第41話

 ルチルはさっきからカイザーとエーデルの周りをパタパタと飛んで行ったり来たりしている。

 改めて見ると、言い方は悪いが大型バスと小さな羽虫、に見えて、何だか面白い。



 ルチルも同族のドラゴンだから興味があるのだろうか、飽きずにパタパタと見て回っている。



 カイザーは漆黒の体に赤い瞳だ。

 それって確か、幻獣の最高位であるドラゴンの、更に頂点ではなかったろうか。



 エーデルは白銀の体に赤い瞳だ。

 それはカイザーより劣ると言う事なのだろうか。

 フリード、それで気にしていたのかな。



 心配になった私を面白そうに眺めたカイザーは


『ふむ、何やら心配している様だが、エーデルは突然変異故、我と能力的に全く遜色ないぞ』


 その言葉にフリードが目を丸くしている。

 私もその言葉に驚いたが、どこか安堵もしていた。

 フリードの心が軽くなってくれればいいのだが。


『それ見よ、そなたの相棒も気にしていたようだぞ。そなたは肝心の事を告げなさすぎだ』


 カイザーがエーデルを揶揄う様に言っている。


『我は、あまりそういう事は告げるべきではないと思うのだが』


 エーデルは何と言うか、ちょっと落ち込んでいる様な気がする。


『告げるべき事は告げるべきであろう? そなたは暢気すぎるのだ』


 カイザーは案じるようにエーデルに言う。


『否定はせぬが、これでも気を付けてはいるのだ』


 エーデルは不服そうにカイザーに言っている。


『まあ良い。我らより幼い初の赤い瞳の同族は、まだまだ生まれたてよな』


 カイザーが言った言葉に疑問に思った事を訊いてみた。


「あの、ルチルもカイザーやエーデルみたいに大きくなるの?」


 それにカイザーは楽しそうに笑い


『そうさな、時間はかかるだろうが。我らとてまだまだ成長途中故、今と比べ物にならぬ程成長するがな』


 エーデルも肯いている。


「まだ大きくなるの!?」


 思わず呟いた言葉にカイザーはどこか愉快気に


『我らドラゴンは千年かけて成体になるのだ。我とエーデルは同い年だが、まだまだ若輩者。成体ではない』


 びっくりしてしまった。

 こんなに大きいのに、これでまだ成体じゃないのか。


「皇帝陛下のドラゴンもまだ成体じゃないんだよ」


 お父様がこっそり秘密を言う様に教えてくれた。


「そういえば、四大公爵家も俺の家も、現在代々誓約を交わしている幻獣は当主と誓約を交わしているんだよね」


 エドが言った言葉に首を傾げる。


「えっと、どう言う事?」


 エドは苦笑しつつ教えてくれた。


「つまり、現当主方は、わざわざ幻獣の森へ行かなくても幻獣を得られた、って事」


 成程。

 でも幻獣の森へ行かないのは勿体ない様な気がする。

 あんなに凄い森なのに。


「森には行ったよ。別の幻獣を得る可能性もあったからね」


 お父様は私の表情から読み取ったのか、そう茶目っ気たっぷりに教えてくれた。


「エルザのルチルは本当にカイザーやエーデルと比べて小さいな。鼻息で吹き飛ぶのではないか?」


 ルディは真面目な顔でどうやらルチルを案じてくれている様だ。


『その様な事はせぬ。幼子の扱いはそれなりに慣れている』


 カイザーは心外そうに瞳を細めている。


『だが、そなたは大雑把な所がある故、注意はしすぎて悪い事もあるまい?』


 エーデルがさも当然と言う様に言った言葉に、カイザーは不満げだ。


「カイザーは大雑把なのか?」


 フリードが不思議そうに訊くと


『うむ。かなり細かい作業が苦手なのだ。我がいつもフォローしていた』


 エーデルが深刻そうに言っているのをカイザーは睨み付けて


『そなたが細かすぎるのだ。暢気だと言うのに細かいとは訳が分からぬ』


 そう言ってカイザーはぷいっと顔を背けてしまった。



 これには皆、笑顔が零れて、仕舞いには笑い声の渦になってしまった。



 カイザーはずっとふて腐れた様にしていたのだが、ルチルはその頭にポンと乗っかってしまい、何とも微笑ましいやら面白いやらで、笑いが止まらなかった。

 これだけ笑ったのは久しぶりで、あの幻獣の森での出来事が、遠くになった様で、心が軽くなる。



 それからも幻獣の森でのそれぞれの出会いとか、戦った様子とかを教えてもらって、とても心が躍る時間が過ごせた。

 皆に感謝だ。



 フーはどうやら一人ぼっちでとても寂しかったらしく、ギルに会えて本当に嬉しいらしいとか、シグリは空の上からリアを見ていたり、木の枝からこっそり眺めていたらしいとか聞いて、何ともそれぞれの個性が出て、楽しかった。



 エーデルは幻獣を引き連れていたフリードに興味がわいて見ていたら、翌日に誠実に対応するフリードを気に行ったらしいし、カイザーはこれっぽっちも幻獣に媚びないばかりか、不機嫌な魔力を振りまき、怯えさせていたルディが面白くて見ていたとか聴いたら、思わず笑みが零れたのだが、ルディもフリードも何だか不満そうで、それにまた笑ってしまった。





 皆が返ってから、お父様に名前を変える手続きをすると言われたのだ。

 特に私がすることは無いという。



 これから名乗る時は【エルザ・ルチル・アデラ・シュヴァルツブルク】となるらしい。

 なんだが長くて大変だ……



 アデラはもう数日検査らしく、帰ってこられない。

 本当に大きな事件だったので、検査も念入りらしい。



 それでも、早く無事に帰って来て欲しいなと願っている。





 皆の幻獣達とも仲良くなれたら良いな。

 ルチルはカイザーもエーデルも気に入った様で、側を離れなかったのだが、大きさの違いとか、頭にポテンと座った様子が色の効果もあり、本当に面白かった。



 また皆で会いたいな、と思いつつ、心がポカポカしたまま眠りについた。

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