第29話

 昼食はニョッキだ。

 ジャガイモを蒸かすまで暇なので、リアと雑談中。


「エルザお姉様、幻獣との誓約、おめでとうございます」


 リアはそう言って祝福してくれた後、


「ですがリスクはあった訳ですし、手放しでは喜べませんね」


 溜め息を吐くリアに


「私は最悪な状態になったとしても後悔なんてしないわよ?」


 苦笑したリアは


「お姉様なら、そうでしょう。ただ両殿下は納得できなかったのが、問題ですわね」


 それには私も溜め息を吐いてしまう。


「どうしたら、二人共納得してくれるかな」


「お二方共、最善だったと理解はしていらっしゃるでしょう。感情が付いていかないだけですから、時間が解決するかと思います」


 リアの言葉にそうだと良いなと思いながら、クー先生がジャガイモを蒸し器から出しているのを見て、席を立ってジャガイモを潰す作業に移った。






 本日のニョッキは塩コショウとバジルだけのシンプルな味付けに、具材はプチトマトと行者ニンニク、エビ、イカ、ベーコン、ウィンナー、豚ロース肉、彩にパプリカの赤と黄色という物だ。

 肉類多めの具沢山ニョッキは男の子が好きそうな感じだと思うのだが、二人が好きかは不安。

 ただ行者ニンニクはとても美味しいと個人的には思う。



 その二人はまだ戻ってこない。

 自然と暗くなってしまう。


「おー、肉多めで頼む。やっぱり肉だよ肉!」


 嬉しそうなのはアンドだな。

 もうおかわりしている。

 思わず笑ってしまった。


「ちょっとは元気出たか? 両殿下は気長に待とう。焦っても仕様がない。それとこの中じゃ一番に幻獣を得たのか、おめでとう」


 アンドの言葉に答える。


「そうだね。ありがとう、アンド」


 エドはトマトをフォークでツンツンとしながら


「やっぱり普通のトマトよりプチトマトの方が味が濃くて好きなんだよね。フルーツトマトも甘くて好きだけどさ。トマトって煮込むのが適してるのとか色々種類あって面白いよね」


「あれ、エドって好き嫌いあまりないのに、トマトは好きなの?」


 それに楽しそうに笑ったエドは


「嫌いは無いけど、好きは結構あるんだよ。ま、それを抜きにしても不味いのは遠慮したいけどね」


 それには納得だ。


「ごめんなさい。そういえ内臓系とか好きって言っていたよね。それに、確かに不味いものは食べたくないわ」


「それでも何もないなら口に入れなきゃならない時もあるだろうから、慣らしとくのも一種の訓練。あ、エルザの作ったニョッキ美味しいよ」


 エドはそう言いつつ、美味しそうにトマトとニョッキを同時に口に入れていた。


「それはありがとう、エド」


 ふっ、ひたすら小麦粉とか下ろしたチーズを入れて練って形を作った逸品である。

 気に入ってくれたのは嬉しいな。


「幻獣ですか……ギルはどうでしたか?」


 フェルの問いにギルは


「会ってはいるんだがな。お互い様子見、と言ったところだな」


 それに肯いたフェルは


「私もそうです。イザーク、ユーディト嬢、シュー、ディル、どうでしたか?」


 イザークは顔を顰めている。


「近くに居る様なのですが、まだ姿は見ていませんね」


 ユーディは首を傾げながら


「姿を見たと言えば見たのですが、直ぐに姿が見えなくなって……近くに居るのは分かるのですが」


 シューは難しい顔で


「現状では見つめ合い、という感じでしょうか。僕が移動しても付いてはくるのですが、振り返ると姿が見えなかったり、突然現れたりといった感じです。この子だ、と思うのですが……」


 ディルは眉根を寄せている。


「そうですね、幻獣に会えてはいますし、この子、と言う存在もいますが、まだ距離がある感じです」



 皆、幻獣の気配を感じたり、会えたりしているのだ。

 もう少しなのだろうか。


「アンド、エド、幻獣とはどうですか?」


 そのフェルの問いに、エドは口の物を飲み込んでから答えている。


「うん、ま、時間の問題だとは思うけどね。焦らず気長にいくよ」


 のんびりと言う。

 余裕があって凄いな、エド。


「ああ、こっちも焦らずにいくつもりだ。幻獣自体は決めてあるんだがな」


 そうか、アンドもこれ、って子がいるのか。

 やっぱり皆、ちゃんと幻獣を得られそうな感じで良かった。



 そうだ、ギルに報告したい事があったのだ。


「ギル、ニリンソウとカタクリが咲いていたよ。スミレも!」


 その言葉にフェルとギルとリアが食いついた。


「山野草ですね。どこら辺ですか?」


「やはり山間部だな。帝都近郊より春は遅いらしい。で、どこだ?」


「まあ! 春の花ですね。是非見たいのですが、場所を教えて下さいませ!」


 三人からの圧が凄い。

 植物、好きなんだなぁ。


「うん、いいけれど、幻獣を得てからの方が良いのじゃ……」


 そう言ったら、三人共それもそうだという感じで落ち着いてくれた。


「幻獣を得られたら、案内するね」


 私の言葉に三人は肯いてくれた。






 ルチルは私が食事の準備をしている間中からずっと、用意してもらった椅子に丸くなってお昼寝中である。

 後片付けもしようと思ったら、それはやらなくていいと言われたので、手持無沙汰。

 ルチルは寝ているし、さて、どうしたものか。



 皆食後だから、ちょっと休憩してから森に行くみたいで、好きな所で休んでいる。

 ルーとフリードはまだ戻ってきていないから心配なのだが、私が探しに行くと余計に拗れるとディート先生は言うし、それならリアとユーディと話そうかなと彼女達の所に行こうとしのだが……



 その時森の中に突然、奇怪で不愉快な大音量の叫び声が響き渡った

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