第13話
三人共、悩みに悩み、ようやく何を食べるかを決め、注文しようかとレストラン付きの人を呼ぼうとしたら、圧倒的な美声がかかる。
「やっと見つけた。こんな所に居たんだ」
その声のした方を見てみれば、苦笑気味のエドだった。
「エド? おはよう。どうしたの?」
私の問いにエドの綺麗な顔は楽し気なものになり、
「うん。ちょっと皆、一緒に来て。こっちで食べよう」
そう言って私の手を取る。
「いや、あの、一緒に食べるのは良いけれど……」
困惑気味の私には一切構わず、私を強引に、でも無理矢理ではない適度な力加減で引っ張っていくエド。
ユーディとリーナは苦笑しつつ付いて来てくれる。
「あそこの席、ちょっと窓際から離れてるし、眺めが悪いよ。こっちの方が絶対良い」
「でも、窓際の席、全部予約で埋まっていたし……」
私の言葉に、エドは呆れた様に色気のある溜め息を漏らす。
「やっぱりエルザ、予約の事忘れてたろ。レストラン付きの人に身分を言えば、直ぐ案内してくれたのに。紫の瞳を持ってるか上位貴族以上なら、無条件で窓際に席を用意してくれるって、入寮の時に聞かなかった?」
思い出してみても、ちょっと記憶にない。
舞踏会の事とかを考えていて、どうやら聞き逃した様だ。
「ごめん、エド。聞いていなかったかも……」
「申し訳ありません、エルザ様。わたくし、聞き逃しておりました……」
後ろからユーディの申し訳なさそうな声が届く。
「わたくしも聞いた覚えがありませんね。ですがこれはおかしいのでは。わたくし達三人で寮の説明を受けましたけれど、エルザ様はともかく、ユーディ様も聞き逃されるとは……なによりユーディ様は紫の瞳です。まがりなりにも帝立の学校の職員が、紫の瞳に気がつかないのはあまりにも違和感が」
リーナの言葉に、エドが顔を顰める。
「それは確かに変だな。エルザだけなら分かるけど、ユーディにリーナまでってのは、どう考えてもおかしい。しかもこのレストラン付きで紫の瞳が分からないって異常」
「そうですわね……どういう事でしょうか」
エドの言葉を受け、ユーディが難しい顔に。
「ま、後で考えよう。さあ、着いたよ」
エドが連れて来てくれたのは、窓際で一番眺めの良いだろう席だった。
「わぁ。凄いね。街の方も見えるんだ」
思わず感嘆の溜め息を吐きながらの私の言葉に、エドは微笑ましい物でも視る様に答えてくれた。
「そう。夜だと夜景が綺麗なんだ。夕日も反射して綺麗だよ。朝焼けなんかも悪くない。このレストランで一番良い席だよ。レストランは窓側は全面ガラス張りだけど、ここが一番眺めが良いんだ。この学校のある島は湖の中心部にあって、行き来は一つある橋だけだからね。学術都市って言われるくらいには学校関連が多い街だけど、それに携わる人とか、そういう人相手の仕事等で住んでる人も結構な数だし、湖内の島でここまで大きいのはここだけなのもあるけど、湖からこの島に延びる橋の周りは市街地の中でも中心地だから、必然的に夜景が湖に映って見事なんだよ。ルディアス殿下かフリードリヒ殿下ならいつでも取れる席だね。エルザはお二人に頼まなくても、まあ、大丈夫だと思うよ」
そう説明しながら、椅子を引いてくれるエド。
「ありがとう。あれ? ユーディとリーナは隣じゃないの?」
広いテーブルなのに、中央付近に私だけポツンとなのだが……
「あ、エルザの両隣は既に決定済みだから。そろそろ皆来るんじゃない? エルザ達はかなり早めに来たね。眠たくなかった?」
エドの苦笑しつつの言葉に、私達はそれぞれ答える。
「うん。レストランの方で席を取っていてくれるって知らなかったから、座れなくならない様にと思って、早く来たから。それに疲れてたからぐっすり寝たせいかもしれなけれど、眠たくはないよ」
「エルザ様の仰る通りです。睡眠時間はあまり取れませんでしたが、眠いという事はありません」
「ええ、確かにエルザ様とユーディ様の仰る通りかと」
雑談をしながら皆の到着を待っていると
「お、エルザ、おはよう。早いな。エドが早いのはいつもだが。ユーディもリーナもおはよう。良い朝だな」
そんな事を言いながら、アンドが到着。
「アンド、おはよう。あ、あのね、昨日、私を助けてくれた人にお礼を言いたいと思っているの。昨日は色々あってお礼をちゃんと言えなかったから、後で紹介してくれると嬉しい」
私の言葉にアンドは笑顔になる。
「ああ、そう言うだろうと思って、朝食を食べたらこっちに来る様に言ってあるから、安心しろ」
「ありがとう、アンド!」
アンドって相変わらず外見の割にって言ったらなんだが、何気に手回しが良いのだから、本当に有り難い。
前世で例えたらラグビーでもやっていそうな容姿だからなぁ、アンド。
ちょっとガサツっぽいのではないかと思ってしまう位には、ガッシリ体型だし。
勿論、申し分のない凄まじいイケメンであるのは揺るぎないのだが。
「おはようございます、アンド様。エルザ様、良かったですね。とても気にしておられたから」
ユーディはそう言って私に微笑みかけてくれる。
「おはようございます、アンド様。昨日エルザ様を助けた方、アンド様のお知り合いなのですか?」
リーナの質問にアンドは肯く。
「ああ、家に仕える騎士家の人間なんだよ。幼い頃から将来有望で、間違いなく貴族に列せられるだろうと思われていた位には優秀。まあ、高位幻獣を得てるから、卒業して軍務に十年就けば貴族確定かな」
ユーディもリーナも驚いたらしく、目を見開いている。
「それ程優秀な方なのですか?」
ユーディの問いにアンドは嬉しそうに肯く。
「ああ、主に寮生活だったから、あまり家にはいなかったが、それでも分かる位には凄い奴だぞ。母方の祖父なんかは鍛えがいがあるって喜んでたな」
「アンドの母方の祖父って元大将軍閣下だったよね。ギルのお祖父様でもある。確かに、高位の貴族かなって私も助けられた時に思ったから」
私も思い出し、そう肯いていたら
「エルザ、見惚れていたな」
アンドが興味深そうな笑顔を浮かべて言うのである。
「エルザが見惚れていたとは、誰だ?」
唐突に思わず聞き惚れる玲瓏な声が響き、瞬時に誰か分かってしまった。
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