第37話
翌日もベッドから出ないようにとブランシェに厳命を受け、ベッドの住人である。
昨日よりも元気な様で頭が回るから、起きてから慌ててルチルの事を訊ねた。
昨日気が付かなかったとか、相棒失格である。
ルチルはかなり疲れているらしく、眠りっぱなしらしい。
一応、アギロの部屋で就寝中だという。
アデラは一応帝宮の研究機関で調べられているらしい。
どうも、以前の一件と今回の事件の相互関係を調べているから、らしいので、当分会えないという話だ。
それで目が覚めた時居なかったのかと納得した。
ルチルはまだ幼いせいと、私の為に色々頑張ったのも手伝って、これまた当分熟睡しているだろうと言われたのだ。
寂しがり屋のルチルはまだ幼いから、起きたら私の部屋で当分寝られるようにして欲しいと頼んだ結果、了承された。
でもルチル用の部屋は用意するらしい。
ドラゴンはただでさえ滅多に誓約を交わしてくれないのに、ましてや皇族以外では初らしく、相当異常な事態だとお父様に言われ、驚いた。
そうか、ドラゴンって皇族以外だと私が初めて誓約を交わしたことになるのかと、どうにも居心地がよろしくない。
どうも驚きすぎて感覚が麻痺しているらしく、実感がわかないのだ。
一昨日から異常事態の連続で、頭が考えるのを拒否しているのかもしれない。
徐々に実感が湧いてくる可能性大だ。
イザークとディルとも少しの間会えないらしいと聞いた。
理由は後のお楽しみとお父様は言うが、一体何なのだろう。
そして決めた事がある。
今回の幻獣の森の中で行動を共にした護衛に人達に、感謝の手紙を送ろうというものだ。
やっぱり、どうなったのかとても気になるので。
それに、凄く感謝しているから。
間違いなく自己満足なのは承知だ。
それでもお礼を言いたかった。
直接言いたいが、私がそれをするとどうも大事になるので、それは相手に迷惑だから、手紙だけにした。
特にオイゲンさんにはお礼を篤く書こうと思っている。
朝食の山菜たっぷり玉子リゾットと、イチゴのジャムに生のイチゴ入りヨーグルトを食べ終わり、色々薬らしいのが入ったリンゴジュースを飲みながらまったりしていたら、フリードが訪ねて来た。
今日もルーとじゃんけんしたのかと訊こうかな、と思いつつ出迎える。
それよりなにより彼の姿が早く確認したい。
無事だとは聞いていても自分の目で確かめたいのだ。
「エルザ、昨日目覚めたと聞いた。体調はどうだ? どこか痛い所はないか?」
部屋に入るや否や、私の元に一直線に飛び込んできて、心配そうに訊いてきた。
「大丈夫だよ。昨日はちょっとだるかったけれど、今日はそれも無いし」
微笑んで答えたら、ホッとした様に息を吐き、ベッド横の椅子に腰かけた。
そうして真剣に頭を下げる。
「守れず、すまぬ」
それには苦笑してしまう。
フリードもルーも気にしすぎだ。
「私は大丈夫よ。それに助けてくれたじゃない。それで十分」
まだ何か言いたそうなフリードだが、私としてはずっと心配だったフリードの無事な姿を見る事が出来て安心した。
でも気になっていたから、彼の手を取り、確認。
「良かった。痕、残らなくて」
そう言ったら、フリードは逆に私の腕を確認する。
「こちらのセリフだ。エルザに傷が残らず安堵した」
嬉しそうにフリードは言う。
でも思うのだ。
「フリードは綺麗なのだから、私と違って痕とか残ったら大変じゃない」
私の言葉にフリードは顔を顰める。
「私など大したことは無い。それよりもエルザの方が綺麗だ。エルザに傷痕が残るのは嫌だ」
それには反論がある。
「絶対にフリードの方が綺麗。だから私と違って傷が残るのなんてダメ!」
フリードは眉根を寄せ
「エルザの方が綺麗だ」
そうきっぱりと言い切られた。
この話題は不毛な気がする。
どちらも譲らいないみたいな気配が濃厚だ。
「絶対にフリードの方が綺麗だって私は思うけれど、この話題は先に進まないからここまでね」
私が言った言葉に納得したフリードは
「確かにそうだな。だがエルザは誰よりも綺麗だというのは譲らん――――幻獣を得られたと聞いたが、姿が見えんな」
その言葉に答える。
「ルチルって名前の赤ちゃんの黄金色で柘榴の瞳のドラゴンだよ。色々頑張ったらしくて、疲れてアギロの所で熟睡中。当分寝たままだろうって言われたわ」
フリードは頷いて
「そうか。今回幻獣の森に行った者達が皆幻獣を得られたとは聞いたか?」
言われて驚いた。
「え? 皆幻獣と誓約交わせたの? あの騒ぎの中で?」
疑問符だらけになってしまったが、相当な事態だったのは聞いているし、自分でも凄い事件だったと思うから、皆がいつ幻獣と誓約を交わせたのか甚だ疑問だ。
「ああ。皆得られた。宿営地の付近に幻獣達が集まっていたのだが、これは何故か分かるか?」
フリードの言った言葉を考えたら、何となく分かった。
「幻獣達も目当ての人達が宿営地にいたから、近くに来ていたのね」
それにフリードは肯いた。
「そうだ。故に怪物達の襲撃も受けてしまったのだ」
「え? 幻獣達は大丈夫だったの!?」
心配で訊いたらフリードは安心させるように微笑み
「大丈夫だ。どれも強力な幻獣達だったからな。その幻獣達は怪物達と戦闘を繰り広げていたのだが、空も飛べる者達故、皆が戦っている様子も目に入っていたらしい」
「戦っていた、って、皆も!?」
バラバラになった後、ケガをしたとは聞いていたが、戦っていたのか。
苦笑したフリードは
「結果的に、戦って良かった様だ。その姿に幻獣達もやはり自らの相棒だと確信したらしい。故に戦闘が終わった後、誓約を交わしたのだ」
「成程、ありがとう。あれ? 皆、って事は、フリードもルーも幻獣を得られたの?」
そう訊いたら、フリードの表情が曇る。
フリードは無理だったのかと心配になったのだが、
「無論、私も、ルディアスも、幻獣と誓約を交わした」
その言葉に安堵したが、フリードの表情は暗いままで、別の心配が沸き上がる。
「どうしたの? 幻獣と性格が合わないとか?」
不安で思い付いた事を聞いてみたのだが、フリードの表情は晴れないまま、力なく首を振る。
「そうではない。私には過ぎた相手だ――――ただ、ルディアスには敵わぬな、と思ってな」
思わずといった調子で呟いた言葉が、酷く重い響きだったのに、目を見開いた。
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