第三章 戸惑い

第1話

 ルチルと誓約を交わしてから体調が良い日が増えた。

 ディート先生も許可してくれて、色々な所に出掛ける事が出来る様になったのが嬉しい。

 それでも必ずディート先生かクレメンス先生、ヒルデ先生の内誰かが同席しないと外出は無理なのだが。



 それにアデラも帰ってきたのが、また嬉しい。

 特に体調に変化とかも無い様で、一安心だ。





 動物園は色々な命獣と令獣がいた。

 展示方法はその生息環境を模しているとかで、木が沢山植わっていて、森みたいだったり、草原みたいな感じだったり、水場が本当の川や池みたいに水が凄く綺麗で流れていたりと凄かった。

 防御膜を張ってあるから檻とかなくて、どれも自然の中に居る様な姿でのびのびとしているのが印象的で、これはまた来たいなと思ってしまう。



 ルチルも一緒だったのだが、私の肩に留まってキョロキョロと忙しなかった。

 初めて見る物ばかりらしく、とても興奮していて、楽しそうだったのだ。



 アデラはフワフワ浮きながら、色々説明してくれる。

 妖精や幻獣だと、普通は命獣や令獣とかに詳しいものだと、アデラは言う。





 劇場にも行けたのだ。

 貴賓席だったし、代々我が大公爵家はその席らしいのだが、見やすくて良かったし楽しかった。

 ディート先生とクレメンス先生、ヒルデ先生の三人が揃っていて、劇場って危ないのかな、と思ってしまったのだが、どうなのだろう。



 ルチルも勿論一緒に行ったのだが、私の肩に留まって興味深そうにしていた。

 アデラも実は劇とか音楽とか聴くのが好きだから、楽しそうにしていたのは良かったと思う。



 レムリア王国からミュージカルの劇団? みたいな人達が来ているとかで、その人達の演目を鑑賞した。

 我が国と違い、どちらかといえばエキゾチックな感じで、面白かったのが印象的だ。



 内容は、貴族の跡取りの少年、だよね、と平民の少女、だと思う、の身分違いの恋物語で、一時の熱情が冷め、それぞれの世界に戻りそれぞれに生きていく、という内容だった。



 私にはとても話の落としどころが納得しやすかったのが印象的。

 貴族家の跡取りが家を棄てて愛に生きるとか、責任感無さすぎだろう。

 自分しか子供がいないのなら尚更だ。

 家族の事も考えていないし、勝手にいなくなったりしたら、家にどんな迷惑がかかるか分からないのか。

 家に代々仕えている人達の事も考えなさすぎだと思う。



 貴族家や士爵家に仕える人は基本的に代々仕えている人ばかりだ。

 家に仕えている人も領地を持っているのだが、貴族家や士爵家との関係性は、江戸時代の藩主と家臣が貴族家の当主一族と仕える人で、旗本と家来が士爵家の当主一族と仕えている人だろうか。



 跡継ぎがいなければ家が無くなってしまう。

 家に代々仕えている人達も路頭に迷わせる事になるのだし、代々誓約を交わしてくれていた幻獣に会わせる顔がないから、無責任にも程がある。



 レムリア王国も貴族家は同じ様な物らしいし、騎士階級も貴族階級の下にあるというのだから、制度的には同じなのだろう。

 だったら演目の結末には納得だ。

 貴族と平民では、それぞれに生きる道が違うのは仕方がないだろう。



 しかし、レムリア人の平民とアンドラング帝国人って本当に人種が違うのが分かる。

 私達よりレムリア人の平民は肌の色が浅黒く、レムリア人の貴族とも違うのだという。

 前世でいうならば中東系に近い感じだろうか。

 瞳も髪の色も黒系だ。



 役で貴族を演じていた人達は、魔法の幻術の一種を使って、レムリア人の貴族の肌の色や瞳や髪の色に見えるようにしていたのだとか。

 アンドラング帝国人もアールヴヘイム王国人も、レムリア王国の貴族も解くのは簡単な魔法なのだという。

 今の私にはルチルがいるから、解こうと思えば簡単に解けるそうだ。



 公演が終わったら、座長の人と、監督さん、主演俳優等の人達が私達に挨拶に来てくれたりして、とても緊張した。

 今日の公演では私が一番身分が高かったらしく、それで挨拶に来てくれたみたいだ。



 挨拶に来てくれた人達が私を見て固まっていたのは何故だろう?

 何度も帝国に公演に来ているそうだから、貴族を見るのは慣れているだろうに。



 この対応は前世と一緒だ。

 ルーやフリードじゃあるまいし、そんなに驚く容姿をしている訳でもないと思うのだが……



 しかし間近で見たら、レムリア人の平民の人は本当に人種が違うのが分かって改めて驚いた。

 アンドラング帝国人とアールヴヘイム王国人以外は今世で初めて見たから、ちょっとビクビクしたが、表に出さない様に頑張った。



 ディート先生にはばれていたらしく、ちょっと笑われてしまった。

 もっと上手く隠せる様に要努力だ。



 しかし、ディート先生もクー先生もヒルデ先生も、レムリア語が話せるのには驚いてしまった。

 考えてみたら、一応レムリア語の学習は必須だったと思い返す。

 私もレムリア語は習っているから、何とか話せたし、相手の言葉を理解できて助かった。



 やっぱり異文化コミュニケーションの基本は、相手の言葉を理解する事だと思う。



 名無しの大陸の人達とは、国交は無理なのは悲しいと思う。

 でも、あちらにしてみたら私達は魔族という認識で、同じ人間とは扱ってもらえないし、あちらの人達は私達アンドラング帝国人を見つけたら見敵必殺の構えらしく、会話自体成立しないという話だ。



 前世でも民族問題や宗教の問題は根深かった。

 仲良くなるのは不可能なのだろうか……

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