第24話

「ゲームは、アンドラング王国が舞台となります。アドベンチャーゲームですから、別にパラメータを上げる必要もなく、選択肢を選んで行くだけでエンディングにたどり着きます。勿論バッドエンドもありますが……主人公、つまりプレイヤーが操作するのは、デフォルト名が”エリザベート"という少女です。彼女は王弟と身分の低い女性との間に生まれました」


 そこまで告げてから、彼女は私を見る。


「そのエリザベートが八歳の頃、王弟である父が毒殺され、犯人が妻である母だとされたのです。そして母は無実を訴え自殺。彼女は罪人の娘とされ、平民に落とされました。それを彼女の母の両親が憐れみ、面倒をみてくれる事になりました。そして時が経ち、王の温情により、魔法学校へと入学が許され、通う事になった訳です。ここまでがプロローグです。そして魔法学校へと入学した時点から、操作していく訳です」


 そこで彼女はお茶を一口飲んで、深呼吸し、訊いてきた。


「ここまでで、何か気になった事はありますか?」


 考えてみると、ちょっと疑問がいくつか出てきた。


「あの、主人公の母は身分の低い女性、との事ですが、平民なのでしょうか? 王族殺しの身内なら、主人公の母親の実家もどうなったのか、描写はあるのでしょうか?」


 彼女はメモを見つつ答えてくれた。


「確か騎士階級、との事でしたね。ゲームでは、王族、貴族、騎士、平民が出てきていたと思います。主人公の母親の実家は取り潰されたはずです。母親の実家は元々その母親以外子供が無かったと思います。そこで年老いた祖父母に育てられたのが主人公ですね。家は騎士階級では無くなりましたが、王が憐れんで財産没収はしなかった、じゃなかったかな。それで財産を切り崩して生活していたと思います。だから主人公が祖父母を養うために、しっかりとした職に就きたいと頑張る、という話だったような、気がします」


 ちょっとゲームの王様が甘々な気がするのだが、乙女ゲームだからだろうか。


「分かりました。ありがとうございます。続けて下さい」


 私の言葉を聞いて、彼女はまたメモを捲りながら言う。


「攻略対象は七人です。まず一人目がメイン攻略対象の王太子のフリードリヒ。ただし、攻略出来る様になるのは最後で、真相が分かるルート、だったと思います。エリザベートが幼い頃、親切にしてくれたのは王太子のフリードリヒだけで、彼が主人公の初恋の存在であり、憧れの存在でもあるんです。そして彼には婚約者がいて、それがシュヴァルツブルク公爵家のエルザです」


 彼女はお茶を一口飲み、こちらを見る。


「訊きたい事は何かありますか?」


「フリードリヒ、って、あの、金髪だったりするのですか? メインであり、真相ルート、って事ですよね、彼。あの、この国の皇太子は決まっていませんが、ゲームでのルディアス殿下はどういった扱いなのでしょうか?」


 メインなのは納得なのだが、真相が分かるというのは、フリードのルート、大変っぽい。

 それにルディはどこにいったんだ、一体。

 混乱していて、上手く訊けない自分が情けない。


「フリードリヒは金髪で紫の瞳ですよ。メインとしてゲームのパッケージイラストで正面にデデンと載ってますからね。なのに攻略できるのが最後なものですから、色々言う人もいましたね。それより何より真相が結構胸糞、いえ、印象的だったので、私もゲーム設定をかなり覚えていた次第で……あ、ルディアスはフリードリヒの兄としていますよ。ただし王の前妻の子で、優秀なんですが、母親の身分が低いため、王太子にはなれなかったんです。ルディアスが優秀である事が、フリードリヒのコンプレックスになっているんですよ」


 何だか気になる単語が混じっていたのだが……

 胸糞って何なのだろう?


「ありがとうございました。続けて下さい」


 ちょっと怖いと思ったのは、ゲームのフリードも、ルディにコンプレックスを持っている事だろうか。

 私の感覚では、ルディとフリードに差は無い。

 無いのだが、フリードは気にしていたのだ。

 それもかなり深刻なレベル、だったと思う。

 今は少しは楽になっていたら良いのだが……


「次の攻略対象者はギルベルト。紺色の髪ですね。瞳の色は良く覚えていないので、勘弁して下さい。公爵家の跡取りで、最初は主人公に辛辣というか、興味が無いというか、そんな態度だったと思います。彼はフリードリヒの側近で、常に側に控えていた、と思います。それで、フリードリヒと、彼女の間で思い悩む、だったかな。実は主人公の事が昔から好きなんですよ。でもフリードリヒに遠慮して何も言えなかった。そして彼女がフリードリヒを好きだったのも覚えていて、苦悩する感じだったと思います。攻略の順番は早い方だったと思います。かなり朧げで良く覚えていなくてすみません」


 息を吐いて、彼女がこちらを見る。


「どうでしょうか、何か疑問とかは?」


「特に無いですね。ただ気になったのは、真相ルートのフリードリヒの側近なのに、攻略の順番は早かったのですね」


 しかし、ギルが恋愛感情で思い悩むとか想像できないのだが……

 彼が固いイメージだからかなぁ。


「ええ。彼より真相ルートに近い人がいますから。それでは続けますね。次の攻略対象はフェルディナント。彼は紫の髪に紫の瞳だったと思います。コンプレックスは女性に間違われる事だったかな。侯の方の侯爵家の跡取りですね。確かギルベルトと同時に攻略が解放されたような覚えがあります。それに彼のルートは砂を吐いたような、記憶が……」


 顔を顰めている彼女。

 フェルってそんな砂を吐くような所あったかな?

 むしろフリードがナチュラルに色々言いそうな気がしないでもない。

 エドが言うなら確信犯な感じだろうな。

 ルディは……どうだろう、謎だ。



 しかし女性に間違われるのがコンプレックスって……

 シューの方がもっと女の子っぽい感じがするのだが。

 ああ、シューは可愛い系の女の子っぽくて、フェルは綺麗系の女の人だ。

 ――――それで気にしているとか?


「気になった所はありますか?」


「あの、侯爵家なのですか? 公爵家ではなく?」


 私の問いに彼女は苦笑した。


「どうも、そう公爵家ばかり出すのは芸が無い、って感じだからじゃないですかね。シュヴァルツブルク家と、ルードルシュタット家だけでしたよ、公爵家は」


 まあ、ゲームでそう公爵ばかりってのも何だかなぁと思うし、納得ではある。


「ありがとうございました。続けて下さい」


 彼女は一口お茶を飲み、


「次の攻略対象はエドヴァルド。黒い髪だった記憶があります。伯爵家の跡取りで、国の裏側の仕事を主にしている一族です。その一族の仕事に誇りを持っているのですが、主人公を好きになって、一族の事を知られたくないと、苦悩する感じでしたかね。攻略が解放されるのはフリードリヒの前で、実質最後から二番目ですね」


 彼女は心配げに私を見る。


「あの、質問はありますか?」


「特には。続けて下さい」


 エドの家の事は、幻獣を得てから知らされていた。

 だから驚きは無い。

 四大公爵家の魔力無し以外は、もっと早く知らされるものらしいので、私はかなり遅い方だと言う。

 イザークも外の子扱いなので、私と同時期だったらしい。


「次の攻略対象はロタール。薄い紫色の髪だったと思います。男爵家の跡取りで、父親が母親と駆け落ちしたんじゃなかったかな。それで父親が死んで、男爵家に引き取られた。確か攻略が一番最初に出来て、割と簡単だったかな。男爵家としても、また駆け落ちされたら堪らんというので、割とあっさり結婚を認めてくれた、と思います。主人公の境遇に同情的で、初めから親身だった様な……」


 一息ついた彼女が訊いてきた。


「何か疑問はあるでしょうか?」


「男爵家に引き取られた、と言いましたね。その前に誘拐はされたりしていないのでしょうか?」


 ロタールは、引き取られる前に誘拐されていた。

 ゲームでは違うのだろうか。



 彼女がメモを見ながらブツブツ言った後、こちらを見る。


「……誘拐されたかもしれません――――そうだった、それで暗闇が怖くて、主人公とイベントがあったんだった。すみません。忘れていました」


 彼女がばつが悪そうに落ち込んでいる。


「気になさらないで下さい。転生してから十年近く経っているのですから、忘れて当然です。むしろ良く覚えておられると思います。続きをお願いします」


 彼女は息を吐き、お茶をゴクゴクと飲み干し、カップへまたお茶を注いでから、こちらを見た。


「攻略対象なのはイザークです。銀髪で、エルザの儀理の弟。父親が早く亡くなったため、父の実家のシュヴァルツブルク公爵家に引き取られました。ですが、家での居場所が無く、孤独でした。そこを癒すのが主人公ですね。攻略が解放されたのは、ギルベルト、フェルディナントと一緒だった様な気がします……続けて言った方が良かったですね」


 彼女がちょっと落ち込んだのが分かる。


「大丈夫ですよ。気になさらないで下さい」


「質問とかはありませんか?」


「少し気になったのは、イザークの父親は出奔した訳ではないのですね?」


 メモに目を走らせた彼女は肯く。


「――――ええ。出奔していないと思います。単に早死にしただけだったはずです」


「ありがとうございます。続きをお願いします」


 彼女はメモを確認し、息を吐いて、私を見た。


「攻略対象なのはシュテファンです。髪の色は黄色だった様な、気がします。彼は平民ですが、とても優秀で、飛び級で入学してくるんですよね。プライドが高くて、人を見下している感じなんですが、要は人付き合いが下手なだけな、基本的には良い子だったと思います。確か二つか三つ年下だったかな。いわゆるショタ枠ですね。それで最初に攻略できた、と思います」


 彼女の言葉にちょっと戸惑う。

 シューは同い年だ。

 だがゲームでは年下の設定らしい。

 確かに根は良い子だが、最初に出会った頃は気を張っていたのは確かだな。

 今は割と自然体なのが、救いと言えば救いか。


「何かありますか?」


「いいえ。大丈夫です。続きをお願いします」


 彼女は目を一瞬閉じてから、瞳をこちらに向けた。


「最後の攻略対象はハンバート。綺麗な緑色の髪でしたね。彼は騎士階級の出身なんです。気さくで社交的な人ですね。主家が問題で、その解決をする事になるんです。攻略が解放されるのは二番目だったはずです。彼は基本的に良い人で、困っていた主人公を助けて以来、良く関わってくる感じ、だった様な……それで段々親しくなって、家の問題を二人で解決する様になるんじゃなかったかな」


 彼女は言った後、お茶を一口含み、それから深呼吸して、私を見る。


「ここまでで、何かありますか?」


「ハンバートとは、主人公は学校で初めて会うのでしょうか? 以前、主人公が王族だった頃に接点は?」


 知らいない人の名前が出てくると、安心する様な、不安な様な、複雑な気分だ。

 初めて見知らぬ人の名前が出て来たから、戸惑っているのは否めない。



 メモを見直しながら、彼女が言う。


「学校で初めて出会いますね。特に以前知り合いだったとかは無いと思います」


「ありがとうございます」


 お礼を言ってから、ちょっと考えてみて、困惑している事がある。



 何故、一人を除いて、攻略対象の皆を良く知っているのだろう。

 私が悪役だからなのだろうか……



 思考が暗くなってしまうのを抑えられない。

 かなり欝々と考え込んでしまった。

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