第28話
ベンチに横になって休憩中。
段々と疲れが取れてきた。
ルチルは私の膝の上で丸くなっている。
そろそろ昼食かな、今日は何だろうと思っていたら、
「ディートリッヒ!!!」
ルディの大音声が響き渡った。
慌てて声のした方を向くと、ルディは私の方を見て何やら鬼のごときご面相である。
ルディの声が聞こえたのか、皆が森から集まってきた。
ルチルも起きたらしく、吃驚している。
「どうした、ルディアス」
フリードがルディに駆け寄り心配そうに訊いている。
「どうした、ではない。エルザが幼い幻獣と誓約を交わしたのだ!」
それにルディは吐き捨てるように答えを返す。
「……何だと?」
今度はフリードが赫怒の表情になった。
二人共どうしたのだろう。
オロオロとしてしまい、ルチルを抱き上げながら二人を交互に見ていたら、ディート先生が私の頭をポンポンとした。
「やっぱりキレたか。あいつらエルザに過保護だもんなぁ」
何だか困った孫を見つめる様な表情である。
「そう怒る事じゃねえだろ。見た通り可もなく不可もなくで問題ないし」
そのディート先生の言葉に二人が詰め寄った。
「そういう問題ではない!」
ルディは怒り心頭という感じだ。
「そうだ! 何故危険を犯させた!!」
フリードも腹で湯が沸きそうな怒り具合である。
二人共、私の心配をしてくれている様だ。
なら、何とか私が落ち着かせなきゃ。
「二人共、私が自分で決めた事よ。私に怒るのなら分かるけれど、ディート先生に怒るのは違うのではないでしょうか?」
そう言ったら、二人共凄い表情で私を見る。
え、何か私間違った?
「エルザは甘すぎる!」
フリードに断言されてしまった。
「まったく! ディートリッヒに誘導されたと気が付いておらぬ!!」
ルディも厳しい声で言う。
私、誘導されたのだろうか?
それでも最善だと思ったのだが……
「誘導したのは事実だが、これが最善だろ? 大体エルザは妖精と誓約を交わしてるんだし、被害は無い。最悪の場合も、抵抗力が落ちるのプラス身体が弱くなったとしてもだ、いくら幼くても幻獣、しかもドラゴンなら補えるから、妖精と誓約を交わした状態と変化ない上に寿命も延びるだけだろうが」
それに二人は不満そうに
「確かにそうではあるが……」
ルディが言うとフリードが
「それは認める。それでも心配な物は心配だ」
呟くように言う。
ディート先生は溜め息を吐き更に言う。
「それにだな、今回は可もなく不可もなくだぞ? つまり悪くはなっていない。なら幻獣の力で徐々に前より丈夫になるだろうし、抵抗力も付くだろ?」
これには二人共噛みついた。
「結果論ではないか!」
「身勝手がすぎる!」
うん、二人共心配してくれているのは分かるのだが、困ったな。
ここはガツンと言ってみよう。
「ルディ! フリード! 私が自分の意志で選んで決めた事なの! ディート先生が言った通り、最善だと思ったし、それを抜きにしても私はこの子を放っておくなんて、絶対できなかった。だから、必ずこの答えを選んだし、結果も良かったのだから、四の五の言わない!!」
二人共何だか傷ついたような表情になった。
私は慌ててしまう。
「あのね、あの、心配してくれたのは本当に嬉しいの。でもね、もう少し私を信じてくれないかな。身勝手で自分勝手なのは承知しているけれど、でも、あの、私なりに選んだ結果なのよ?」
重い溜め息を吐いたルディが
「前提条件としての情報が間違っていたらどうするつもりなのだ」
「私はディート先生を信頼しているけれど、ルディは信じられないの?」
それにフリードが
「ディートリッヒは信じられるのは確かだが、信頼すべき相手を間違えたらどうする?」
確かにそうなったら大変な事態だろう。
でも……
「それも後からしか分からないわよね? 現時点で最善だと思った事を私はこれからもするつもり。間違っていたら、その時またやり直すわ」
ルディが険しい表情で言う。
「致命的な間違いをして、取り返しがつかぬ場合もある。全てがやり直せると思ったら大間違いだ」
そう言われてしまい、言葉に詰まる。
確かに取り戻せないものもやり直せない事もあるのだ。
それでも生きている以上、選んで進んでいくしかないと思う。
その事を言ってみようと思ったら、
「水掛け論だろうが。これ以上は不毛だ。それともお前らはエルザを苛めたいのか?」
それに二人が異口同音に言い切った。
「「違う!」」
それにディート先生が呆れた様に
「お前ら八つ当たりは大概にな。心配し過ぎだ。エルザだって馬鹿じゃない。お前らはエルザを都合のいいお人形にでもしたいのか?」
その言葉に二人は表情を凍らせ、宿営地を出て行ってしまう。
その後を追おうとしたら
「今はそっとしとけ。一人で考えたい事もあるだろ。二人共色々年頃で面倒なんだよ。まあ、エルザが二人居ればまだマシなんだがなぁ」
ディート先生に言われて、足を止める。
「私に出来る事ってないのでしょうか……」
思わず声が漏れた。
二人を凄く傷つけたのなら、謝らないと。
後、何か出来るならしたい。
「そうだな、戻ってきたら、笑顔で出迎えてやれ。それから抱き付いたりしたらすげえ喜ぶんじゃないか?」
悪戯っぽく言うディート先生に
「ディートリッヒ先生、それは余計に問題を引き起こす可能性が捨てきれません」
ヒルデ先生が難しい顔で忠告する。
「ま、確かにな。ならエルザ、笑顔で出迎えるついでに昼食作るの手伝ってくれ。あいつらも喜ぶだろ」
笑顔のディート先生に言う言葉は一つだ。
「はい!」
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