第25話

 朝から新しい知識が増えて嬉しいが、今日もあの赤ちゃんドラゴンが心配だから、会いに行こう。

 そんな事を考えつつ、宿営地を出ようとしていたら、森の入り口付近にエドがいた。



「エド! 良かった、訊きたい事があったの」


 駆け寄る私に目を丸くしたエドは


「別にいいけど。あれ、イザークは?」


「ディート先生に強制的に森の中に連れて行かれたけれど」


 それを聞いて何故か楽しそうに笑った後


「それで、訊きたい事って?」


「赤ちゃんの幻獣に、どう接したらいいのかな?」


「――――……何だって?」


 しばらく沈黙してから目が座った状態で訊き返すから、どぎまぎしつつもう一度言う。


「だから、赤ちゃんの幻獣にどう接したらいいのかなと。ドラゴンなのだって」


「……うん、エルザ、最初から話して」


 笑顔が異様に眩しいエドに言われた通り、赤ちゃんドラゴンと出会ってから今までを話した。



 話を聞き終わったエドは深いため息を吐き、


「エルザがエルザだって分かった。本当に、エルザはエルザだね」


 訳が分からない。

 首を傾げてしまう。

 それを見たエドは苦笑し


「うん、そのままでいてねって事だよ。それでどう接したらいい、だっけ?」


「そうなの。なんだか泣いていて放っておけなくて」


 私が深刻な表情になっていたのだろう。

 優しい笑顔になったエドが私の頭をポンポンとしつつ


「難しく考えないで、エルザのいつも通りでいいんじゃないの。それが正解だと思うよ」


 その言葉に元気をもらう。

 うん、私らしく接した方が良いな。

 難しく考えたらぎこちなくなって、あの子も困るかもしれない。


「ありがとう、エド! そうするね!!」


 気持ちが浮上して元気にお礼を言ったら、エドは面白そうな顔になった。


「本当に、エルザは下心が無いよね」


 それには反論がある。


「私だって、下心くらいある、と思う」


 なんとも自信がない。

 そもそも下心が良く分からないが、仲良くなりたくて優しくするとか、そういう事だよね?

 なら、した事あるし。


「どうだか。ま、エルザはエルザにしかなりそうにないから、俺の言葉は気にしないで良いよ」


 そう言って森へ行ってしまう。


「エド、本当にありがとう!」


 お礼を背中に行ったらこちらを見ずに手を振って行ってしまった。





 森の中を歩く。

 ナビを見なくても、大体の場所は分かる感じなのだが、一応、スクリーングラス型のナビを内蔵した通信機をかけている。

 ブレスレット型とか指輪型もあって、そういうのにも立体映像が映し出される。



 使い方は習ったからどれも扱えるが、私は普段出歩く時にはブレスレット型にしようかと思っている。

 携帯電話みたいな使い方も出来るらしいし、指輪型だとなくしそうな気がするのだ。

 指輪型にも通信装置は組み込まれているし、インターネット的な物に接続して色々出来るというのも教えてもらった。

 だが首にはもう色々下げているし、これ以上は止めておこうと思ったから。

 大きくなってからでも良いかなというのも理由の一つだ。







 森の中を見て回ると、ニリンソウやカタクリ、スミレの仲間の群落とかあって、目に楽しい。

 フェルに言われた言葉を思い返し、改めて森の中を楽しんでいる。

 ギルにニリンソウやカタクリの事を話さなくては。

 きっと喜んで、連れて行っていくれと言われそうだ。



 ここは落葉樹林と常緑樹林が混在している森だと思う。

 艶々した新緑の木の色が綺麗だ。



 時折風が吹くのだが、その度に木々が潮騒の様な音をたてるのも面白い。

 あんまり風が強く吹くと怖いと思うが、この程度の風なら大丈夫だ。



 あの子も一人でいたら、風が強く吹いたり、夜とか怖くなかったのかな。

 ……ハタっと気が付いた。



 ――――何故昨日、その考えに至らなかったのか、自分を殴りたい。



 全速力で走って、昨日赤ちゃんドラゴンが居た場所までたどり着いた。



 姿が見えない。

 仲間の所に行ったのだろうか。

 心配で辺りに視線をやると、近くの茂みがガサゴソとなって、赤ちゃんドラゴンが出て来た。



 慌ててその子の近くに跪いて謝った。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい」


「キュウ?」


 不思議そうに赤ちゃんドラゴンは首を傾げる。

 ああ、もう理由を言っていなかった。

 焦り過ぎだ、私!


「夜、一人にしたでしょう? 一緒に来るか聞けば良かった」


 そう言ったら、赤ちゃんドラゴンはとても嬉しそうになった。


「キュウ、キュウ!」


 どうやら一緒に来てくれるらしい。


「お昼に戻る時、一緒に来る?」


「キュウ!」


 元気よく、行く! と返事をしてくれた。


「ありがとう。昨日の夜は一人で大丈夫だった?」


 やっぱり心配で訊いてみたのだが


「……キュウ」


 独りは慣れているけれど、寂しかったらしい。



 こんなに小さいのに、独りに慣れているってどういう事だろう?


「誰か他の幻獣に会った事ないの?」


「キュウ」


 どうやら本当に他の幻獣に会った事が無いみたいだ。

 これが普通なのか分からないけれど、それじゃあ、生まれてからずっと独りぼっちだったという事だろう。


「キュウ?」


 たまらなくなって、この赤ちゃんドラゴンを抱きしめたら、どうしたのかと首を傾げている。


「私、貴方とずっと一緒にいるからね。貴方が嫌じゃ無ければ、だけれども」


「キュウ! キュウ!!」


 私とずっと一緒にいたいらしい。

 良かった、受け入れてもらえた。


「私はエルザ。貴方、名前はあるの?」


「……キュウ」


「そう、名前が無いのね。なら、私が名前を考えても良い?」


「キュウ!」


「急には思い付かないから、ちょっと時間を頂戴ね」


「キュウ!」


 楽しみに待っていてくれるらしい。

 良かった。



 幻獣の常識は分からないけれど、こんなに小さくて寂しがり屋の赤ちゃんを一人にして放っておくなんて、私には不可能だ。

 大きくなって、誰か良い人とでも誓約を交わせるようになれば良いな。

 それまでは一緒にいよう。

 そう思ったのだ。

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