第14話

 あれ? 何か忘れている様な……

 って、ああ、もう!

 本当に私は!!


「ロタール、調子はどう? どこかおかしい感じとか、痛みとか、何かある?」


 私は慌ててロタールを見つめて訊いた。


「そうですね。えっと、何か身体が軽くなった、というか、スッキリした、というか、不思議な、感じ、です……痛みや、変な感じ、は、無い、です」


 考え考え、一生懸命に答えてくれた。


「良かった! うん、私ももう違和感がないし、おかしい感じもしない――――ディート先生は、どうですか? ロタール大丈夫でしょうか?」


 私が訊いたら、ディート先生は目を眇め、良く観察してから答えてくれた。


「……俺が見た感じでは、大丈夫だな。まあ、エルザの方がこの手の事にはどうも感覚が鋭い、って認識なんだがな。エルザが大丈夫だというのなら、問題はない、とは思うが、一応、色々調べておくか」


 そうディート先生が言うと、白衣を来た人達が部屋に入って来た。

 扉がなかったのだが、急に壁が無くなって入ってきたのだから、驚いてしまう。


「ロタール、当主夫妻には俺から連絡しておく。二、三日、ちょっとまた検査入院だ。悪いな。こっちの落ち度だ」


 ロタールは、真面目な顔で肯いた。


「はい、分かりました。あの、色々、ありがとう、ございます。気に掛けて、頂いて……」


「気に掛けるのは当然だろ。仮にも帝国民だしな。だから気にするな」


 ディート先生はそう言いながら、ロタールの頭を撫でていた。


「エルザ、それじゃ帰るぞ――――ロタールの事は任せた」


 入って来た白衣の人達にディート先生が言った言葉が終わるや否や、また転移していた。





 あれから、クレーフェ伯爵夫妻に事情を説明したり、心配そうなディルが中々側を離れてくれなかったりと色々あった。

 ディート先生は、とりあえずまた忙しいらしい。

 クー先生の方は、一応手が空くとかで来てもらえる事になった。



 ただ、ディート先生に頼んだ事がある。

 ロタールの検査が終わり、家に帰れたら教えて欲しい、というものだ。



 ディート先生は了承してくれて、その時は自分が護衛代わりで付き添うと言ってくれた。

 私の外出は、未だに結構な人数に付き従われている。

 それをとても申し訳ないと思うから、あまり外出出来ない。

 慣れようとは思うのだが、中々難しい。



 ディート先生やクー先生、ヒルデ先生がいれば、護衛の人数も最低限で済むから、ありがたいのだ。





 せっせと魔導結晶に力を沁み込ませる。

 出来たばかりのブレスレットに装着された魔導結晶は、全て使い切ってしまったから、補充が大変なのだ。



 ディート先生曰く、石の大きさは変わらないから、今までの分でブレスレットもネックレスも元通りになるが、予備が少なくなってしまうから、補填しおくに越したことはない、だそうだ。

 確かにその通りだと思う。

 力の制御というか、規模がおかしくなっている今の現状、あればあるだけ安心だろう。



 ディート先生に教えてもらって、ちょっと試したかった事があるから、石はあるだけ良いだろうとも思い、せっせと励んでいる。






 ロタールが退院したとディート先生に教えられ、会いに行く事にした。

 アデラはお留守番なのは相変わらずで、彼女は膨れていたが、仕方がない。

 不安定な状態の人には、アデラクラスの妖精は、刺激が強すぎるというのだから。



 ルチルはドラゴンだが、幼生も幼生だから平気だという話で、こういう色々な知らなければならない事が多いのは大変だ。

 だが、新しい事を覚えるのは、それはそれで楽しいとも思う。

 元々、学ぶのは好きな方だから助かったと、こういう時に思うのだ。





「ロタール、大丈夫?」


 応接室で出迎えたロタールを見たら、真っ先に出たのがこの言葉だった。


「はい。あの、先日は、本当に、ありがとう、ございました……また、来て、いただけるとは、思いませんでした」


 ロタールは、ちょっと微笑んで、嬉しそうに言った。


「会いに来たのは、迷惑だった?」


 私が不安で訊いた言葉に、彼は首を急いで振り、


「いえ、そんな事は、ないです。ありません。嬉しい、と、思っています」


 そのロタールの言葉に、胸を撫で下ろす。


「良かった。ロタールとは友達になりたかったから、嫌がられたら、悲しいもの」


 私の言葉を聞いたロタールは、呆然としていた。


「ロタール? どうしたの? やっぱり友達になりたいって、図々しかった?」


 私が心配で訊いた言葉に、彼を一生懸命に首を振る。


「……違います。違うんです。あの、どう言ったら、良いのか、分からないです、けど、あの、本当に嬉しい、です。誰も、私、の友達になってくれた人は、いなかった、から、あの、どうしよう、えっと、凄く、嬉しくて、あの、本当に、ありがとう、ございます」


 言葉を一生懸命に紡ぐ彼の目からは、とめどなく涙が零れている。


「お礼なんていいわ。折角出会ったのも、何かの縁よ。これからもよろしくね、ロタール」


 ハンカチを差し出しつつそう言ったら、


「ありがとう、ございます。これからも、よろしくらお願いします」


 私のハンカチをおっかなびっくり受け取りつつ、涙は袖口で拭いていたロタールに思わず笑みが零れる。


「ハンカチで拭いたら? 汚くないから大丈夫よ?」


 私の言葉に狼狽えたロタールは


「あの、貴方のハンカチを汚すのは、えっと、その、凄く気が引け、ます。なら、袖口で拭いた方が、安心です」


 ますます笑みが零れる。


「そのハンカチ、プレゼントした方が良い? それなら思い切り使えるでしょう?」


 私が言ったら、彼はオロオロしだした。


「プレゼント、は、申し訳ないです。あの、お返し、あ、洗ってからですよね。申し訳ありません」


 クスクスと笑いながら答えた。


「使っていないのだから、そのまま返しても良いと、私は思うわ。他の人は分からないから、何とも言えないけれど」


 ロタールは慌てて私にハンカチを差し出した。


「あの、ありがとうございました。えっと、助かりました」


「いいえ。友達が泣いていたら、当然の事よ――――そうそう、渡したいものがあったの」


 私の言葉にロタールは首を傾げていた。


「これよ。一応、もう大丈夫だとは思うけれど、心配だからね。これからは、その石を身に付けていたら、きっと大丈夫。守ってくれるわ」


 そう言って、私の力を具現化させて、結晶化させた宝玉を彼に差し出した。


「あの、これ、えっと、何ですか? とても綺麗、です。魔導結晶、ですか?」


「ああ、これ、私の力を具現化させて、結晶化させた物なの。どうしてか分からないけれど、結晶化させた物を視たディート先生が、魔法以外にも物理攻撃にも効くって言うのよ。不思議よね」


 本当に不思議である。

 通常の状態で私が力を使っても、剣とか拳とかの物理攻撃は防げないのに。



 石を大量に使う事になってしまい、申し訳ない気持ちが一杯ではあるが、ディート先生曰く、ロタールに何か印が付けられているかもしれないから、今後も気を付けるに越した事はない、という話で、お守りに丁度良いと思ったのだ。


「え!? そんな、貴重な、物、申し訳ない、です。もらえない、です」


 慌てるロタールの手を取り、宝玉を乗せる。


「これはロタールのお守りになるわ。必ずいつも身に付けていてね。しばらく身に付けていたら、多少離しても効果があるって」


「あの、もらえません! だって、あの、私、ばかり、何かしてもらって、あの、悪いです」


 ロタールは目を白黒させている。


「友達が困っていたり、大変な時は、手を差し伸べるのが友達だと思うの。今はロタールが大変だから、私が色々しているだけよ」


 私の言葉に、ロタールは固まった後、


「……貴方が大変た時は、何があっても力になります――――友達ですから」


 ぎこちないながら、笑顔を浮かべて、そう言ったロタールに私も微笑みかけた。


「ありがとう、ロタール。これからもよろしくね」


「はい、よろしくお願いします。エルザ様」


「エルザで良いわよ?」


 そう言って手を差し出す。



 ロタールは戸惑った後、


「……よろしく、お願い、します。エル、ザ」


 たどたどしいながらに私の名を呼んで、手を握ってくれたロタールに、私は精一杯の笑顔を向けた。

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