第39話

 ベッドの住人になる事四日。

 ようやく部屋から出る事が許された。



 部屋からは出られない為に大浴場には入れなかったが、自室の風呂には入れた。

 温泉を引いているらしく、とても温まるし気持ちが良い。



 私がベッドの住人でいた間、ルディとフリードが代わる代わるやって来て、驚いてしまった。

 どうも私がベッドから出られるようになるまで、どちらが来るかをじゃんけんで決める事にしたらしい。



 本当に二人は何をしているのだ。



 それでも、ルディもフリードもそれぞれ元気そうな姿に安堵する。

 二人共私を案じすぎて逆に心配になってしまう。



 結局、ルディもフリードも私が寝るまで我が大公爵家にいるのだから、本当に申し訳ない。

 私はもう大丈夫だと言っても二人共効かないのだ。



 それぞれの勉強や訓練に差し障りが出るんじゃないかと案じているのに、問題ないと言って二人共梃子でも私が寝るまで動かない構えで、根を上げ、諦めた。



 それで食事も一緒に取る事にしたのだが、それでも心配している事があるのだ。

 私が寝るまで起きている事を案じているのと申し訳ないのとで、一緒に寝るかと言うと、何故か二人共首を振る。

 二人共それはダメだと言ってきかないのだ。



 ルディは以前一緒に寝た事があるのに、何故だろう?

 意味が分からない。





 ルチルが目を覚ましたから、私も大丈夫だろうと判断されたみたいだ。

 幻獣は誓約した相手が弱っていたら、力を分けてくれるらしく、その後眠ったりすることが多いらしい。



 赤ちゃんのルチルに負担を掛けてしまった事に落ち込んだのだが、


『エルザ、自分を責めてはいけないよ。幻獣は誓約した相手を、自らの力不足で失うこと程辛い事はないのだから。エルザを影ながら守れて、ルチルも喜びこそすれ、エルザを責めるなんてしないよ。だから、ルチルには感謝だけで良いんだ』


 ルチルを乗せてきたアギロが私を優しく見つめながら教えてくれた。

 そうだ、まず、ルチルに言う事がある。


「ルチル、助けてくれて、ありがとう」


 ルチルは嬉しそうに私の手に乗って見上げてくる。


「キュウ!」


 どうやら私の力に成れてとても嬉しい様だ。


「私もルチルの力に成れるように頑張るからね!」


 そう言ったら


「キュウ、キュウ」


 無理しないでとルチルに言われてしまった様だ。

 アギロも難しい顔で


『エルザ、エルザは魔力無しなんだから、無理しちゃダメだ。それが余計に幻獣の負担になる事もある。いつも通りのエルザで良いんだよ』


 成程、無理したらルチルに負担がかかるのか。

 それは注意しないと。

 胸に刻んでおこう。





 アギロとルチルと歓談していたら、お父様に連れられて、イザークとディルがやって来た。


「姉上、御無事で何よりです! 会えなかったこの数日、どれだけ胸を痛めた事か!!」


 部屋に入るなり抱き付いてきたイザークは私の顔を覗き込み、ホッと息を吐く。


「イザーク、心配をかけて、ごめんなさい。この通り元気よ」


 だるさも取れたし、元気なのだ。

 以前より身体が軽いかもしれないという感覚もある。

 これも幻獣と誓約を交わした成果だろうか。


「はいはい、ディルクにも挨拶しなきゃいけないだろう? 離れて離れて」


 そう言ってお父様は私からイザークを無理矢理力任せに引っぺがした。

 ディルクはそれに苦笑しながら、私を見て、


「お元気そうな姿に安堵致しました。守り切れず、申し訳ありません」


 心底悔やんでいるらしいディルに微笑んだ。


「大丈夫よ。それよりもディルもケガしたのじゃない? もう良いの?」


 訊いたらディルは恥ずかしそうに


「ケガ自体は完治しました。治癒魔法をかけて頂きましたし。自分も早く治癒魔法の威力を上げたいと思ってしまいました」


 ちょっと疑問だ。

 誰に治癒魔法をかけてもらったのかな。


「誰が治癒魔法を使ったの?」


「クレメンス様とヒルデガルト様方です。応急処置だとおっしゃっていましたが、その後の治療も必要としない程の凄まじさでした」


 やっぱり二人って凄いのだ。

 それより上らしいディート先生って何者何だろう。



 そんな疑問が湧き上がっていたら、お父様が


「さあさあ、エルザ、庭に出てごらん。面白い物が見れるよ」


 悪戯っぽく笑い、私を抱き上げた。





 この時間までお父様がいる事は珍しい。

 朝食も夕食も一緒に取れない事が多かったし、今日は大事を取って私は自室で朝食をとったので、朝にお父様と挨拶して以来だから、面食らってしまう。



 お父様は嬉しそうに私を抱き上げてどうやら庭に向かっているらしいのは分かったが、理由が分からず混乱している。


「お父様? あの、何故?」


 訊いてみても


「見てからのお楽しみだから、目を閉じていると余計に嬉しいかな」


 そんな事を言うから、頭に疑問符を浮かべつつ、瞳を閉じてみる。

 ルチルは私の肩に留まった様だ。



 しかし何だろうか。

 楽しみではあるのだが……

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