第13話

 これは、今、言った方が良いのだろうか……?

 ディート先生がいる今、言った方が良いだろう。

 そう思う。

 それなら、侍女さん達には退出願おう。


「侍女達を下げてもらえる? ちょっと話したい事があるの」


 そう言ったら、ロタールは慌てて、


「分かりました! あの、席を外して下さい」


 ロタールの言葉を聞き、彼女達は退出していく。

 それを確認してから、今まで私達の様子を楽しそうに眺めていた、ディート先生を見る。


「ディート先生、ロタール、何かに憑りつかれています」


「……何だって?」


 真面目な顔になった。


「何かが、魂にがっちりと食い込んでいる感じなのです。それはとても良くないモノだと思います」


 そう、今日視た時から気になっていた。

 何とも言えない変な感じ。

 それが彼に触れられたら、何かが憑りついているのだと、不思議と分かったのだ。


「二人でも見抜けなかったってのにな。そう言う事なら、ちょっと待ってろ」


 そう言って先生はちょっと沈黙した。

 それにしても、私の言葉を直ぐに信じてくれる、ディート先生にはやっぱり感謝だ。

 本当にありがたいし、嬉しい。



 って、ああ、もう、私ったら!


「大丈夫よ、ロタール、何とかするから」


 私は精一杯の笑顔を彼に向けた。


「……私、は、攫われていた時の記憶が、無い、んです。だから、その、何かが起こっていても、分からないのが、とても、不安です」


 震えているのに、ぎこちなく笑顔を向ける彼が放って置けず、思わず抱きしめた。


「大丈夫よ、ロタール。私が必ず助ける。約束する」


 背中を摩りながら伝えたら、震えが、少し収まったみたいだ。


「エルザ、勝算はあるのか?」


 ディート先生が確認する。


「はい!」


 これは断言できる。

 彼に触れた瞬間も、今も確信がある。



 これは、私には簡単に、消去できる、と。



「なら、ディルク、ちょっと留守番な。エルザとルチルとロタールはちょっと移動だ――――いくぞ」



 言うが早いか、どこかに転送された様だ。

 白い部屋? いや違う。

 床にも壁にも、そして天井にも、何かの魔法陣が描かれている。

 窓は無く、隙間もなく何かが書き込まれた、不思議な部屋だ。


「良し、到着、っと――――エルザ、ちょっと頼みがあるんだが」


 ディート先生が難しい顔で言う。


「何ですか?」


「ああ、無理なら無理で良いんだが、その憑いてるモノを、取りだして、捕まえる事は可能か?」


 先生の言った言葉を咀嚼する。


「不可能ではない、と思います。消去する方が簡単だと思うのですが、捕まえた方が良いのですね?」


 私が確認すると、ディート先生は申し訳なさそうに


「ああ、捕まえられるのなら、捕まえてほしい。何も話さず、こちらの都合ばかり押し付けてる上に面倒かけて悪いが、頼む」


 先生の言葉に微笑んだ。


「ロタールの為になるし、色々役立てるのなら、喜んで」


「ああ、なら、部屋の中央でやってみてくれ」


 私の言葉に、先生は苦笑しつつ、そう指示した。



 ロタールと二人、部屋の中央に陣取る。

 ルチルは私の肩に着陸ずみ。



 石から力の源を得て使う、初めてのものだが、緊張は無い。

 不思議と心が落ち着いている。

 力を使う事は、あの森での事件以来。

 だが、十全に使いこなせる。

 問題は無い。



 ロタールを見つめる。

 それだけで、彼が淡い黄金色に包まれた。



 そう、消去するよりは難しいが、それでも簡単だ。

 あの嫌な感じのする、魂にがっちりと食い込んでいるモノを、私の力で包み込む。

 それだけで、魂から外れたのが解る。



 あれ程強固に食い込んでいたのだが、一瞬で離れてしまった。

 それを力で包んだまま、慎重に身体の外まで持っていく。



 良し、身体の外に出た!



 それは、まるで酷く気味の悪い悪趣味な首輪に、ギザギザの大きな鋭い牙が生えている様なモノだった。



 私の力に包まれている外側に、紫色の光の膜が幾重にも踊っているのが見て取れる。


「エルザ、力を消してくれ。このままだとこっちの捕獲用の魔法まで無効化される」


「はい!」


 急いで、私の力を消す。



 すると、その瞬間、私の腕にあった魔導結晶のブレスレットと、ルチルの首のネックレスにした魔導結晶が全て崩れ落ちてしまった。


「え!?」


 戸惑った私にディート先生が心配げに声をかけてきた。


「こっちは無事捕獲し、転送が終わった――――エルザ、何となく分かるんだが、リミッター、外れてないか? 今のは過剰な力だった気がする」


「リミッター、とは何ですか?」


 思わず問い返した私に先生は眉根を寄せ告げる。


「ああ、力を出し過ぎて、生命力とか、魂の力とかを使わない様にする為のものだ。それを任意で外す事も可能ではある。魔力も際限なく使おうと思えば、使えるんだ。ただし、死ぬし、場合によっては転生も出来なくなり消滅するがな――――で、だ。エルザの力なんだが、前に男に使った時は別に思わなかったんだが、今はリミッターが外れているんじゃないかと感じる。何となくだが、もっと小さい力でもあれはエルザなら可能だった、と思う」


「そうなのですか?」


「ああ、思うに、この前の森での一件で外れたのかもしれん」


 成程、と思った。

 確かに、あの時、死にかけたのと必死だったのとでリミッターが外れてしまったのかも。


「あの、リミッターは外れたままだと不味いのですか?」


 私の問いに渋い顔でディート先生は教えてくれた。


「ああ、不味いな。下手したら石全部でも足りずに、生命力ばかりか魂の力まで使いかねない。出来れば枷はあった方が良い。そうだな、力の加減を覚えた方が良いかもしれないな」


「力の加減、ですか……」


 どうやったら良いのだろう。

 まるで分からない。


「場合、場合に合わせた力を使えるように訓練してみるか?」


 先生の言葉か嬉しい。


「はい、訓練します!」


 元気よく答えたのだが、魔導結晶、もっといる事になってしまって、それは本当に申し訳ないと心が苦しくなった。

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