第22話
しっかり寝ようと思うのに、気になったり心配だったりであまり寝れなかった。
私って、メンタル弱いのかな……
何かあると思考が逸れるのは自覚があるのだが……
もっとしっかりしなきゃと自分を戒めつつ、朝の準備に取り掛かった。
今日はお父様は私が起きるより早く家を出たらしく、イザークと一緒の朝食になった。
ただ、私はこれからの事で頭が一杯で、ろくにイザークと会話出来なかったのは申し訳ないと思う。
寂しがり屋のイザークを独りにしてしまったみたいで、後で沢山話そうと決め、早すぎない、丁度良い時間帯に家令のツィルマールに連絡してもらった。
昨日の内に話をツィルマールに通しておいたから、スムーズに済んだ。
翌日の予定を訊かれた時に、ちゃんと言えたのが我ながら良かったと思う。
頭が何とか働いて、本当に安堵した次第である。
電話の前に準備はしておいたから、直ぐにチューリンゲン侯爵家へ向かう事が出来た。
道中の馬車の中で、何を訊いたらいいのかを昨夜に引き続き悩みながらである。
一応、昨夜の内に箇条書きのメモ程度に思い付く質問を書いておいたのだが、それを見つつ復習し、足りない事はまた考えようという結論に達したころ、件の侯爵家に到着した。
案内されながら思うのだが、今回はあまり思考が逸れるとか無くて、むしろその事ばかりが頭を占めているのが、何だか不安になる。
いつも何かあると別の事を考えたりするのに、今回はあまりそれがなかったのが、なにか、気に掛かって仕方がないのだ。
だが、応接室に入る段階になって、その不安を一蹴した。
今考えるべきは、彼女の事だけだ。
そう気合を入れ直し、足を踏み入れた。
「おはようございます。良くいらして下さいました。心より嬉しく思っております」
そう言う彼女は、酷く緊張しているのが見て取れた。
「おはようございます。こちらこそ、押しかけてしまってごめんなさいね」
そう言いながら、席に着く。
私が席に着いてから、彼女も座り、侍女達がお茶とお菓子を用意した。
「ああ、二人で話したいの。侍女達は下がらせて頂ける?」
私が言った言葉にびくりと震えてから、彼女は侍女達を下がらせた。
今日は二人だけで話したかったから、アデラもルチルも連れて来なかったのだ。
さて、何から話そうかと思案していたら、意を決した様な表情の彼女が声をかけてきた。
「あの、出来れば話は日本語でお願いできますか」
私は首を傾げながら
「それは別に構いませんが、何故ですか?」
「前世関係の事を訊きにいらしたんですよね?」
彼女が質問を返す。
「ええ」
「でしたら、やはり日本語で話した方が、話しやすいと思いまして……」
何となく分からなくもない。
「分かりました。それでは日本語で」
私が日本語で返したら、彼女はどこかホッとした顔で肯いた。
「ありがとうございます」
質問自体は決めてある。
だから単刀直入に言ってみよう。
「転生したのですよね?」
彼女は緊張しながら、それでも肯いた。
「ええ。おそらく」
「なら、転生前、もしくは後に神様の様な、そんな存在に会いましたか?」
彼女はハトが豆鉄砲でもくらったような表情で首を振る。
「はい? じゃなかったいいえ。そんな存在には会っていません。貴方は会ったんですか?」
「いいえ。会った事はありません」
それに何故か安堵した様な彼女。
「悪役令嬢転生の上に神様転生とか、属性盛りすぎだものね」
彼女の言葉に引っかかる単語がある。
「あの、悪役令嬢転生、とは何ですか? 神様転生も字面から意味は察せられますが、知らないのですが……」
私の言葉に今度は彼女が面食らった様だ。
「え!? 知らない? もしかして、ネット小説とか読まない人だったりします?」
「いいえ。読んだりはしていましたよ。主に二次小説でしたけれど」
うん、検索して、二次小説とか読んでいた。
アニメや漫画、小説、ゲームとディープではないが好きだったのだ。
「それで、神様転生を知らない、と……あの、亡くなった年齢を訊いても?」
考えながら彼女が言う。
「十八歳ですよ。誕生日は確か過ぎていたと思うので」
確か死んだのは、春の次の誕生日の目前くらいではなかったろうか。
季節感は曖昧だが、そんな気がする。
「私は、アラサーです。これで勘弁して下さい」
苦笑気味の彼女の言葉にまた引っかかる。
「あの、アラサーって何ですか?」
彼女はまたびっくりした様な表情になってから、思案顔になった。
「え! これも知らないの!? ――――あの、何年頃に亡くなったか、分かりますか?」
「確か……病室で父が二〇〇〇年問題が問題にそうならなくて良かったとか言っていたので、二〇〇〇年代にはなっていたと思います。ごめんなさい。長く入院していたものだから、日時がかなり曖昧なのです」
気を失って、気が付いたら何日か経っていたとかもあったり、集中治療室とかで身動き取れなかったりと色々あって、日時は良く覚えていないのだ。
「……十年以上死亡日時が離れてるって可能性がある訳か……」
彼女の呟きを耳にし、驚いた。
「十年!? でも今は同い年ですよね。私、この春で九歳になったのですが……」
彼女も困惑顔で
「――――私は夏で九歳になりました……死因が原因とかでしょうか。貴方は、その、病死ですよね?」
「ええ。貴方は?」
あ、しまった病死じゃなくて刺殺だった。
でも、間もなく病死しただろうし、問題はないだろう。
「私は交通事故です。車を運転していたら、衝撃を受けて、暗転して、気が付いたらこの世界でした」
「私も暗闇に沈んでいって、気が付いたらこの世界でした――――死因は関係ないのでしょうか……」
二人で顔を見合わせ、首を傾げるしかなかった。
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