第4話

「ったく! 勝手にどこ行くんだ、お前は!」


 ディート先生の声がする。

 そこで、ようやく皆を置いてきてしまった事に気が付いた。


「ごめんなさい、ディート先生。でも、あの、何というか、凄い違和感を感じて、そうしたら、この子がいたのです……」


 私がディート先生を見ながら申し訳なくて言った言葉に、


「成程な……かなり衰弱はしているが、命に別状はなさそうだ」


 少年を見ながらディート先生は答える。



「「エルザ!」」

「姉上!」


 続けざまに聞こえた声にそちらに目をやれば、表情の怖い三人が瞳に映った。


「ごめんね、ルディ、フリード、イザーク。あの、なんていうか――――」


「違和感感じて来たら、この子がいたんだと」


 ディート先生が私の言葉を遮り言う。


「救急車を呼びますか?」


 クー先生が言う。

 あ、ディート先生、クー先生とヒルデ先生とバルドにさっきの言葉を言ったのか。


「そうだな……うん? ちょっと連絡待て。この子供、どっかで見た事あるな」


 連絡しようとしていたらしいクー先生をディート先生が制する。


「――――ああ、そうだ、捜索願が出てた子供だな。やつれちゃいるが、面影がある。なら、連絡するのは警察も追加か」


 捜索願って、大変だ、この子も私達みたいに攫われたのだろうか。

 でも、どうやってここに?



 そして、握られた右手から感じる、違和感と、勇の気配。


「……エルザ、右手が気になるのか?」


 私が凝視していたからだろう。

 ディート先生が訊ねる。

 その言葉に無意識に肯いていた。


「クー、ヒルデ、防御結界。光学迷彩と防音、人除けも追加。バルドはエルザを」


 ディート先生の言葉を聴き、バルドが私が抱えていた少年を自分が抱き上げ、私から引き離す。


「ディート先生?」


 思わず訊ねた私にディート先生は片目を瞑って


「どうなるか、分からんだろうが」


 そう言ってバルドの側に行く。



 私は気になって気になって仕方がないのに、ルディとフリードも私の前に立ち、私を離そうとする。

 イザークは、私を後ろから抱きしめた。



 皇族に庇われるって、貴族的に問題だと思うのだが……


「あの、ルディ、フリード、私は大丈夫だよ」


 そう言ったのだが


「何があるか、分からぬ。エルザは前に出るな」


 ルディは私を見て心配そうに言うし


「そうだ、エルザ。我らならば問題は無い」


 フリードは優しく私を安心させるように微笑んで言う。


『そうよ、エルザ、ここにいましょう』


 アデラもそう言うし、ルチルも私の肩で肯いている。



 どうやら、私はこのまま見守るしかない様だ。



 ディート先生は、クー先生とヒルデ先生が結界を張ったのを確認してから、少年の握った右手を広げる。



 そこに在ったのは、不吉なほど目に鮮やかな、毒々しく、禍々しい、血の滴る様に赤い、宝玉だった。



 その宝玉は大人の親指程あるだろうか。

 その宝玉から感じるのは、勇の気配だ。


「魔結晶か? いや、魔導結晶の方が近い、か。見た事がないな。誰か視た覚えがある奴いるか?」


 ディート先生の言葉に、ルディが


「以前、エルザが攫われた時に見た様な気がする」


 その言葉に、ディート先生は険しい顔をして


「救急車も警察も呼ぶ訳にはいかなくなったな。クー、連絡」


「はっ」


 ディート先生の言葉にクー先生が答える。



 何処に連絡したのだろう?

 そう思っていたら、突然、男の人達が複数現れた。



 その人達は、前世でアニメや映画で見た様な、睡眠カプセル、みたいな物を持ってきていて、そこに倒れていた少年を収容する。



 そして件の宝玉を、何か特別そうで頑丈そうな、学生鞄程の箱にしまって、少年を収容した物と一緒に男達は直ぐにまた消えた。


「ルディアス殿下、フリードリヒ殿下、来て頂けますか」


 ディート先生が二人に言う。


「エルザの側を離れるのは危険ではないか? 私は断る」


 ルディはそう言って私を見る。


「そう言わないで、ルー。私は大丈夫よ。クー先生もヒルデ先生も、バルドもいる。それよりも、あの宝玉が、凄く気になるの。お願い、ルー、力を貸して」


 私が必死に頭を下げると


「……分かった。それがエルザの願いなら、聞き届けよう」


 ルディは渋々といった調子で納得してくれた。


「ディート先生、この宝玉の事、何か分かったら教えて下さい」


 私はディート先生に一生懸命頼んだ。


「……構わないが、教えられる事と出来ない事があるのはわかるな? これが機密情報に該当した場合、何も教えられない事も覚悟出来るか?」


 ディート先生は優しい顔で私に問う。


「はい、それは覚悟します」


 私に言えるのはこれ位だ。

 宝玉の事は気になるが、機密だと言うのなら、私は我慢しなくてはならないだろう。

 それが決まりという物だ。

 残念だが、そうなった場合諦めるしかない。

 いつか、また、何か機会があるのかもしれないのだから。


「偉いぞ、エルザ」


 私の頭を撫でてそう言ったディート先生は


「それじゃ、行くぞ。場所は分かったな」


 ルディとフリードに言った言葉に、二人は肯く。


「では、エルザ、行ってくる」


 ルディはそう言って名残惜しそうに消える。


「エルザ、話せることがあったら、話す。気を付けて帰るのだぞ」


 フリードは私を心配そうに見つめて消えていった。

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