第4話

 舞踏会の会場となったホールからほど近い場所にある、控室らしい所にカーラは連れて来てくれたのだが、中に入って驚いた。

 何せ、私の今着ているドレスと全く同じものが既に準備されていたのだ。

 それに装飾品等も全てそろっている様だった。



 侍女頭にしてカーラの母であるブランシェを始め、侍女達もその場所で待ち構えていて、即座に替えのドレスに着替えさせようとする。


「あの、上着を返さなくてはいけないけれど、あれは誰だったのかしら……」


 私が思わず呟いた言葉に、私を着替えさせながらカーラが答えてくれた。


「それでしたら、ゾンデルスハウゼン大公爵家に仕える騎士家の方だったかと」


 私は長年勘違いしていたのだが、リーナと話していて正しく分かった事がある。

 皇帝一族は、前世の江戸時代で例えるのなら、天皇家と徳川家が合わさった様な物で、貴族が大名で、士爵家が旗本や御家人。

 そして大名や旗本に仕える武士、つまり貴族家に仕える一族や、士爵家に仕える一族は、いわゆる騎士階級というのだ。

 これは魔導騎士等とはまた違うらしく、ややこしくて、私は勘違いしてしまっていたのである。

 身分と階級、それから職業名や役職名であるらしい。

 そう、士爵階級と騎士階級、それから魔導騎士がこんがらがっていたのだ。


「アンドの家の人? でも見た事が無い様な……」


 私の言葉にカーラが苦笑しつつ答えてくれた。


「幼少の頃から全寮制の学校に通っていたようです。仕える家に所属している家庭教師に習わず、学校へ通うのも別段珍しい事ではありません。むしろ才能があったせいかもしれませんね。特別な学校へ通っていたそうですから。無論、ゾンデルスハウゼン大公爵家の家庭教師が劣る訳ではなく、より勉学に集中させようという判断がされる場合も多いですしね」


 成程。

 確かにあの助けてくれた人、凄く容姿が整っていた。

 それこそ、そんじょそこらの貴族じゃ太刀打ちできない程の整った容姿だったもの。

 相当に魔力が高いのがうかがえる。


「やはり、コルセットは大丈夫ですね。胸もこのままで良いでしょう」


 ブランシェの言葉にホッとしつつ、以前色々聴いていたことが脳裏を過ぎる。



 お茶会等で姉がいる娘達が主に教えてくれたのだが、女性は社交界デビューである魔法学校の入学式後の舞踏会から、コルセットをギュウっと締めたり、胸に詰め物等をして寄せて上げて等をするものらしいのだ。

 それで私も覚悟は決めていたのだが――――



 私の場合、腰が細いから無理に締め上げると逆に不格好になるからと、あまりコルセットは締めず楽なままだし、胸は下手な詰め物は要らないし、取り立てて何もしなくても十分との事で、特に何もしていないのである。



 本当に拍子抜けしたのだ。



 私的には、その前段階のエステ関連が消耗を敷いていたので、助かったと言えば助かったのだが……

 何だか前世と本当に体型も変わらなくなるのかもしれない。



 前世でも、制服は殆どオートクチュール染みていたからなぁ。

 上下でサイズが違ってしまうし、何よりウエストが細くてサイズが合わないのである。



 だから既製品だと、下の服は子供用とかしかなかった印象だ。

 上は上でジャストフィットするものが無かった。



 成長してからは胸以外のサイズに合わせると、胸元が苦しく、胸に合わせるとその他がブカブカになるのである。

 本当に服選びには困っていたものだ。



 母とかは結局直さなければいけないのならと、オートクチュールにしたがるものだから非常に困った覚えがある。

 オートクチュールとはいかずとも、色々手直ししてから着ていたのは確かだった。



 そういえば、前世の友人からは一人で買い物に行くなと釘を刺されたものだ。

 私はどうも一人で出歩くと、高確率で面倒事に巻き込まれるから、だそうだ。



 確かにその通りなので、一人では出歩かなくなった。

 そう、トラブルに巻き込まれた時、何故かいつも勇が助けてくれたものだ。

 だから迷惑を掛けるのが申し訳なく思っていた私に、ならば最初から一緒にいればいいだろうと、勇は良く私と一緒に出掛けてくれたものである。

 勇と出歩くと、必ず運転手付きの車で送り迎えだったのも思い出す。

 伯父が、体の弱い母の為に運転手と車も用意してくれたから、外出時は基本的に車で送迎なのだが、従兄弟の勇の車は、我が家用の車よりももっと高そうだった印象だ。



 うん、ちょっと逃避していた。

 今考えなくちゃいけないのは、フリードとエリザベートの事だろう。



 一応、将来の皇帝候補の正妃に確定している上、筆頭大公爵家の人間である私を、正当な理由なく、というか理由があってもダメなのだが、突き飛ばした訳である。

 これは結構な大罪、だと思う。



 そんな大罪人が、皇帝候補であるフリードリヒの名前を、それも愛称で、呼び捨てで呼ぶ。



 これはかなりフリード側にとっては嬉しくない事態だ。

 下手をしたら、大罪人に与していると取られかねない危険な行為なのである。



 エリザベート側にしても、平民が皇族を許可なく呼び捨てなんて、これも大罪だ。

 しかも愛称を呼ぶだなんて、平民の場合、許可が無ければ即極刑になっても仕方がない程の罪である。



 エリザベートらしい少女は、そこを分かってやったのだろうか……?



 何も考えていない、とか?

 もしくは知らなかった?



 だとしても、フリードにとっては完全なとばっちりである。



 だからギル達が側にいて、フリードに害がこないようにルーも配慮してくれたのだろうとは思う。



 フリード、大丈夫かな……

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