第20話
「……大丈夫?」
リーナが心配そうに訊いてくる。
「……うん、あのね、その、エリザベートにどう向き合ったらいいか、本当に良く分からなくて……」
リーナはコクンと肯き、
「ゆっくりで良いから、詳しく説明できる?」
私を案じながら訊ねたリーナに、ちょっと息が吸える感じになる。
「あ、ごめん、飲み物出してなかったね。昨日侍女たちが色々置いていってくれたから、沢山あるの。何か飲む?」
話を逸らした訳ではなくて、何か飲まないと、とても話せない感じだからなのだが、リーナには申し訳ない様な気がする。
「それじゃ、リンゴジュースでお願い」
クスリと笑いながら答えてくれたリーナに、一安心。
「分かった、今持ってくるね」
いそいそとソファーから立ち上がり、キッチンへと足を運ぶ。
冷蔵庫を視て、しばし悩む。
私もリンゴジュースにしようかな。
桃のジュースでは甘すぎて、あまり良くない考えが浮かんできそうだから。
コップにジュースを注いでいると、何やら感慨深いものを感じる。
練習以外で、誰かにジュースを自分で注ぐなんて事は、前世以来だと思う。
お茶のお代わりも私が自分で注ぐことはなく、侍女達の役目だし、基本的に皇族以外だと私の身分は一番上だから、自分で誰かに注ぐというのも礼儀違反。
学校時代は自分でする様にとの事だから問題は無いとはいえ、久しぶりで、何だがくすぐったい様な不思議な感じ。
入院してからも調子の良い日とかは、自分で備え付けの冷蔵庫からジュースを出して、誰かに注いだりしつつ、飲んでいたものだ。
「はい、リンゴジュース」
私はお盆からリーナの元へジュースを置いてから、自分の元へ持って行き、席に着く。
「ありがとう。シュヴァルツブルク大公爵家のジュースって、どれも特別美味しいから、凄く好きなんだ」
嬉しそうなリーナに思わず笑みが零れる。
「他の四大公爵家とエドの家のも美味しいよ。帝宮のも美味しいし。何でも特別な果実を絞った果汁らしいよ」
そう、家のジュース関連と四大公爵家とエドの家、それから皇族用の果汁を使ったジュースって、特別製なんだと聞いて驚いたのを思い出す。
確かに、コクがあって味が深く、のど越しも申し分ない上、何ともいえず美味しいから納得ではあるのだが。
飲んで一息入れ、気合を注入。
「――――理由と言って良いのか悩むけれど、エリザベートが帝宮を追い出される原因になったのって、間違いなく私の所為だから、だと思う」
リーナは眉根を寄せる。
「それって、確か聞いた事があるな。確かエルザにエリザベートが危害を加えたから、エリザベートは、母親諸共帝宮を追い出されたんだったっけ?」
私は、苦い物が湧いてくるのを懸命に抑え込みつつ、話を続ける。
「うん。たぶんそれが理由だと思う。危害を加えたのが一度じゃ無かったから、陛下も第三皇子殿下も断れなかったみたいだし……」
リーナは思い出す様に顔を顰め
「あれって確か大騒動になったんだったよね。一度目の時も相当だったらしいけど、私はまだお茶会デビューしてなかったから家族に伝え聞いた位だけど、それでもかなり話題にはなってた。それが二度目ともなれば、押して知るべしだよ」
リーナをそう言ってから、不思議そうな顔になる。
「でも、それでどう向き合ったらいいか悩むってのはどうして? 悪いのはエリザベートじゃない。エルザが気にする要因は無いと思うけど?」
リーナの言葉に、思わず下を向いてしまった。
「あのね。一回目に突き飛ばされた後、彼女の方から仲良くなりたいって言われたの。突き飛ばしたことを謝られて、これからはもうそんな事はしないって……でも、それをルー達に話したら、皆エリザベートに関わるなの一点張りで……フリードまでそうだったし、私の人を見る目はあんまりないらしいのは自覚もしていたから、ちょっと彼女と距離を置いてみたの。そのせいで二度目の事件に繋がった様な気がして……」
私は嘘を吐いているかどうかは分かると思う。
思うけれど、嘘ではない、何かを隠しての言葉だと見抜けないのだと、以前の経験で解ったのである。
信用出来る人だとかどうかは、特に気にした事はなかったりして、後で酷い目に遭った事もあったな、そういえばと思い出す。
これではルーに以前言った、嘘吐きと信用出来る人は見抜けると言うのは嘘になってしまう。
ごめんね、ルー。
どうやら、私は色々と抜けているらしく、異世界での出来事だったからか、ルーにも分かりずらかったのだと再確認。
「ルディアス殿下やギル様、エド様は分かるけど、フリードリヒまで反対したの?」
リーナの目をパチパチさせつつの言葉に肯く。
「うん。意訳すれば、エリザベートはその母親の意向の元動いているかもしれないから、反対した、って事らしいよ。フリードの場合」
リーナは納得顔。
「ああ、成程ね。エリザベートの母親のドロテーアの事は聞いてる。ゲームじゃ特に詳しく語られなかったけど、こっちの世界の彼女、どうもエルザに対してあまり良い感情抱いてないってのは聞いてた。何か現筆頭大公爵閣下が関わっているらしいけど、家族も言葉を濁してたから、良くは知らないけどね」
私も彼女を何とか見て、肯く。
「ドロテーア様と家との間で何かあったらしい、というのは察せられたのだけど、詳しくは私も何も知らないの。ただ、だからドロテーア様の意向を受けたかもしれないエリザベートが私に近付いて来たのか、それとも本当に単純に親しくなりたかっただけなのかは、私にも本当に分からない――――もし、意向を受けてはいたかもしれないけれど、それでも純粋に私と親しくなりたかっただけなら、私の態度は無かったかなって……ルーやフリード達に反対されても、それでも親しくしていたら、彼女、今とは違ったのかもしれないって……それに――――」
思わず言葉を切り、また下を向いてしまう。
「……それに?」
リーナは優しく問いかけてくれた。
「――――私が原因で、エリザベートとフリードを引き離してしまったから……彼女を独りにしたのは、私、だから……」
ずっと思っていたけれど、誰にも言えなかった言葉は、ポツポツと零れ落ちた。
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