第8話

 気分も塞ぎ落ち込んでいたら、ルーが会いに来てくれた。



 ルーも私が魔力無しと知っているのか、勇気を出して訊いてみたら


「知っている。我が父はすこぶる機嫌が良い」


 えっと、何故、第一皇子であるアルブ殿下が機嫌が良くなるのだろう?

 疑問が顔に出ていたのだろう。

 私の顔を見て察したルーが


「これで私と婚約出来る可能性が高まったからであろう」


 そう言うからますます訳が分からない。

 魔力無しなのに皇族と婚約出来るの……?

 余程不思議そうな顔をしていたのだろう


「もしや、魔力無しについて詳しく説明を受けておらぬのか?」


 恐る恐る肯くと、ルーは綺麗な真紅の瞳を瞬かせた後、深い溜め息を吐いた。


「如何にも表情が暗いと思ってはいたが……シュヴァルツブルク大公爵は何をしている」


 声に怒気が含まれているのがわかった。

 どうやら、ちょっとお怒りだ。


「お父様は私の検査と測定結果が出てから凄く忙しそうだったから……」


 思いつく理由を言う。

 何とかフォロー出来たろうか。


「まあ、仕方がない。本来、奥方と分担するところを一人でこなしているからであろう」


 無理矢理納得したような顔でそう言って、色々教えてくれた。







 この世界に存在する者は全て魔素が無いと生きていけない。

 世界に魔素はなくてはならないもので、命の源であり世界を循環する。

 だが、通常は濃すぎても薄すぎてもだめ。



 帝国領土は魔素が濃く、適合している帝国人でなければ生きていけない。

 帝国に生息する存在は、全て魔素が濃くても薄くても大丈夫な強靭な存在。

 体内に魔素を適度に吸収する幻獣や命獣とは異なるが、強い生き物や植物も存在する。

 むしろそんな生物ばかりがいるのが帝国領土内。



 魔力無しは魔素を感じ取れない。

 だが魔力は見えるものらしい。

 そして幻獣と誓約を交わせれば魔素を感じ取れる様になるという。



 魔力無しは魔素を感じ取れないが、魔素は魂を構成している。

 そのため影響は受けてしまうらしい。



 その為に魔力無しは早く妖精や幻獣の加護を得るか、幻獣や妖精と誓約を交わす必要があるのだとか。

 そうすると、幻獣や妖精に護られるため魔素が濃くても大丈夫になるという。

 帝国人に生まれたら、多少の魔素に対する抵抗力は魔力無しでも持ち合わせているから、護られなくても何年かは帝国内で生きていられるらしい。



 妖精や幻獣には、誓約ではなく一方的に護る加護という力があるという。



 大抵の場合、魔力無しの家族が貴族や士爵であれば、家族に妖精や幻獣と誓約を交わした者がいるので、その妖精や幻獣が加護を与えているらしい。

 魔力無しでなくても、妖精や幻獣が家族に加護を与える事があるので、魔力無しかどうかは特別に調べてみなければ判らないという。

 五歳にならないと魔力は安定しないため、五歳になるまで判らないのだとか。




 そして魔力無しは妖精と誓約を交わしやすいらしい。

 だが、強力な幻獣と誓約を交わせなければ、例え高位の妖精と誓約を交わしたとしても、魔力無しは長生き出来ないという。



 その上、魔力無しは魔導具が無いと生活できないと言われている。

 自分を守ることも出来ない存在なのだとか。



 魔力が弱かったり無かったりすると、体の抵抗力が弱く病気になりやすい。

 毒にも弱く、催眠や気絶、石化、睡眠等の様々な魔法に掛かり易くもあるという。

 補う為には幻獣か妖精と誓約を交わすしかないらしい。



 その上、魔力が弱いと寿命も短くなるのだとか。

 元々身体が弱い場合魔力で補うのだが、身体の弱さを補う事に魔力を注ぎ、皇族や貴族としては満足な魔法が使えなかったりするので、規格外である紫の瞳か赤い瞳でなければ皇帝や貴族の跡継ぎには慣れないという。



 通常、幻獣や妖精と誓約を交わせなかった者は総じて魔力も少ない事が多く、魔導師や騎士としては採用出来ないレベルのため、平民になるしかないらしい。



 総合すると幻獣や妖精とは一定以上の魔力が無いと誓約出来ないという。

 だが、魔力無しは例外的に魔力が無くても魂の力だけで、妖精や幻獣と誓約が出来るらしい。




 魔力が強い者は長命だという。

 帝国は普通の人間も百二十歳~百五十歳は生きるし、貴族は二百歳~二百五十歳はざら。

 大貴族だと三百歳も珍しくないらしい。

 しかも肉体の絶頂期が長く、アンドラング帝国人とアールヴヘイム王国人は外見年齢が三十代から老いる事がなく、寿命がきたら段々眠る時間が長くなり、最期は眠るように息絶えるという。

 本人は寿命がきたと分かるものらしい。



 帝国以外の平均寿命は二十歳ぐらいだという。



 友好国でお母様の実家であるアールヴヘイム王国は百十~百二十前後まで平均生きるのだとか。 

 もう一つの友好国であるレムリア王国は九十前後まで平均で生きるという。





 魔力無しは皇族か有力貴族が親でなければ、帝国に保護されるらしい。

 魔力無しは貴重で、魔力無しとの間に子が出来るとその子は魔力がとても強くなるそうだ。



 このことから魔力無しは皇族や貴族に大事にされるという。 

 基本的に貴族以外には魔力無しは生まれないらしい。



 普通は数十年に一人の割合しか魔力無しは産まれない為、皇族の妻になるのが当たり前だという。

 特に皇太子等の皇帝候補に嫁ぐのが当然の事なのだとか。



 魔力が強い場合、容姿が整っているから見分けがつき易いらしい。

 だが、魔力無しも容姿が整っている為分かりにくいともいう。 

 


 そして魔力無しは女だけに出るそうだ。







 聴いていたら、どうしたら良いのか途方に暮れる。

 とりあえず、この世界に要らないものじゃなくて良かった。

 要らないものだったらどうしようと思っていたし。

 私が追い出されないのは解ったけれど、これは皇族に嫁ぐのが決定という事だろうか。



 ルーに確認してみたら、


「そうだな。私かフリードリヒのどちらかだろう。それ以外では帝位を継げる者はおらぬ」



 こんな返答だったから、家、どうなるのかなと不安になって訊いてみた。



「大公爵が再婚して跡継ぎを作るのが一般的だな」


 という回答が返って来た。

 お父様の再婚か……それでも必要なら我慢しよう。

 直ぐにはお母様を忘れるなんて出来ないけれど、新しい母にも慣れるしかないよねと、無理矢理納得させた。

 そう言えばと、ルーの回答の中で疑問に思ったことを訊いてみる。


「フリードリヒって?」


「 父の弟である、第二皇子の長男だ。因みに紫の瞳だ」 


 どこか忌々しそうなルーに首を傾げてからお礼を告げる。


「ありがとう」



 疑問を聞いたら後は悩んでしまった。

 私はどうしたら良いのかな。

 政略結婚は受け入れる覚悟はしていたから、衝撃は少ない。



 政略結婚は、断るつもりも無いのだ。

 家の皆に迷惑がかかるからね。

 この家に生まれて貴族だと解った時から、理解していた。

 大切に育てられたなら、恩を返したいし、力になりたいのだ。

 自分の都合や勝手な行動で、大切な人達に迷惑はかけられない。



 自分勝手に愛に生きるという考えがそもそもないしね。

 大体、前世でも特に好きな異性とかいなかったし。

 恋愛感情とか良くわからない。



 けれど、寿命を長らえるためには、強力な幻獣と誓約を交わすしかないという事実が重く伸し掛かる。

 前世は十代で死んだから、今世はせめてそれより長生きしたいと、ささやかに思っていたのだが……

 それに、皆に迷惑をかけるお荷物にはなりたくない。



 自分も誰かの力になりたいのだ。

 貴族に生まれたのなら、国も国民も守らなければならないだろう。



「幻獣を得ようにも、年齢的にまだ無理だ。そう焦らずとも良い」


 安心させるように微かに微笑んでそう言ってくれるのだけれど、魔力無しって家に色々迷惑をかける存在みたいだし、何か出来る事ってないのかな。

 ただでさえ体調を崩しやすい私だ。

 既に迷惑はかけている。



 そうだ! いつか皇帝陛下になられるかもしれない皇族に嫁ぐという事は、礼儀作法とか勉強しなければならない事が多いはず。

 それを精一杯がんばってみよう。



 大好きな人達の負担になるなんて嫌だし、恥はかかせられないからしっかり学ぼうと思う。

 国の為に何か出来るならしたいしね。 

 そういうものだと教育は既に受けているのもあって、納得している。

 責任ある立場にはそれ相応の義務というものが発生するものだ。

 幸い勉強も礼儀作法も苦痛じゃない。

 むしろ好きだったりする。



 身体を鍛えるのも良いかもしれない。

 魔力無しだから、普通の人より身体が弱いみたいだから、少しでも補わなくちゃ!



 新しい目標を定め、家の皆に恥をかかせないようにし、尚且つ国の為になる様に努力しようと固く決意していた。



 だから、心配そうなルーの視線には、全く気が付かなかったのだ――――

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