第12話

 勇の言葉を最後に、目が覚める。

 勇、だったよね?

 だって、前世の夢を見ていたのだから、あれは勇の、はず。



 激しい動悸が何故か収まらない。

 不思議と鼓動が速くて、落ち着かない。



 そうだ、あの私に暴力を揮った子達は、皆幼稚園から居なくなったのだった。

 理由は分からない。

 先生も教えてくれなかった。

 ただ転園したとだけ聞いていた。



 私は怪我が痛くて、血も止まらなくて、碌に思考は回っていなかったから、彼等がどんな状態だったのか正確に覚えてはいない。

 特に抵抗らしい抵抗も出来ず、数の暴力でやられっ放しだった私だから、本当にあの事件の詳しい事は分からなかったのだ。

 やられたらやり返すというのが、どうにも苦手で、基本的に私はやられっ放しになってしまう。

 言葉では止めてと言っていたが、それで止めてもらえるはずもなく、ただされるがままになっていた。



 ただ覚えているのは、新たに痛くされなくなった、と思ったら、声がしたのだ。

 勇の声が。


「瑠美、もう大丈夫だ。


 そう言って、薄い綺麗すぎる程綺麗な微笑をしていた勇。

 ああ、それが、どうしようもなく悲しく感じたのだったと思い出す。



 勇は、自分の両親も、私の両親も好きではなかった、と思う。

 それを私と二人きりでなければ表に出すような事はなかったが、特に私の前世の両親をかなり嫌っていた。



 理由を正確には教えてくれなかったけれど、私が知る限りでも、勇の立場なら嫌うかもしれない、とは思った。



 決められた婚約者がいるにも関わらず、身勝手に駆け落ちした訳だから、それはされた方の家族にとっては迷惑極まりないと思う。



 ただ、自分と家族との関係性とか、婚約相手によってはやむなしの場合もあるのではないかとも思っていたりはする。

 そう、ケースバイケースだろう。



 だが、私の前世の両親のケースを考えると、駆け落ちした二人がかなりの問題有りだったような気がしたのも事実だ。



 勝手に結婚式直前というタイミングで駆け落ちしたのに、困ったら実家に頼るとか、それってどうなんだとは思ったしなぁ。



 母の両親は無視を決め込んで、母の兄である伯父さんが助けてくれたのだ。

 広い一軒家を用意してくれたし、父の仕事も紹介してくれたり、母の為に運転手と車、お手伝いさんも派遣してくれた上に、私の幼稚園から高校までの費用や入院費等の医療費も出してくれたのだ。

 特に私は幼い頃から体調をよく壊していた上、原因不明の病になったから、保険適用外の高額な医療費を出してくれたり、海外国内問わず高名な先生を紹介してくれる等、本当に様々に迷惑をかけてしまったのである。

 それ以外にも色々援助してくれたというのだから、足を向けて眠れないレベルだと思う。



 父の両親については、詳しい事は何も知らない。

 どうやら墓参りも許してくれないと父が言っていたから、私が高校生になる頃には亡くなっていたらしいのだが、通夜にも葬式にも出た覚えがない。

 だから、父方の祖父母は私が産まれるより前に亡くなったのか、それとも、通夜にも葬式にも出席を拒否されたのかのどちらかだろうと、両親の事を聞いてからは思っていた。

 ただ十中八九、呼びもしなければ来るのも拒絶されたのだろうとは、後に思ったものだ。



 叔父さんの気持ちや、従姉妹の英里の事を考えたら、凄くモヤっとしたのも思い出す。



 それでも、両親は両親だ。

 愛情を沢山注いでくれたと思うし、色々思う所はあるが、それでも心底には嫌いになれない。

 そう、私にとっては、掛け替えのないない、家族。

 それは何年経とうと、生まれ変わろうと変わらない思いだ。



 勿論、今の両親も、祖父母も曽祖父母も大好きだし、家族だと思っているのも変わらない事実である。



 って、あ、色々思い出していたら、もう朝食の時間になってしまう!

 ユーディ、リーナと一緒に朝ご飯を食べる約束をしていたのだ、遅れてはならないと慌てて準備に勤しんだ。





 二人が迎えに来てくれて、一緒に食事をするレストランへ。

 天井が高くて、色調も落ち着いているのにおしゃれで、湖に面しているからもあって眺めも良い、とっても広い素敵なレストランだった。

 高級感よりもカジュアルな感じにしてあるが、普通に街にあっても人気店の部類な外観と中身で、昨日案内された時にちょっとびっくりしたのを思い出す。

 本当にこのレストランは広いから、友人達とはぐれたら見つけるのは難しそうだなぁと思ったりもしたのである。



 まだ早い時間だから空いているのは有り難い。

 これなら座れないという事はなさそうだと一安心。

 一応二十四時間開いているとは聞いていたが、朝食や夕食の時間帯は混むだろうと思って早めに来たのである。



 席に座っていれば店員がメニューを持ってきてくれるらしい。

 それってなんだか本当にただのレストランだよね、という感想をリーナと言い合っていたり。

 ユーディは、これが普通ではと言っていて、ああ、そういう店しか行った事がないのだと納得。

 セルフサービス的な店やバイキングな感じの店もリーナ曰くあるらしいので、ユーディは興味津々だったから、そういう店に貴族が行ってはいけない訳ではないらしい。

 私もセルフサービスやバイキングの店には、前世も含めあまり行った事が無かったから、普通のレストラン的な店の方が落ち着くのは確かなのだ。



 レストラン付きらしい女中さんが持ってきてくれたメニューを視つつ、三人でどれを食べるか悩み中。

 しかし驚きなのは、朝食メニューの数が多い事だ。

 値段も色々なのは、おそらく配慮だろう。

 それも高いと思うのなら、街に買い出しに出掛けて自分で作ると良いかも。

 学校の敷地内にも食材の販売店はあるので、そこを利用するのも手かもしれない。



 私も料理を作るの好きだし、出来る限り自炊したいと思っているが、ユーディやリーナと一緒に食事もしたいしなぁ。

 悩みどころである。



 そうだった、ブランシュに言われたのは、


「買い物の仕方が分からない場合は、リストにある店に連絡さえすれば、学校と店の間を送迎しますし、持ってきて欲しければそう言えば学校まで届けます。その店で何をなされても、料金はシュヴァルツブルク家へと全て月単位でまとめて請求されますので、ご安心下さい」


 との事だったが、まるで前世の母の生活みたいだから、ちょっと戸惑うのも事実。

 ブランシュ的にはというか、家の人達は、訓練したとはいえ、私が生活に困らない様に考えてくれたらしいのだが、どうしたものかな。



 ただ、前世の友達の舞ちゃんとの外出の方が私的には楽しかったから、やっぱり買い物は自分で出歩いて、実家からチャージされたお金で遣り繰りしようと思う。

 せっかくリストにしてくれたみたいだから、その店にも行っておこうかな。

 さて、チャージされた金額からは、目は逸らしましょう。そうしましょう。



 うん、色々思考そらしているが、今日からの生活を楽しむ事にする。

 エリザベート関連は、出たとこ勝負な気配が濃厚だ。

 イベント自体分からない状況なのだから、彼女の行動次第だろう。

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