ


「いや、不思議だなぁって思っただけ。攻略対象だから、もしからしたら何かイベントの一環だったかもしれないしとは思ったけどね。私は色々もう忘れてるから、思い出せないだけなのか、それとも……」


 悩みつつ言葉を濁すリーナ。


「それとも?」


 私はリーナが何を危惧しているのか分からず、聞いてみたのだが


「ま、気にしすぎかもしれないしね。気を付けなきゃいけないのは分かるけど、考えすぎでドツボってのも問題だよ。あれだ、幽霊の正体見たり枯れ尾花、って奴もあるかもしれないし」


 リーナは明るく言って苦笑している。


「ああ、幽霊だと思ったら、ススキの穂だったってことわざだったよね?」


 私が思い出しつつ答えたら


「そうそう。だから怖がり過ぎても物事をきちんと見れなくなるかもしれないからね。注意するのは大事だけどさ、し過ぎは禁物、だと思うよ。線引きも難しいけどさ。とりあえず、一人で悩まない様にね」


 私を案じるように心配そうに見つめつつ、忠告してくれるリーナ。


「うん、分かった。気を付ける」


 リーナみたいな友人がいる事は、私にとって本当に有り難い事だ。

 改めて、自分は恵まれているなと痛感する。






 翌日の朝食も何事も無く過ぎた。

 ディルやシュー、ロタール達は、夕食は一緒に摂るとの事で、朝食は別々だった。

 平民の子達が特攻してくる訳でもなく、エリザベートの登場も無かったのだから、本当に平穏だと思う。



 今日から本格的な授業が始まるのだが、教室で皆と授業を受けるのは本当に久しぶりで、何だか泣きたくなってしまう。

 昨日はオリエンテーションだけだから、そうでもなかったが、いざ授業となると、とても感慨深くて、胸が一杯になる。



 教室の窓からの眺めも良くて、春の花の芳香交じりの風は心地良く、気分も高揚してしまう。

 クラスの人達は貴族ばかりで顔見知りも多いし、何よりリーナと同じクラスだから安心感が凄いのだ。



 エリザベートとは別クラスなのは、精神安定上、本当に助かる。

 リーナに言われても、私はまだ、彼女とどう接して良いのか分からないままなのだ。



 まるで前世の英里との関係に似ていると、苦笑が漏れる。

 そう、英里に対しても、私はどう向き合って良いか分からず、距離を置いたまま死んでしまったのだ。



 彼女に対して申し訳ない気持ちが消えず、彼女が私を嫌うのも当然だと思っていたから、何も出来なかったのだ。

 今回は、同じ轍を踏みたくないと思っている。

 でも、どうして良いのかも分からない……



 そんな事を考え自己嫌悪しつつ、今日の授業を全て終え、着替えてから島の探検をしていた。

 はっきり言えば、気分転換だ。

 部屋からの眺めも申し分ないのだが、籠っているよりは歩いて頭をスッキリさせたかった。



 一人になりたかったから、アデラとルチルにはお留守番をお願いしてしまった。

 注意する様にとの皆からの忠告はきちんと理解していた。

 それでも一人になって、色々考えたかったのだ。

 入学早々から色々有りすぎて、ちょっと頭がこんがらがっていたから、それを解したかったのもある。



 島を色々探索していて、人の気配はないが、眺めが抜群に良い岸辺とそれに続く野原、その野原の後ろの林を発見。

 野原からの岸辺と湖の様子は、本当に見応えがある。



 日差しの感じからも、日向で気持ちが良いのが分かって、居心地が良さそうだ。

 街や他の島も見えるし、穴場かも……!



 ウキウキとしつつ、野原に座り、湖をただ眺めていた。

 誰も人は来ないし、気楽で良いなぁ。

 これなら頭もスッキリしそうだ。

 思った以上に疲れていた私は、自然が豊富なこの場所にいるとかなり回復しそうで、助かる。

 これからはこの場所に頻繁に来ようかなぁ。



 そんな事を考えていた私に、声がかかる。

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