第14話

「フリード、様、おはよう、ございます」


「ああ、おはよう。皆もおはよう。それで、誰にエルザが見惚れていたのだ?」


 フリード、そこを聞きますか……


「ギル、おはよう!」


 フリードと一緒に来たギルに皆がフリードに答えるより先に挨拶して、ちょっと話をずらしたい感じだが、どうだろう?


「ああ、おはよう。エルザが誰かに見惚れていたのか?」


 何故ギルまで……

 ええい、こうなったら仕方がない。


「私、ギルにも見惚れるもの。綺麗だし!」


 相変わらず、返答が残念すぎないか、私……


「ああ、それは、ありがとう……? これは喜ぶ所なのだろうか……」


 ギルが首を傾げつつ悩んでいるではないか!

 何か言おうとしたのだが


「おはようございます。遅れて申し訳ありません」


 珍しく慌てた様なフェルが急ぎ足で現れた。


「ああ、おはよう、フェル。私より遅いとは珍しいな」


 フリードの言葉に、恐縮しているらしいフェル。


「そうですね。フリード殿下は早めにいらっしゃる事も多いのもあって、早めに皆来るのに。フェルなんて特にそういうの気にするから、遅れるなんてどうしたの?」


 エドも不思議そうにしているし、ギルも肯いていた。


「ええ、ちょっと、その、手間取りまして……」


 何だがフェルには珍しく歯切れが悪い。

 本当にどうしたのだろう?

 そう首を傾げていたら、恐ろしいくらいに妖艶な声がかかる。


「おはよう、エルザ」


 本当に心臓に悪い声である。

 フリードだと心地良くて聞き惚れてしまいそうになって、それはそれで困るのだが……


「ルー、様、おはよう、ございます」


「おはようございます、殿下。今日はいつもより早いですね」


 アンドの声に、当然だろうと言わんばかりの顔で告げるルー。


「エルザが居るのだ。早いのは当たり前だろう」


 そういうものなのかなぁ。


「後は、イザークだけか」


 ギルが呟き、ギルとユーディが厳しめの顔になっている。

 うん、気持ちは分かるよ。

 皇族より後に到着するとか、絶対にしちゃいけない事だもの。

 以前ギルとユーディに注意されてから、イザーク、凄く気を付ける様になっていたのに、どうしたのだろう……


「――――遅くなりました。申し訳ありません!」


 失礼にならない程度に速足で登場したのは、イザーク。


「どうした、イザーク。何かあったか?」


 フリードが優しく問いかけてくれる。

 ありがたい。

 理由も話しやすいだろう。


「それが、その、少々、戸惑いまして……」


 イザーク、何だか歯切れが悪い。

 まるでさっきのフェルみたいだ。


「もしや、イザークも纏わりつかれましたか?」


 フェルが思い当たる事がやっぱりあるのか、訊ねていた。


「フェル様もですか? ええ、そうです。食堂に入ってしばらくしてからでしたが……」


 イザークは困惑しつつ答えていた。


「私は、席で揉めていたらしいので仲裁に入ると、少々、面倒な目に遭いました」


 フェルは溜め息を吐いている。


「どうした、二人共?」


 フリードの言葉に、二人は目線を交わし、先ずはフェルが答える。


「実は、平民の少女等が、窓際の席に座ろうとしていて、それを別の平民の子等が止めていたのです。私が間に入り、ここは予約なしには無理だと伝えたのですが、今度は私に一緒に食事を取ろうと礼儀も無く突然言い出し纏わりつかれまして……周りの者が引き離してくれたのですが、こちらの話を聞かず、難儀しました」


 イザークは、忌々しそうな顔を押し込み、真面目な顔で続ける。


「私が食堂に入り歩いていると、急に腕を引かれ、こちらで一緒に食べようと平民の少女等に言われました。当然断ったのですが、中々聞いてもらえず、周りの者が間に入り、何とか離れる事が出来ました。しばし有り得ない事態に困惑したのと、女性に対し、無暗に振り払う様な暴力に訴える訳にもいかず、かなり引きずられてしまったのもあり、遅くなりました」


 彼等の言葉に、全員が呆気に取られてしまった。



 当然だ。

 貴族に、それも四大公爵家の人間に、平民がして良い態度でも言動でもない。



 これは、学校では良くある事なのだろうか?

 それとも、初めて起こった事?

 ――――初めて起こった事なら、彼女と、何か、関係が、ある、の……?


「何それ。彼女等、二人が貴族だって分からなかった、とか?」


 エドが困惑気味に問う。


「どうでしょう……この学校には二年程在籍していますが、この様な目に遭ったのは初めてで、本当に驚いています」


 フェルは、それこそ訳が分からないといった感じだ。


「あの、アンド様方は、そういう目に今まで遭った事はないのですか?」


 イザークは、憤りつつ、何とか抑えようとしつつ、な感じで、他の年上の皆に訊いていた。


「そんな事は今までないぞ。見た事も無かった」


 アンドは有り得ない事態に眉根を寄せている。


「だね。俺も三年間いるけど、見た事も聞いた事も無い……どうなってるんだ?」


 エドは表情が無い、能面の様な顔になっている。


「この学校に在籍している間はまだまだ半人前扱い故、社会に出てからよりは、皇族や貴族に対しての不敬についても罰則は緩いが、それでも有り得んな……」


 ルーがとても難しい顔。


「そうだな。種類や頻度によっては退学や実刑もあり得るのだから、皆気を付けている様に思ったが……」


 フリードは凄く困惑顔。


「あまりここで悩んでいては授業に遅れます。注文してしまいましょう」


 エドが明るく告げて、このレストラン付きだろう従者さんに声をかけた。



 うん、色々悩むのは後だ。

 今は取りあえず、朝食を摂ろう。

 そうすれば、頭も栄養を補給した事で、より良い閃きやアイデアを発想するかもしれないしね。



 そう言い聞かせ、不安な気持ちを必死に押し込んだ。

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