第6話

『この場にいる人間は信頼できるのであろうし、我等が盗み聞き出来ぬようにしつつ、後にも読めぬように色々手は打ってある故、話しても問題は無いと思っているのだが、まだ気に掛かる事がある』


 カイザーが告げる言葉に、お祖父様とお祖母様の顔が更に真剣味が増す。


『あのガラス片が異能力の産物だとは分かった。尚且つそのガラス片からは違和感も感じたのだ。この違和感の正体が分からず、懸念している』


 エーデルが難しい顔で言った言葉を引き継ぎ、カイザーが溜め息を吐きつつ言った。


『この違和感は、その能力がこの世界以外の何者かが無理矢理埋め込んだ能力故、であるかもしれぬとも思い、警戒している所だ』


「異世界の何者かの介入があるかもしれない、という事でしょうか?」


 お祖母様の言葉に、カイザーとエーデルは顔を見合わせ、同時に肯いた。


『本来の力ではなく、何者かが強引にねじ込んだ力の可能性が高いとは思う。まだ目覚め切っていない力にしてはどうも妙、だとは思っている』


 エーデルがお祖母様に答えた。


『王には既に連絡済みだ。ただ、な。お前の兄は信用出来んとその相棒も王も思っているのは覚えておけ。エリザベートが力を使った可能性があるとは、あの男には告げられんと王も男の相棒も判断した』


 カイザーがお祖母様に向けて難しい顔で告げる。


「真に申し訳ありません。こちらの事情で幻獣方にご迷惑をおかけする結果となり、お詫びの仕様もございません」


 お祖母様とお祖父様が同時に頭を真摯に下げ、何故かカイザーとエーデルに謝っていた。


『良い。それよりも、当分は何があっても、あの男に何もするなよ。どうも嫌な予感がする、と王が仰っている』


 カイザーが何故か深刻な顔でお祖母様に向かって忠告していた。


「ご忠告、痛み入ります。皆にも伝えておきますから、御安心を」


 お祖母様も何かお祖父様と目で会話してから、真面目な顔でカイザーに告げ、カイザーもエーデルもそれを聞いて肯いていた。



 私が話の内容が分からず、不思議そうにしているのを見たカイザーが苦笑した。


『エルザ、一応、色々気を付けておけ。恐らく、お前は異能力の持ち主に良い感情は抱かれていない。それから、特にフリードリヒに気を配ってやってくれ。後は出来れば我が相棒殿にも』


 カイザーの言葉にエーデルも肯いているし、どうもフリードは本当に大変なことになるのかもしれない。

 私はそう器用な方ではないし、気に掛けるのはフリードで手一杯になりそうだが、ルディも気に掛けた方が良いのかな。



 ああ、それに、私、異能力を持つ人が誰かは分からないけれど、その人に嫌われているか憎まれているのは覚悟しなきゃいけない、のか……



 それに異世界の何か、が関わっているかもしれない、というのも分かった。



 ただ分からないのは、エリザベートが能力を持っている可能性を陛下に告げてはいけない、と言う事だ。

 何故だろう?

 第三皇子殿下関連で、陛下が何か手心を加えるかもしれない、から、なのかなぁ……



 一応聞いた話では、陛下は第三皇子殿下に甘いのであって、エリザベートにはそれ程関わってはいらっしゃらなかった、筈。

 でも贔屓している第三皇子殿下の子供だから、エリザベートにも、甘い、のかなぁ?

 第三皇子殿下に強請られたから、学校へも入学させるらしい、と聞いたが、どうなのだろう。



 疑問符だらけの私に、ブランシェが声をかけた。


「準備万端整いました。これで大丈夫かと」


「ありがとう、皆。助かったわ」


 私がお礼を言うと、侍女達は皆嬉しそうに頭を下げる。


「ご苦労様。それではエルザ、会場に戻りましょうか」


 お祖母様が私に言った言葉に肯いて表情を引き締めた。





 お祖母様の話では、お父様達が陛下の来場を後らせているから、私が会場に戻るまでは大丈夫、との事だ。

 どうもギルやアンド、フェルにエドの御両親にも力を借りているとかで、本当に申し訳なくなってしまったのだが、


「エルザが気にする事ではありません。ある意味当然の事ですからね」


 そう言ってお祖母様やお祖父様は微笑むのだが、二人に挟まれていると、そういうものかなぁと思えてくる不思議。



 会場の外の護衛は、お祖父様とお祖母様を見ると直ぐに礼をとり、扉を開けてくれた。



 ホール中の視線を一身に集め、視線で焼き殺されるんじゃという熱視線に曝されつつ、お祖父様とお祖母様に先導されて会場内を進む。



 うう、心臓がバクバクと激しい音を立てているが、顔は微笑みを貼り付け、手足の絶え間ない震えは意志の力で捻じ伏せる。

 優雅に、姿勢よく、笑顔で、と心で念仏の様に唱えつつ、歩いて行く。



 私を時折振り返り、気に掛けてくれつつ、お祖父様もお祖母様も堂々と歩いている。

 私は遅れないようについて行くのがやっとの有様だ。



 どうか不格好ではありませんように、と願いつつ、必死に手足を動かし、笑顔を振りまく。



 アデラやルチルが一緒にいない事が、何だか不安に拍車をかけている様な気がする。

 舞踏会とかの会場には幻獣は大きいのが多いので連れて来ないのが一般的らしく、アデラもルチルもお留守番なのである。

 小さいのだから良い様な気もするのだが、暗黙の了解と言われれば連れてくる訳にはいかない。



 何とか会場を歩き切り、何段か階段状になっている貴賓席、というかあれは皇帝陛下の為の場所だと分かる付近までこれて、ホッと息を吐いて、呼吸を整えていたら、高らかに声が鳴り響く。


「皇帝陛下の御入来」

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