第22話
「ルーと踊っている時も感じてはいたけれど、思考が狭まっていたのと、ルーのお蔭でそれ程気にはならなかったの。でも、フリードと踊っている時は、もう耐えられない位気持ち悪い感覚を味わって……」
思い出しただけでも冷や汗が出そうな程には、嫌悪感がある。
未だにちょっと思い返すだけで、皮膚の上を這い回られている様な錯覚を起こしてしまう位、怖気が走る。
「どういう事? って、エルザ、大丈夫? 顔色もの凄く悪くなったよ? え、そんなに気持ち悪かったの?」
リーナの心配そうな声に、何とか肯く。
「大丈夫は、大丈夫。もう、あの感覚自体は昨日以来感じていないから、思い出しても吐き気は昨日ほどじゃない感じ、かな」
リーナは眉根を寄せつつ困惑顔。
「それは良かったね。でも、未だに思い出すと吐き気って、え、どういう事?」
「えっとね、何か粘っこい、粘着質のモノが、体中をズルズルと舐め回しているというか、ビチャビチャと這いずり回っているというか、そんな感じでね、凄く辛かった……」
感覚を言葉にするだけでも苦痛を伴うとか、本当に何だったのだ、アレは……
「うわ……聞いてるだけでも、ごめん被りたい感じ……」
リーナは顔を顰め、餌付いている。
「あの、話し続けて良い? まだ困惑した事があって……」
私の言葉に、リーナは顔を引き締め、肯いた。
「了解。それにしても、まだあるとか、どれだけトラブルが一気に起きてたのよ……」
疲れた様に溜め息を吐くリーナに、同感。
「そうだね。今日遭ったのは、ハンバートさんと一緒の時に、おかしな感覚を味わった、って事かな」
リーナは首を傾げる。
「ハンバートと一緒の時? 何かあったの? 緊張していたのは知ってるけど、それ以外にも?」
あの時の感覚を思い出しながら、言葉にする。
「何というか、ハンバートさんしか見えなくなる感じ、とか、彼を見つめていたい、みたいなのとか、彼を見ていると動悸が変に高くなったり、熱っぽい視線で見つめそうになる感じがね、したの。それ以外だと、彼に見つめられていると胸が不自然に高鳴る、とか、彼の事以外考えられなくなったり、かな。勿論、頭の別の所では、これはおかしい、私の感覚じゃない。誰かにそうなれと言われているみたいだ、とは思ったよ」
リーナが非常に困惑顔。
「あのさ、自分のものじゃない、誰かに操作されている感覚がしたんだよね?」
それには即座に肯く。
「うん、そうだよ」
「なら、一目惚れじゃない、訳、か。操作されている感覚が無いのなら、単に惚れてるだけだと思うけど、そうじゃないんだから、違うのか……どういう事かな、これ……」
リーナが頭を振って悩みだした。
「……あの感覚って、恋愛感情有だと、納得なものなの?」
私が思わず訊いた言葉に、リーナは肯く。
「たぶん、恋愛的な意味で好きな相手にだと自然な状態かも。私も友達の相談事とか、漫画等から推測するしかないんだけどね。初恋なんて幼稚園の時だし、それ以降、特に好きな人とかいなかったから、分からんのよ」
リーナの苦笑しつつの言葉に、思わず納得。
「私なんて初恋自体した事がないから、そういうのは分からないの。だから、同じに友達の体験談か漫画とか小説とかからの知識だけだよ……でも、そうか、言われてみれば、読んだ事があるね、そういう感情が湧いてくる話」
私の言葉に、リーナはちょっと驚いた様だ。
「え? 恋した事ないの?」
何故リーナが驚いたのか分からず、首を傾げつつ答えた。
「無いよ。何故?」
私の問いに、罰が悪そうな顔のリーナ。
「いや、その、良く話しに上る、前世の従兄弟さんが初恋なのかな、と」
ちょっと、考える。
勇、か。
「――――どうなのだろう? 確かに、私にとって前世の従兄弟は特別だったけれど、それが恋愛感情を所以とするものなのかどうかは分からないなぁ。うーん……本当に分からない……」
真剣に悩みだした私に、リーナは慌てて
「ごめん、ごめん。話が逸れたね。今までの話を聴いてて、気になった事があるんだけど、聞いて良い?」
それに肯き、勇の事は、また封印した。
あまり考えすぎると、ドツボに嵌る可能性大だ。
今朝の夢の事もあるし、考えない方が、良い、という事にしておこう。
「――――何?」
リーナは思案気に
「あのさ、昨日のダンス中の事とか、今朝のハンバートがいた時の事とか、両殿下は気が付いていた感じ?」
ちょっと思い出してみる。
「……えっとね、ダンス中の事だと、ルーは私が単に緊張していただけだと思っていたのだと思う。フリードとのダンス中の事は、フリード、自分と踊るのが嫌なのかと思ったみたい。今朝の事は、二人共何も気が付いていないと思うよ。特に変化も無かった感じだし」
私の言葉に、リーナも肯く。
「だよね。昨日の事は私には分からないけれど、今朝の事なら分かる。エルザが誰かに惚れたかもしれない、もしくは惚れる様に操作されたとして、あの二人が何も反応しない訳がない。つまり、両殿下共、確かに気が付いていない訳だ」
リーナの言葉に、私も肯く。
「うん、私もそう思う。リーナは、何を気にしているの?」
リーナは、眉根を寄せ、眉間を解す様に触れた。
「まあ、私の気のせいであれば良いけれど、って所なんだけどね」
そう言って、一旦言葉を切った後、私を真剣に見つめて告げた。
「エルザ言ってたよね。両殿下は、神々が隠したのでなければ、分かるって。勿論、状態によりけりで、全て分からない場合もあるけれど、エルザの事は、特に良く視えるんだよね?」
「うん、そうだよ」
私の言葉を聞いたリーナは、重いため息を吐いてから、
「ならさ、エルザに干渉した相手って、もしかして神様関連って事じゃない?」
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