第26話
今回の食事時は何事も起こらず平穏無事に過ぎ、皆が食べ終わり、ルーとフリード、私、リーナの四人以外は退席した。
ちょっと食事中にエドが言っていた事を思い出してしまう。
話題が今朝の事になった時に、ギルが憤然と言ったのが始まりだったか。
「しかし、あれは何なんだ? 操られていたとしても、異常すぎる」
エドが茶化した表情ながら、目が真剣だったのを思い出す。
「確かにね。だって彼女達、絶対に普通の状態じゃないよ。自慢じゃないけど、初めて俺達を見て普通に話すとか絶対に出来ないから。まして両殿下を視ても思考停止しないなんてあり得ない。あれでも両殿下は周囲に馴染む様な魔導具を常時使われているけど、初見じゃまず間違いなく凝固するから。貴族だろうと機能停止必須だよ。ましてやただの平民が、確実に耐えられる訳がない。彼女等は多分一年だろうし、全員が両殿下にお会いした事があるとも思えない。お会いした事があったとしても、見惚れず普通に話かけるとか、絶対に無理だから。ハンバートみたいに抵抗力を上げてた形跡も無いしね」
改めて思うのは、私、ちょっと普通じゃないらしい事、だろうか。
ルーもフリードも凄く綺麗だと思う。
でも、それだけだ。
それは彼等を彩る一要素にしか思えないし、思考が停止した事も無い。
綺麗だとは思うが、それだけだ。
機能が停止した覚えはない。
エドの話だと、美術品的な感じで見惚れる私は、どうもかなりの少数派のようだし……
これは、私が異能力を所持している事と、やっぱり何か関係してくるのかな……
「エルザ? それで、私に話とは何だ?」
ルーの言葉で、思考が明後日に逸れていたのを立て直し、ぺチンと頬を叩いて、気合を入れる。
「あのね、私とリーナが、同じ世界から来たのか、視て欲しいの」
私の問いに、首を傾げるルーとフリード。
「視て欲しいと言うのならば、まあ、視るが……」
ルーはそう言いながら、私とリーナをしばし視て、溜め息。
「ふむ。とても良く似てはいるが、微妙に異なる印象だな。フリードリヒ、どうだ?」
ルーに訊ねられ、フリードは目を瞬かせる。
「私も視るのか?」
ルーはさも当然と言う表情で
「そうだが」
フリードが苦笑しつつ
「ルディアスが視たのであれば、私は必要ないとは思うがな」
そう言いつつ、こちらを視るフリード。
「ルディアスと同様の印象だな……以前の転生してきたという男とも、エルザもリーナも似てはいるが、違う所のように思う」
フリードが付け足した言葉に、リーナが息を飲む。
「ありがとう、ございます。私達も、あの男も、似てはいるけれど、皆違うのですね?」
私の言葉に、ルーが眉根を寄せつつ
「そうだな。ただ、あの男とリーナはとりわけ近い世界の印象だな。エルザは二人と、より異なる、という感想だが」
「ああ。確かに、三人共それぞれ違うとは思うが、リーナとあの男は微妙に異なる中でも近く、エルザは離れている印象だ」
ルーの言葉とフリードが肯きながら言う言葉に、ちょっと悩む。
リーナと顔を合わせ、お互い困惑。
「そうなのね……わかりました。ありがとうございます、ルー様、フリード様」
私の言葉に、ルーは苦笑。
「防音はしてある故、普通で構わぬぞ」
「そうだな。エルザに敬語を使われると、妙な印象だ。普通で良い」
フリードもそう言うのだが
「ですが、普段から使い慣れていませんと、肝心な時に普段通りになってしまいかねません。昨日も今日も、言葉遣いは拙かったと自覚はしております」
私が二人に失礼にならない様に言ったら、
「距離を感じる。エルザがそう話すのは、緊張している時ではないか。嫌だ」
ルーは不満そうに顔を歪めつつ、声は不機嫌。
「私もあまり嬉しくはないな。実際、エルザが敬語で話す相手は、エルザと隔たりがある相手ではないか」
フリードも表情は明るくない。
「ですが――――」
私の言葉を遮り
「い、や、だ!」
ルーが何やら強い口調で言葉を切りつつ、反対するし
「エルザの立場が悪くならない様にする。ダメだろうか?」
フリードは真剣に懇願して来るしで、思わずため息が漏れる。
「……そういう問題ではない気がするのですが……」
そんな私に、リーナが一言。
「諦めも肝心かもしれませんよ」
また溜め息が漏れる。
「分かったわ。でも、無理な時は無理だからね」
私の言葉に、ルーもフリードも表情を和らげた。
「うむ。分かった」
ルーが満足そうに言えば
「そうか。努力する故、安心して欲しい」
フリードは嬉しそうに微笑をもらす。
久しぶりに昨日会った訳だが、二人共、何だか、こう、アレって感じが増量していないか……?
どうも私が大変になる様な気がするから、思考を逸らしてみよう。
平民の子達が色々問題を起こした時、今考えると、エドの言う通り、凄くおかしいのだ。
あの時、皆固まっていた印象がある。
それこそ、周囲に居た高位貴族達や、ギルやエド達でさえも。
動けたのは、ハンバートさん、だけ。
これは、何かあるのだろうか。
いつもこういった面倒事には機敏に反応するエドが、特にアクションを起こさなかったのも気になるし……
それに、ルーもフリードも、操られている点についても、ハンバートさんが行動してから分かった様な印象があるのだが……
「ねえ、今朝の事だけれど、あの女の子達、誰に操られていたのか、分かっているの?」
そう、これも疑問だった。
「否、分かってはいない。監視装置にも映っていない上、私もフリードリヒも分からぬ」
ルーが忌々しそうに顔を歪める。
「操られていたのは確かだが、誰か、という点だけが分からぬのだ。これからも何かあるかもしれぬ。エルザも気を付けよ」
フリードは心配そうに私を見る。
「そうなのね。ありがとう、ルー、フリード……でも、気になっている事があってね。二人共、女の子達が操られている事、ハンバートさんが暗示のカウンターを使うまで分からなかった様に感じたけれど、どうなのかな?」
私の問いに、二人共同時に表情が暗くなる。
「そうだな。あの時、あの男が登場するまで全て硬直していたのが、どうも気になる。力も思考も固まるなど、どういう事だと、考えれば考えるほど分からぬ」
ルーは、艶やかな髪をイライラと掻きながら答えた。
「ああ。本当にあの時は異常だったと思う。この学校に入学してから初めての事態でもあるし、あまり良い印象はないな。本当にこれから何があるのか不安でもある。何がトリガーになっているのか……エルザも出来得る限り魂の力を強化し、常に何も影響を受けない様にした方が良いだろう」
フリードは私を安心させる様に微笑みながら、忠告してくれた。
「何度も質問してごめんね。答えてくれてありがとう、ルー、フリード。私も気を付ける様にするね」
私の言葉を聴いて、ルーも表情を和らげ、フリードは優しく肯く。
本当に、明日からの学校生活、気を抜いていたら何があるか分からないのかもしれない。
要、注意、だ。
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