第23話
死亡日時が十年以上離れているが、何故今同い年なのかは分からない。
それはひとまず置いておこうと思い、先程気になっていたことを改めて訊いた。
「あの、それで、悪役令嬢転生や神様転生というのは、何なのでしょうか?」
彼女も思い出したような顔になってから苦笑した。
「ごめんなさい。そうでしたね。あの、まず神様転生というのは、その名の通り、神様に転生させてもらったというものです。転生特典で色々能力とか付与されるものみたいですよ」
成程、それなら、以前のあの男が神様転生というものなのだろう。
能力も付与されていたしね。
私は違うだろうな。
神様に会った事はないし、私の異能力は元々の能力らしいから。
「それで、悪役令嬢転生というのは、ゲームや漫画、小説なんかのいわゆる悪役に転生するものです」
「悪役、というと、敵側だったり、黒幕だったりする訳ですか?」
私が首を傾げながら訊いたら、彼女は肯きながら
「ええ。基本的に物語の主人公の邪魔をしたり、嫌がらせをする存在、で良いと思います」
そう言った後、彼女は表情を固くしつつ、私に続けて言った。
「おそらく、貴方は悪役令嬢転生だと思います」
――――思考が凍り付く。
予想していなかった言葉が、重く圧し掛かる。
それでも彼女の言葉を何とか咀嚼し、飲み込んで吟味する。
「……それは、この世界が、何らかの物語の世界、という事でしょうか?」
異世界に転生する、何て事があるのだ。
この世界と似た何かの物語だって、在るのかも知れない。
私の乾いた声に、彼女は沈痛な面持ちで
「全く同じではありませんが、あるゲームの世界に類似した世界だと思われます」
頭を揺さぶる言葉をそれでも飲み込み、考える。
類似した、世界。
全く同じではなく、違いもあるのだろうか。
ゲームでの出来事と同じ様な事が、起きるのだろうか。
私を始め、皆、それぞれこの世界で自分の意志で決断し、生きている。
だが、ゲームの進行通りに、何かが起こる、のかな……
「ゲーム、ですか?」
「ええ。乙女ゲーム、というのは分かりますか?」
彼女が言った言葉は理解できた。
「それは分かります――――その乙女ゲームの悪役、なのですか、私……」
乙女ゲームは、いわゆる女性向けの恋愛を大元にしたゲーム、で合っていると思う。
主人公であるプレイヤーが操作するキャラが、男性の攻略対象と結ばれるのが最終目的の場合が多かったはず、と記憶している。
「ええ。【月華のラビリンス】という名前の乙女ゲームの、ヒロインのライバルというより悪役でした。攻略にはパラメータは必要ではなくて、選択式だった上、展開がかなり心配で……」
彼女は暗い面持ちになって言葉を紡ぐ。
「……何か、問題が?」
不安になって訊いていた。
展開がかなり心配とはどういう事だろう。
彼女は私から視線をそらし、それでも告げた。
「あるエンディングだと、シュヴァルツブルク大公爵家の、イザークを除いた全員が処刑されるんです」
――――耳を疑った。
入って来た言葉が空虚に響く中、何とかその言葉を理解しようと務める。
「……全員、ですか?」
自分の声の温度の無さと乾いた様子に、自分で驚きながら訊いていた。
「ゲームの中では、エルザとその父親しか描写が無いので、確実なのはシュヴァルツブルク公爵と、娘のエルザですが……」
先程から衝撃が強すぎて、思考が麻痺してきた様だ。
頭がぼうっとなりそうになるのを、腿を抓る事で懸命に立て直しつつ、考える。
「あるエンディングだと、と言いましたね? それはどんなものですか?」
確か乙女ゲームには、攻略対象ごとに複数のエンディングがあるものが多かったはずだ。
選択肢だったり、パラメータで変わったりした、と思う。
それならば、処刑を免れるものもある、という事だろうか……?
彼女は視線を逸らしたまま、やるせない様子で告げる。
「全てのグッドエンドで、です。真相ルートでは罪が暴かれるんですが、他のグッドエンディングのルートでも、理由は知らされず人知れず事故死という形で処刑されるというのが、設定資料集で明かされました。公爵家は、イザークの物になって、公爵とエルザは処刑され、主人公の身分が元に戻される事で、物語は大団円で終わるんです……」
「……あの、何故シュヴァルツブルク公爵と? 我が家は大公爵家ですが……」
衝撃的な内容に、目の前がクラクラする。
とりあえず、些細な疑問を感じ、訊いてみた。
……一種の逃げかもしれないが、気になったのだ。
「ああ、ゲームだと公爵家なんです。大公爵家は出てきません。他にも色々差異はあるんですが……」
彼女は申し訳なさそうに下を向きながら言う。
「あの、出来ればゲームの設定を最初から教えて頂けますか? 分かる範囲で構わないのですが……」
私が考えて出て来たのは、この言葉だ。
断片だけでは、良く分からない。
詳しく知らなければどうしようもないだろう。
「はい、分かりました。ただ、その、プレイしたのがかなり前ですし、この世界がもしかしたら知っているゲームの世界と似ている、と気が付いたのもだいぶ後なんです。ですからかなり曖昧な所もありますが、ご了承下さい」
申し訳なさそうに言う彼女に、強張った顔を解し、微笑んだ。
「分かりました。ですから覚えている範囲で構いません。よろしくお願い致します」
私の言葉にホッとした様な表情をした彼女は、何かのメモを見ながら話し出した。
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