第54話 閑話 上峰 加奈子

 もうじき春になるだろう頃合で、そろそろ木々の蕾は綻ぶのを今か今かと待っている。


「あとちょっとで学校へ入学だねぇ」


 お茶とお菓子を楽しみつつ、思わず呟いていた。


「そうだね。うぅ、心配だなぁ」


 早春に出荷されるハウスのイチゴを使ったケーキを頬張って、幸せそうな顔をしていた少女の顔が覿面に曇る。



 その少女は、兎に角美しかった。

 そう、只々綺麗なのだ。

 百人中百人が美しいというだろうと確信が持てる。

 つまりは趣味嗜好、時代を超越した、圧倒的な美、それのみなのだ。

 そう、普遍的な、且つ、不変的な、美、と言えるだろう。

 これに引けを取らないルディアス殿下やフリードリヒ殿下は、まあ、異常としか思えない。

 まるで、三人揃って人間じゃ無い、みたいな感じ。



 そしてそれに加え、その少女は、一つ一つの動作が割と庶民的というか雑っぽくても、何故か品があって嫋やかだから、見事な深窓の令嬢にしか見えないのだ。

 彼女を知っている人は、彼女を、この世界で最も美しいとされる春の女神の様だと口を揃えて誉めそやす。

 春の女神は飛び抜けて美しいが、気さくな女神だとも言われているのだから、納得の例えだと皆が皆称える。



 彼女の名前はエルザ・ルチル・アデラ・シュヴァルツブルク。

 前世の名前は如月 瑠美きさらぎ るみ



 私、カタリーナ・ノイ・チューリンゲン、前世名上峰 加奈子うえみね かなこと同様に、とある世界の同じ国からの転生者だ。



 彼女を改めて見ると、どうしても品の良さが滲み出ている事に誰しも気が付くだろう。

 それは生まれ持った高貴さであり、育った環境が生み出しているモノだと皆分かるはずだ。



 装った所が微塵もないのにそれだから、きっと前世もかなりの名家の令嬢だったのだろう。

 どうしたって記憶があれば、動作も前世を踏襲してしまいがちだと、実体験から分かっているからこその推測だ。



 彼女は自分の動作に格別気を付けていない状態でも下品ではないのだから、どうしたってそういう育ちを前世でもしていたのは想像に難くない。



 それに容姿の問題もある。

 彼女は前世と髪の色と瞳の色以外は一緒だという。



 だからこそ、余計に名家の出だと確信してしまった。



 私の実体験なのだが、美しい容姿をしていても、どうしたって代々続く名家と、庶民の成り上がりでは、顔立ちにそれぞれ違いがあるのだ。

 確かに其々、綺麗だ。



 だが、高貴な美しさと、庶民的な美しさというモノは、どうしたってあるのだ。

 顔の美醜とは別のベクトルではあるが、確かに違うのである。



 自分の前世の職業柄、品が良い顔でありながら動作に品が無い子や、庶民的な顔だが、品の良い子も見てきた。



 エルザは、容姿も高貴なら、動作も無意識レベルで品がある、所謂ちゃんとした名家の令嬢なのだと、この世界だと誰しも直ぐに見抜くだろう。

 きっと前世での私の職業に近い人達や関連の職業の人達、恐らく貴族達や士爵達は言うに及ばず、それに仕える人達だって、彼女は代々の名家の出身でありきちんと躾けられているのだと、あっという間に判断出来てしまうほどに、彼女は申し分ない。



 だから彼女はシュヴァルツブルク大公爵家の令嬢だと誰も疑わないのだ。



 本人的には、私の様に親しい人への対応は雑だと思っている様だが、あくまでも名家の令嬢の気さくな態度にしか感じられない。

 どうしたって庶民の雑な感じとは全く違うのだ。



 彼女自身は、そこらあたりがちょっと分かっていないらしく、親しくない人対応の仮面を被らないとボロが出ると思いこんでいる様だが、それは無いと断言できる。



 言葉が庶民的だとかそういう問題で相手は見ていない。

 そう、全ては醸し出す雰囲気と動作なのだ。



 彼女のそれは生粋の名家のそれであり、誰も疑念を抱かないだろうと分かる。



 実際問題、皇族のお二人は例外としても、仮にも四大公爵家や公爵家という名家の子息や令嬢が彼女の存在に違和感を抱いていない時点で、彼女は間違いなく名家の出の令嬢という生き物なのだ。



 これが前世で庶民だったら、どうしたって違和感が出てしまっただろう。

 記憶が無いのならまだしも、記憶があれば、絶対に無意識に出てしまうのが雰囲気、そして次点で癖だ。

 三つ子の魂百までとも言うし、人間、そうそう変わらないと思う。

 だからこそ、分かりやすいともいえるかな。



 こればかりは変えようがないから、どうしたって幼少期だろうと分かってしまう。

 そう、お里が知れるとは正にこれである。



 その違いこそを視て、本来は、どういう出自なのか判断するのだ。


「しかしあれだね、この歳から学校へ初入学とか、ちょっと違和感感じるね」


 私の答えにエルザも肯く。


「そうだね。前世でいえば中学二年生、だもの」


「うん、入学したらそこから前世でいう大学卒業レベルまで寮生活な上、実家のある帝都には滅多にというか、帰ってくるなとかいう方針だって聞いて、うわぁって思ったからねぇ」


 そう、親の脛を齧りまくって送り迎えの前世との違いに、ちょっとワクワクもしていたりするのだが、これは内緒にしておこう。


「寮って、確か、皇族と貴族は一人部屋だったよね」


 彼女の言葉に肯く。


「そうそう。で、士爵家と騎士家、平民は二人部屋で、それぞれ同じ階級同士が同室になるって。ま、同然だよね。絶対揉めるの分かり切ってるし。まあ、年齢的に独りになりたい頃合の、前世の大学相当の年齢頃から全員一人部屋になるってのも分かる話だよ」


 彼女が私の言葉に思わずという感じで苦笑した。


「寮って学校の敷地内にあるんだよね」


 彼女の確認の言葉に肯いて答えた。


「らしいね。学校の外へ行く時は外出届必須だっていうし、結構めんどい」


「仕方がないよ。警備の理由とかあるのだろうし。うん、前世と違って送り迎えが無いのは気兼ねなくて楽だね」


 彼女が無自覚に自分はお嬢様だと告げているのだが、さて、どうしよう。


「送り迎えしてもらってたの?」


 彼女が罰が悪そうに肯く。


「……うん。あ、でも、家の運転手さんでも車でもない場合ばかりだよ。従兄弟の家の運転手さんと車が多かったの。従兄弟が家まで送ってくれたり、従兄弟の家で過ごしてから私の家に送ってくれたりしていたから」


 何だか小さくなってしまった彼女に苦笑する。


「悪い悪い。私も学校の送迎はしてもらってたよ。っていうか、運転手付きって、相当お金持ちなの? 従兄弟さん」


 コックリと肯いて、どこか苦しげに遠い目をした彼女に、ああ、地雷かなと思って話題を変える。


「――――学校ってさ、学術都市にあるんだよね」


 エルザは肯いて、


「そうだってね。山に囲まれた盆地で、広い湖があるって聞いたよ。その湖の島に学校が在るって聞いて、凄くワクワクしているの」


 私も学校の資料を思い出しながら肯く。


「避暑地にも良い、気候の良い所だってね。確かに楽しみだ」



 そう、楽しみなのだ。



 何故なら、かなり楽な学校生活をおくれそうだからというのが、理由の内の一つ。



 その理由は単純明快。

 幻獣の森で幻獣を得られたから、学校で幻獣を得るための時間も労力も浮くからだ。



 幻獣は、首の回りにフサフサの巻き毛があるオレンジ色の中型の猫で、名前はノイ。

 上位と中位の間のランクの幻獣の中でも上位寄りで、甘えん坊の子だ。



 この子を得られたのは大きい。



 幻獣も、私の家のランク的に悪くなかったし、婚約者選びは学校卒業までにといった感じだし、多少の自由はあるだろう。



 まあ、恋愛とかちゃんちゃら興味が無いので、宛がってくれる相手なら、誰でも良い。

 前世から恋愛事にはこれっぽっちも関心が無いのである。

 それに前世で色々あったから、人付き合いは割と距離を置きたい感じだし。



 一族の人間も、仕えてくれている騎士家一族の人間も、双方信頼している。

 だから相手は誰でも自分的には問題ない。



 大体、私よりも弟の方がとても魔力が強いのだから、跡を継ぐのは弟だろう。

 私も、一族の人間としてはそう魔力は悪くない。

 これには安堵していたが、ただ当主になるには物足りないとも思っていたから、弟の魔力が私より格段に強い事は心底嬉しかった。



 これでも一族の事を考えているのだ。

 私が当主になった場合、色々と一族の人達も、仕える騎士家の人達も、不安を感じたと思うのだ。

 幻獣もやはり大貴族を継ぐのなら、上位は最低でも欲しい所だし。

 私の場合は弟が継ぐ予定になったから、この階位の幻獣でも問題は無いという判断がされただけで、跡継ぎとしては甚だ力不足だ。

 弟には是非とも高上位とはいかずとも、高位幻獣を得て欲しい所である。

 まあ、あの子なら大丈夫だろう、たぶん。



 そう、自分ひとりの身体じゃ無い事は、良く理解していた。

 自分の行動如何に寄って、路頭に迷う人がいるというのに、自分勝手な言動とか論外だろう。



 この世界に転生してきて、今の家族には言語の事とか色々迷惑をかけているのだ。

 これ以上の迷惑や心配は有り得ないと、自分を律していた。



 前世も近しい家族には恵まれたが、今の世界の家族や一族の人達、仕えている騎士家の人達も気に入っているのだ。

 むろん友人達もとても好きだ。 

 前世といい今といい、自分は家族運と友人運は一部を除いて良好なのは幸いだと思う。

 一応人と距離を置きたい感じではあるのだが、それでも親しくしてくれる人とかは大事にしたいと素直に思っている。



 だからだろうか、元々の前世では、親孝行も満足に出来ずにサクッと死んだのはこれでも後悔しているのである。



 前世では幸い一人娘という訳でもないし、我が家の資産はまあ標準よりかなり上だったから、両親も兄妹達も大丈夫だろうとは思う。

 親戚も……悪い人はいなかったと個人的には記憶しているから、まあ大丈夫。



 前世の家は割と信心深かったけれど、新興宗教に嵌る程切羽詰ってなかったと思うし、色々未だに思ったりするのだが、現状こちらからは何も出来ない訳である。

 それでも思う分には自由だろう。



 今の私の願いはいくつかあるのだが、一応第一にしているものがある。

 それは一族を守って、出来れば発展させる。

 そして、国にも何か出来たら良い。

 だって私の一族はこの国あってこそなのだから、国を守る事も、発展させることも、一族を守る事とイコールである。



 これは誰かに強制された訳じゃない、自分で確かに決めた事だ。

 始まりは、良い人達だから何かしたいってものが根底だとしても、誰にも邪魔させない、自分の意志だ。



 この学校で色々学ぶのは、きっと一族にも、もしかした国にも良い事だろうから、というのも、学校が楽しみな理由の二つ目。





 ちょっとした疑問なのだが、霊力とか霊感というモノは、魔力とは違うのだろうか。



 私は実は前世ではかなり霊感が強かった。

 幼い頃は生者と死者の区別がつかない位には。



 私の前世の一族には稀にこういう子が生まれるらしく、そういう子用のお守りの作り方が代々伝わっていて、常にそれと、とある神社のお清めされた塩を常時持ち歩いている状態だった。

 そうしないと、死にかけた事は一度や二度じゃない。



 幸い、前世の家は強固な霊的な防御の元作られていたから、安全だった。

 一歩外を出ると、私にはデッドオアアライブな状況で、常に神経を張りつめていたものだ。



 年々強くなる力に、これは真剣にどこかで修行でもした方が良いんじゃないかと考えていた頃に、あっさり死んだのである。



 何というか、霊的なモノに事故を誘発されたかもしれないと、後から考えて思い至り、ちょっとブルーになったのは内緒だ。



 だって明らかに事故変だったし。

 何か人以外のモノに事故起こされた様な気配が濃厚だったし。



 だから転生当初は恐かった。

 そう、霊に襲われるのではないかと戦々恐々していたのだが、幸いこの世界に幽霊はいないらしいと知り、心の底から安堵したものだ。



 どうも死んだら即座に魂が回収されて、洗浄されて、輪廻の輪に入るらしい。



 輪廻転生自体は馴染み深いから別に良い。



 ただ、幻獣やら妖精やらには本当に驚いたし、彼等がいるから大丈夫だと勝手に安心したのを覚えている。



 そう、前世で外に出るとどんな危険が待っているかしれず、だから自分は家にいる事を好み、必然的にネットやら漫画やら、アニメ、ゲーム、小説にドップリだったのだ。



 そして一番気に入っていたのが、【月華のラビリンス】のフリードリヒとエルザである。



 上手く言葉に出来ないが、二人のもどかしい感じが、こう、幸せになって欲しい、と強く願った原点だった気がする。



 それに、こうも思った。

 不幸になった人が、最後まで不幸である事は、現実では多いのかもしれない。

 でも創作物の中でだけは、不幸に陥っても、最後は幸せになって欲しいと、強く思ったのだ。



 私は、基本的にハッピーエンドが大好きだ。

 そりゃあ物悲しいエンドも嫌いじゃないが、ハッピーエンドが一番である。



 で、物語の主人公はエリザベートな訳で、彼女は確かに幸せになる為に存在しているのだろう。



 それじゃあ、エルザは?



 彼女はどうなのだ。

 ただ不幸になる為に創り出されたというのは、あまりに悲し過ぎるではないか。



 そう思った自分は、色々描いたりしたものだ。

 自分には文章の才能は無かったが、絵の才能だけはそれなりにあったので、二人の創作を色々したのは、今思い返すと、ちょっと黒歴史だろうか。



 いや、単純に二人が幸せな姿が観たかっただけなのだ。

 他人様の小説やら描いた物もよく探しては、何度も読み返していた。

 で、足りなくなると、自家発電、という感じだった。



 だから、【月華のラビリンス】の世界に転生してきて、しかもアンドラングの貴族に生まれ変わった事には素直に感謝したかった。

 他の国じゃ、二人には出会えないと思ったからだ。



 この世界が前世でプレイした世界に似ている、と気が付いた時点で、既にプレイした時から十年以上経過していた訳で、必死に思い出してメモしたが穴だらけで、我ながらちょっと落ち込んだ。

 出会いイベントとか既に暗中模索とか、エルザの力に成れないだろと自己嫌悪したのも思い出す。



 まあ、同年代なのかどうかという事もちょっと怖かったが、幸いエルザとは同い年だと知り、胸が高鳴ったのは本当だ。



 簡単な話、ファン心理とでも言おうか、フリードリヒやエルザを観ているのは楽しかったし、嬉しかった。

 そしてエルザやフリードリヒとも親しくなれたのは、望外の喜びであるのは否めない。



 それに転生してきて、誰も仲間がいない事が不安だったこともあり、思わずエルザに話しかけてしまったのは、これ以上迷惑や心配を家族や一族に掛けないという、自分なりの誓いを破る結果になったかもしれず、かなり後悔していた。



 それでも今はエルザと友人になれたことも、フリードリヒを割と近くで見ていれる事も幸せだと思う自分がいるのだが、これ以上の迷惑は出来れば一族には掛けたくないとも思ってはいる。

 けれども、エルザの為に骨を折るのは吝かでなはいと決心している辺り、今の家族と一族には申し訳ないと心底思っている状態だ。

 第一に掲げた目標よりも、エルザを優先してしまうだろうとも思ってるのだから、本当に私は仕様がない。



 エルザをゲームで好きだったから、も、勿論ある。

 あるが、それだけではない。

 純粋に出会えたエルザが好きだから、力に成りたいのだ。

 きちんとここは現実だと認識している。

 その上でエルザやフリードリヒが大切なのである。



 だから、いざとなれば一族から除外してもらう所存なので、勘弁して欲しい。



 しかし、ゲームについてはかなりもう朧げなのは否めない。

 思い出せた限りはノートに列挙したが、イベントやら選択肢やらはもう霧の中である。



 何せゲームをしたの自体が死ぬよりそれなりに前で、色々忘れているから、もう一度プレイするかなぁって頃にポクッと死んだのである。

 しかも死んでからはこの世界が何かやら霊やらに怯え、それどころではなく、言葉やら習慣を覚えるのに必死になっていたのだ。



『あれ、もしかして、【月華のラビリンス】と似てる……?』

 そう気が付けた事を逆に褒めてやりたいくらいである。



 あれだ、前世の転生小説とか見ていて思った事。

 生まれた時から前世の記憶があっても、細かい事はまず覚えていられないだろうっていうのは、本当だ。



 新しい事を沢山覚えなくてはならない中で、前世の知識やらをそうそう記憶していられるか、って話だ。

 人間、身体にしみついていない知識なんて、それこそあっという間に忘れるものだ。

 特別な記憶力の人間でないと、知識無双とか嘘である。

 お前、そんな本とかパソコンもスマホも無しで、インターネットに接続も出来ないで、不可能だって話。

 特に若年層なんて無理無理。



 凡人はどこまでいっても凡人なのだ。

 その世界の天才に勝てるかって話である。

 発想力が違う相手にどうするっていうのだ。



 それに、コミュ障が何故いきなり今の世界では普通にコミュニケーションを取れるかも私には分からない。

 まあ、確かに、世界が変わったから心の変化とかあるかもしれないが、記憶アリだと色々前世を引きずり易いと自分の事を思い出しても思うから、普通、どの世界でも、コミュニケーション能力が低い奴が、いきなり高くなるとか有り得ないだろうというのが率直な感想だ。

 怖い物は怖いし、無理なモノは、転生しようがどうだろうが無理である。

 まあ、例外はあるかもしれないが、そうそう例外ばかりな訳でもないだろう。



 だから、逆に途中で前世の記憶を取り戻すっていうのは成程とは思った。

 思ったが、何故ピンポイントでその知識だけなのだ、とか、絶対何かの思惑内だろう、とか思って素直に楽しめなかったりしたものだ。

 それに、ポンポン今まで忘れていた記憶が取り戻せるのかって事も、多大に疑問視していた。

 前世の世界でも、記憶喪失の人で記憶が戻らない人は、割と多かった印象である。

 まして前世の事だ。

 ちょっとやそっとの衝撃で取り戻せるのかって思ってしまい、やはりどうも楽しめなかった。



 更に言えば、神様に特典としてもらってる能力で、色々するのはどうなのだろう。

 押し付けられたとか言いながら、困ったら力を使ったりするのもどうかと思うし、その力は自分の物じゃない訳だから、なにかリスクとか、免疫系の拒絶反応的なものとか無いのが不思議である。

 神様だから、そういうのを取り除きました、っていうのは、何故そこまで神とかいう存在が一個人に関わるのかも謎すぎる。



 それに大半の人は、神だと思っている様な節があるが、それが本当に神なのかどうかとか、どうやって分かるのだ。

 誰かが保証とかしてくれたのか?

 その保証している相手も信用できるのかとか色々思ったりしていた。



 まあ、一番言いたいのは、神様に能力もらって転生って、つまりズルだろうと。

 何故そのズルしてもらった力で威張れるのか、甚だ疑問である。



 大体において、転生なんて楽なもんじゃない。

  改めて世界の事を一から学ぶなんて大変だった。



 その新たな世界の、どんな国でどんな地域かだって重要だろう。


 

  衛生面で問題なく、医療技術も大丈夫で、一般人でも恩恵を受けられ、文化、宗教、思想がおかしくなく、何よりも安全であること。


 

  他にも色々重要だと思う事はあるが、安全に勝るもの無しである。



 これが保証されてないと生存は困難だ。

  衛生や医療が発達していなくても生きるのは難しい。



 後は生まれた性別での苛烈な差別が無い事も重要だろう。



 これから考えるに、私は当たりを引いたと思う。

 まあ、世界の大半とは敵対関係とかは、許容範囲だ。

  幸い、この国は軍事力も高い様で一安心である。



  国民が平和ボケしていないのも正直ありがたい。

  後は国内に敵、はいない事を願いたいところだ。



 まあ、自分の現在の状況を考えるにあたり、色々と前世思った事や点を思い出してみて、考えた事を羅列してみた時に出た感想である。

 いやまさか自分が記憶アリで転生するとか、しかも異世界に、とか、その世界が自分の大好きなゲームの世界、とか、本当に大混乱だ。



 それで出た自分の考えって奴なのだが、そうそう人間性格とか思想とか考え方等変えられないのだから、結局自分にしか成れない訳で、だから結局何をするか決めるのは自分しかいないっていう事だ。

 それがこの世界にとって良い事なのかそうで無いのかによっても色々変わってくるだろうが、誰に何を言われても、譲れないものがあるのならそれに従うしかないだろう。

 全てが上手くいく保障なんてないし、運の要素もあるし、何も成せないで死ぬ人の方が多いだろうが。



 私には、世界を変える程の情熱も、意志もない。

 だから、世界に不満はない。

  後は自分がどうすれば良いかだけだ。

 その世界が嫌だというのなら、変えようというのなら、その世界から拒絶されるのも覚悟すべきだろう。

  自分は嫌っているのに、相手は嫌ったらいけないとか、自分勝手過ぎだと思うし。

 


  私は、基本的に現在の状況に適応して生きてきた人間だ。

  郷にいっては郷に従えというやつを実践してきた訳である。

 それは前世も今も変わらない。



 そんな私だが、彼女の、エルザの為なら、無理をしてでも力になりたい。



  前世、ちょっと色々あって疲れきっていた時の心の拠り所が、エルザとフリードリヒだった。

 


 フリードリヒは素敵だし好きだとは思うが、別に付き合いたいとか、結婚したいとか思った事もなかったし、現在もそういう感情は全くない。

 エルザと一緒にいるフリードリヒが好きなのだ。



 そして個人的な事情から、どうしてもエルザには幸せになって欲しい。

 いや、成るべきだと思う。



  今のエルザも好きだし、なんか放っておけないし、出来ればフリードリヒと幸せになって欲しいが、ま、無理は言うまい。



 だいたいあの娘、放っておけない。

  人が良くて、暢気で、危なっかしくて、目が離せない。

  世の中善人ばかりじゃないって分かっているのか、甚だ疑問だし。



 エリザベートまで出来れば幸せになって欲しいって、本当に、もうって感じ。

 それでも彼女が望むのなら、頑張りましょうかねと決意。



 フリードリヒはフリードリヒで、何というか、これまた危なっかしい。

 あれだ、エルザがいないと心配になるレベル。

 根がエルザ同様お人好しで良い人なのがゲーム以上に分かって、二人が似た者同士な感じも微笑ましいけれど、二人そろって善人な所をつけ込まれないか心配っちゃ心配。



 だから、私はこの世界での責任は果すつもりだが、それも雲行きが怪しくなった。

 エルザやフリードリヒを守りたい、そう願ってしまったからだ。

  一族には出来うる限り、迷惑はかけたくない。



 それでも自分は、家族や一族や仕えてくれている人達以外にも、守りたいものが出来たのだ。



 エルザは皆が幸せである様にと願っている。



 私もそう願っているが、最悪、フリードリヒとエルザが幸せならまあ良いかなと思わなくないのは、やっぱり秘密である。

 自分の望みを押し付けるのはいけないと理解しているから、それぞれでも幸せになって欲しい。

 これは本当に真摯に願っている事だ。



 そんな私が、一番恐れている事。

 それはエルザの病だ。



 前世と色が違うだけで全く変わらない容姿だというエルザ。

 では、死因となった病も同じ様に発症してしまうのでは、と恐くなる。



 病まで持ち越さないでほしいと、願わずにはいられない。

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