第5話

 勇の気配のする宝玉を持った少年を見つけてから、数週間。

 ディート先生も、クー先生も、ルディともフリードともろくに連絡が取れない。



 私の授業はヒルデ先生が担う訳だか、先生は基本何でも教えられるので、問題は無い。

 無いのだが、あの宝玉がとても気になって仕方がない。



 そう朝食を食べ終わり悶々としていたら、腕輪型の通信機に連絡が入る。


「あ、エルザお姉様、今日、お暇ですか?」


 ルードルシュタット大公爵家のアウレーリアのリアだ。


「うん、大丈夫よ。どうしたの?」


「はい、折角ですから、我が家のプールで一緒に過ごさないかと、お誘いを」


 成程。

 丁度今日は特に予定は無い。

 ディート先生とクー先生が忙しいらしいのだ。


「ええ、それじゃ伺うわね。何時ごろだと大丈夫?」


 リアは元気よく答える。


「いつでも大丈夫です。待っていますね」


 そして通信は切れた。



 家で悶々としていても建設的ではないのは明白だ。

 ならプールで過ごすのも良いだろう。

 リアもいるのなら、楽しいだろうし。



 護衛の人達が大変だと思って、ろくに外出出来ない日が続いていた。

 やっぱり申し訳ないが、今の私が外出するならこれが当たり前なのだ、と言い聞かせるしかないだろう。

 それでもまだ慣れないのが、本当に私の仕様がない所だ。

 きっと一生慣れないかもしれないな、とは思うのが、私の私たる所以かもしれない。



 侍女に直ぐに伝え、準備してルードルシュタット家へ向かった。





「いらっしゃいませ、エルザお姉様!」


 この頃暑いけれど、リアは元気だ。


「お誘い、ありがとう、リア。何処で着替えたら良いかな?」


 私が訊ねると


「プールに面した部屋を用意しておりますから、今案内させますね」


 そう言って侍女を呼び、案内してくれた。





 着替え終わり、窓を開けてプールに出る。

 おお、結構広い。

 ルチルは早速飛んで行ってしまう。

 アデラは近くで浮いたままだ。



 って、誰か、泳いでいる!



 目を凝らすと、それはギルだった。


「うん? エルザか? どうした?」


 ギルは私に気が付いて、泳ぐのを止める。


「リアに一緒にプールで過ごさないか、って誘われたの」


 そう説明すると、


「私に連絡がないな。いつも夏は泳いでいるのだが……」


 ギルが眉根を寄せる。


「ごめんなさい、邪魔するつもりは無かったのだけれど、えっと、帰ろうか、私」


 申し訳なくて提案したら、ギルは苦笑した。


「私の方が邪魔だろう。隅っこで泳いでいるから、気にするな」


 ギルはそう言って端による。

 確かにこれだけ広いと三人で泳いでも大丈夫だろうし、ギルがそう言うのなら、大丈夫なのだろう。

 ギルの邪魔をしないのなら、良いのだが。


「うん、そうするね。ありがとう、ギル」


 ギルは微笑んで


「礼を言われる程の事ではない」


『エルザ、来たのか』


 ギルが話し終わったら直ぐに声がして、そちらを見ると、フヨフヨ浮いた、ギルの幻獣であるフーがルチルと戯れている。


「フー、ルチルの相手をしてくれていて、ありがとう。着替え終わったら直ぐに飛んで行ったから、どうしたのかと思っていたのだけれど、フーがいたのね」


 フーはつぶらな瞳を和ませ


『気にするな。ドラゴンの幼生は大切にしなければならない。苦痛ではない。私も一緒に泳いでも良いか?』


 それには即答だ。


「勿論!」


『ありがとう、エルザ』


 フーは嬉しそうだ。


「申し訳ありません、エルザお姉様。遅くなりました!」


 そう言ってリアが水着姿で登場する。


「リア、私に連絡が無いのはどういう事だ?」


 ギルが早速問いただしている。


「え、今日も泳いでらしたのですか! 良く飽きませんね」


 リアが呆れた様に言うと


「飽きる訳がないだろう。泳ぐのは好きだ」


 ギルが何を当たり前の事を、という感じで返す。


「でしたら、海でもお行きになったらよろしいのに」


 リアが不思議そうに言うと


「海か……確かに、それは良いかもしれん。ただ、我が家のプールで泳ぐのも好きなんだが」


 ギアが難しい顔をしている。


「もう、お好きになさいませ」


 リアがどうやら匙を投げて、会話は終了となった様だ。



 思わず笑みが零れる。


「二人共、仲が良いよね」


 私の言葉に二人は顔を見合わせ


「そうか?」


「そうですか?」


 綺麗にハモる。


「うん、そういうところとか、仲が良いな、って思う」


 ギルは首を傾げ


「年の近い兄妹は少数派だからだろう」


「ですわね」


 リアも肯く。


「そうなの?」


 私の問いにギルは


「ああ。貴族や士爵は子が出来ずらいのもあって、年が近い兄妹は少ない方だ」


 リアも真面目な顔で


「子供は、貴族や士爵なら最低でも二人は産むのが推奨されておりますからね。ですが、通常は中々子宝に恵まれにくいのです。なので間が普通に十年とか開いたりしますからね」


「ああ、確かに子供が出来ずらい、って聞いたわ。寿命が長いから十年開いても、問題はないのか」


 私が納得して肯いたら


「魔力無しは子供が出来やすいらしいが」


 ギルがボソッと言う。


「そうらしいですわね。でも、大抵の魔力無しは子供を一人産んだらそれで亡くなるとも聞きます」


 リアが続けて言った言葉に落ち込みながら、


「らしいね。ただ私の場合、幻獣を、それもドラゴンと誓約を交わせたから、どうなるか分からないらしいよ」


 それにギルはホッとした顔で


「そうなのか。それは良かった」


 リアも笑顔になる。


「先生から伺ってはおりましたが、やはりそうなのですか。それは喜ばしいですね」


 二人が喜んでくれてなんだか嬉しい。


「ありがとう、ギル、リア。やっぱり長生きはしたいと思っているから、この話を聞いてちょっと嬉しかった」


 私がそう言ったら、


「エルザがいなくなるのは嫌だからな。出来るだけ長生きしてくれ」


 ギルが真剣に言う。


「ええ、エルザお姉様が長生きして下さるならとても嬉しいです。私はまだ兄も同じ紫系の瞳で恵まれていますけれど、やはりこの瞳を持つと長命ですから、大切な方と死に別れるのは確定しております。それでも少しでも長生きして欲しい、そう思ってしまいます」


 リアも真剣に言ってから微笑んだ。


「さあさあ、エルザお姉様、泳ぎましょう!」


「ええ、そうね」


 言ってから、準備体操を始める。

 やっぱり準備体操は大事だからね。



 それにしても、そうか、私が幻獣を得られたから長生き出来るとしても、赤や紫の瞳の皆より、確実に早く死ぬのだろう。

 皆をまた置いて行ってしまう事に申し訳なさを覚えながら、プールに飛び込んだ。

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