第15話

 この魔法学校の設立は、帝国が国として成立した当初らしく、高等教育学校としては最も古いという。

 設立当初から、この国の最高学府とされてきた、由緒ある学校である。



 学校があるのは、この広大な湖にある一番大きな島で、かなり広い島なのだが、島の全域が学校の敷地である。

 行き来は正門から続く湖を横断する道路か、船での移動となる。

 ちゃんと桟橋だってあるのには驚いた。

 道路は道路で湖の上を行く何とも幻想的な物で、夜だと外灯と相まって、とても見応えがありそうな感じがする。



 寮に併設されているレストランには、特にドレスコードは無いという。

 常識的な服装、とだけなっているのだ。

 当然裸や下着姿など論外である。



 私達は話し合った結果、制服で行こうという事になった。

 幸い、レストランに来てみれば皆制服だったから、三人で胸を撫で下ろしたのである。



 制服は男性だと紺のジャケットと白のパンツで、首元には男性はアスコットタイに、リングで留めるタイリング付で、タイリングの色は銀。

 女性は紺のジャケットと白のワンピースに、首元にはリボンタイ。

 男女共、肩に肩章。

 飾緒も付いていて、双方共色は銀。

 袖口にも、ドラゴンの片方の翼を模して意匠化したものが、銀糸で刺繍してある。



 肩章や飾緒がある学生用の制服は、この学校だけだとか。



 アスコットタイとリボンタイの色は身分で決まっていて、赤は皇族、紫と黒のチェックが四大公爵家、紫が貴族家、黒が士爵家、青が騎士家、灰色が平民だ。



 だから、制服を着てさえいたら身分は分かる。

 だというのに、平民の少女達は、何故よりにもよって四大公爵家の人間相手に、普通の人でも困惑する様な事をしたのだろうか?



 そんな事を思いながら朝食を摂っていたから、味が分からない。



 ヨーグルトに季節のジャム、ああ、今は苺のジャムだな、をかけて食べつつ、ちょっと気分転換。



 久しぶりに会って、改めて思うのは、ギルとエドの事。



 ギルは、綺麗だ。

 本当に綺麗。



 アンドやフェル、イザーク、ディル、シュー、ユーディやリアより間違いなく綺麗。

 一目見ればどちらが容姿が整っているかが分かってしまう位には。



 だが、アンド達だって、ただでさえ容姿の整った人ばかりの貴族の、更に優れて綺麗な大貴族達でさえ足元にも及ばない程、綺麗。



 容姿は魔力が強力であればある程、それに比例して整うという。

 ならば、同じ紫の瞳を持つけれど、ギルは皆より魔力が強いのだ。



 そしてそのギルより、確実に美麗な、エド。



 つまり、エドは皆の中で、ルーやフリードに次いで魔力があるという事、なのかなぁ。

 ルーやフリードは他と隔絶しているから、分かりやすいと言えば分かりやすいけれど。



 色々雑談しつつの食事中だが、かなり思考がずれている感は否めない。



 そんな私が意識を集中せざるを得ない話題到来。


「先程、エルザが見惚れていたと言っていたが、誰にだ?」


 何故にギルは話を蒸し返すのか!


「……ああ、見惚れていたな」


 ルーがとても怖いのですが。

 表情が能面です。

 声も凍えそうです。

 咄嗟にルーから視線を逸らしてしまう。


「エルザを助けた人ですよ。彼にエルザが見惚れていたんです」


 フェルが、余計な一言。

 いや、その、そっとしておいて欲しい感が否めないのですが……


「何、エルザ、一目惚れでもしたの?」


 エドが意地悪そうな笑顔で言う。



 呼吸が、止まる。



 ……一目惚れ。



 今の両親も、お互いに、一目惚れ。



 そして、前世の両親も、お互いに……



 ……ああ、考えれば考えるほど、酷く――――


「ごめんね、エルザ。エルザが一目惚れとかするはずなかった。両殿下の事でさえ、美術品的な感じで見惚れるしかしないエルザが、他の人に一目惚れとか有り得ないよね」


 エドが何故か優しい笑顔で言う。



 それを聞いて、ちょっと、息が、吐ける。


「……ルー、様、や、フリード、様、に対して、私、おかしい、感じなの?」


 何とか搾りだせたのはそんな事。


「あのね、両殿下はさ、常に強力な魅了の魔法を使ってる状態な訳。だから一目惚れしないのは、圧倒的に少数派だよ」


 エドが答えたのを聞き、ちょっと考える。

 魅了の魔法を常時使っている様なものって、容姿とは別に、二人にはそういう効果があるのかな?



 ルーが何故か忌々しそうに呟く。


「肝心な時に役に立たぬとは……!」


 それに苦笑しているフリード。


「仕方がない。それがエルザだ」


 エドは楽し気に笑いつつ


「ま、異性で両殿下に惚れない人なんて本当に少ないから、割と惚れない人には全幅の信頼を置いちゃうんだよね、俺」


 良く分からないのだが、何故に、ルーとフリードに惚れない人を信頼するのだろう?



 あ、思考が、かなり、楽に、なった。

 うん、大丈夫、大丈夫。


「エルザ、もう、息は大丈夫だな」


 フリードが小声で言って、ちょっと安堵した顔をする。


「ごめんね、フリード。気を使わせたみたいで。あの、ありがとう」


 小声でお礼を言ったら、フリードは苦笑する。


「礼ならエドに。私は特に何もしていない」


 そんなフリードに肯いて、エドを見る。


「エド、ありがとう」


 慌ててお礼をエドに言ったら、エドは溜め息を吐いた。


「気にしなくて良いのに。それよりごめんね、エルザ」


 首を傾げる。


「エドが、どうして謝るの?」


 それにエドは眉根を寄せつつ、また溜め息。


「あのね、エルザ――――」


 エドが何か言おうとした時、私達に明るく楽し気な声がかかる。


「あの、相席しても、良いですか?」

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