第5話
何が起こったのかを着替えさせてもらいつつ整理しよう。
私は基本的に今現在されるがままだから、思考は自由だしね。
舞踏会の会場を歩いていたら、何かに引っかかった、と思ったら突き飛ばされた。
これが私の認識。
私を助けてくれた人曰く、おそらくエリザベートと思しき少女が、私のドレスの裾を踏み、尚且つ突き飛ばした、らしい。
それで、ドレスが結構悲惨な感じに破けてしまって、それを助けてくれた人が庇って上着を私の肩に掛けてくれた、と。
しかも大きくてギザギザなガラス片が私が倒れただろう場所にあって、転んでいたら大怪我必至だった、という事か。
うん、私を助けてくれた人に大感謝。
アンドの家の人だって話だから、今度お礼をしっかりしよう。
本当に助かったし、気遣いもありがたいし、感謝しきりである。
それで話を戻すと、そんな貴族に対するあるまじき事件を起こした少女が皇族の、しかも皇帝候補の名前を、選りにも選って愛称で、その上最悪な事に呼び捨てで呼ぶというとんでもない事態を引き起こしてしまった、と。
うーむ……
これは色々荒れるかもしれないと戦々恐々。
フリードが兎に角心配。
ただの平民の少女なら、言い方は悪いが処罰されてそれで終わりである。
だが、相手は平民ではあれど皇族の血を引いていて、皇族に、つまり自分の父に贔屓されている訳である。
改めて脱いだドレスを視ると、かなり無残に破れて千切れかかっている。
酷い状態だというのは一目で解ってしまう。
折角皆で選んだのに本当に悪い事をしたなぁ。
作ってくれた人にも申し訳ないし……
あんなに綺麗な生地なのになぁ……
って、ああ、そうだ。
ガラス片。
あれはどうやって持ち込まれたのだろう?
そう考えた時に、控室のドアが開いた。
「エルザ、大丈夫なの!?」
お祖母様とお祖父様が飛び込んできたのだ。
「え、皆でどうしたの!?」
驚き訊き返した私に、お祖父様と顔を見合わせ苦笑するお祖母様。
「家族に何かあったら心配するのは当然でしょう? それで、どこもケガは無いのね?」
その言葉に自分でもそうだろうと納得して、答える。
それはそうだ、家族に何かあったら心配するのは当たり前。
「はい! 大丈夫です。助けて頂きましたから」
お祖母様とお祖父様は私を見回し、安堵の溜め息を吐いた。
「ケガは無いとは聞いていましたが、やはり自分の目で見るまでは落ち着かないものです。大体は着替え終わったと連絡を受けて直ぐに来てよかったわ。ああ、ハインは今ちょっと手が離せなくて来れなかったのだけれど、心配していましたよ。私から今大丈夫だと映像込みで伝えましたから、安心した様ね。それにしても、助けて下さった方には後でお礼をこちらからも言わなくてはね。本当に感謝しかないわ」
お祖母様はいつもの様にハキハキと子気味よく言ってから、何故か顔を曇らせた。
お祖母様って回りくどい言い回しが嫌いみたいで、直言な物言いなんだよね。
私も回りくどいのって苦手だから、お祖母様の話し方大好きなのだけれど。
「万が一を考えてドレスの代えを用意していたから良かったわ。会場には私とエマとで戻りましょう。幸い今日は保護者も新入生は同席。尤も最高祭祀補佐は毎年出席ですし、他に宰相や大将軍、魔導師総長に勿論筆頭大公爵に国家安全保障省の長も出席必須ですから、安全と言えば安全。ただ、ガラス片の事で会場設営の担当者達が処罰されかねないのが懸念事項ね……」
お祖母様の言葉に耳を疑う。
「会場設営の担当者の方達が、処罰されてしまうのですか!?」
思わず訊いてしまった私に、お祖母様はいつもの優しい笑顔に影を落としながら、お祖父様と視線を交わしつつ
「あのガラス片の出所が分からないのよ。会場に居た者達の証言では、エルザが転びかけてからあのガラス片に気が付いたと言うし、いつからあったのか皆目わからない現状、元からあったのなら、それは会場設営の責任、となりかねない」
なんて事だろう。
私が視た限りでも、会場は床も含めてピカピカに磨き上げられていた。
そんな中に、ガラス片、それも結構な大きさの物を見逃すなんて有り得ないだろうに――――
『それについては、我等から意見がある』
私も暗くなりかけていたのだが、珍しく慎重なカイザーの声にそちらを向けば、私の近くに、ルチルと同じくらいのミニミニサイズでプカプカと浮いた、カイザーとエーデルが目に入る。
「カイザーもエーデルも心当たりが有るの?」
私の問いに肯く両者。
『我等が相棒殿が怒り狂っているからな。我等も気にして視てみた結果、どうもあれは異能力の産物ではないか、とエーデルと意見が合ってな』
私が目を丸くしていると、お祖父様と顔を見合わせた後、お祖母様が鋭い眼でカイザーを見つめる。
「それは真ですか?」
カイザーもエーデルと視線を絡ませてから、一緒に肯く。
『おそらくな。しかもその能力者はまだ力が完全には目覚めていない赤子の様なものだろう。あのガラス片には意志は感じなかった故、無意識に力を行使したのかもしれぬとは思う。ただ、上手く言えぬがおかしな感触は受けた故、無意識に偽装工作を行っていた可能性も否定は出来ぬ』
「えっと、無意識に力を行使したって事は、自分の力の事を理解していない人って事? それとも無意識に力を使った様に偽装を行ったという事なのかな?」
私の素朴な問いに肯くカイザー。
『うむ。あの状態では誰が能力を使ったか皇族といえど分かるまい。我等が相棒殿達でも難しいかもしれん。ただ分かるのは、会場に居ただろう人間、という事だな。偽装を行ったかどうかについては確証が無い。それでも否定は出来ぬと思う』
カイザーの言葉に、お祖父様と何か視線で会話したっぽいお祖母様が表情を険しくする。
「エリザベートが能力を使った、という可能性もある、という事?」
『ああ、そうだな。誰か分からぬからはっきりとは言えんが、あの会場内に居たのなら可能性は無いとは言えん』
カイザーがお祖母様に答える。
「異能力とおっしゃるが、どの様な異能力があのガラス片に繋がるのかは分かりますか?」
お祖父様が訊ねると、エーデルが顔を曇らせる。
『分からぬ。どの様な能力の産物かもさっぱりだ。ただ、あのガラス片が出現してから間もない事は確かだな。会場の設営の者には責はあるまい。おそらくだが、エルザが転ぶ間際まで、視界に入らない様な何か目隠しだろうもされていた様であるし』
エーデルの答えに、カイザーが肯き、お祖父様もお祖母様も何か思案気な表情になってしまう。
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