第7話

 五歳の誕生日に、貴族の通例として魔力検査と魔力測定をする事になったのだ。

 貴族だからだそうだが、家に勤勉そうな役人が複数来て下さった。



 政府から派遣された役人は三名。

 応接室に通した彼等は、大きな鞄と小さい鞄の各々から透明な球体を取りだした。

 彼等が持って来た、組み立て式の簡易テーブルの上にクッションを乗せ、その上に球体を置いたのだ。

 他にも色々な機器が設置された。



 どんな結果になるか、数日前から夜もろくに眠れずにドキドキしてこの日を待ったのだ。

 やっぱり魔法は使ってみたいからね。

 憧れるから。





 士爵も家に役人が行くと聞いた。

 平民は裕福だと家に役人を呼んで行い、普通の平民だと五歳の誕生日が過ぎたら月に一度、地域ごとに一か所に集められて行われるという。



 貴族は魔力が安定する満五歳になったら、大抵は五歳の誕生日にだそうだが、魔力検査と測定を行うのだ。



 帝国中を定期的に回って、どんな身分の人でも五歳の誕生日を迎えたら魔力検査と測定を受けるのだとか。



 魔力検査と測定は、魔力の有無を調べる魔導具である、丸いボーリングの玉ぐらいの水晶と、掌で包めるぐらいの丸い水晶の魔導具で、一定以上の魔力と属性を調べる事で行われる。

 詳しい魔力の数値や属性は掌位の八角形の水晶で調べるという。

 これで調べると別のパソコンみたいな装置に数字や文字が出るらしい。



 ボーリング玉の水晶に触れて光ったら魔力がある。

 掌で包めるぐらいの水晶は触れて光ったら、ある一定以上の魔力があるという事。



 掌で包める丸い水晶は、色で魔力の属性を教えてくれる。



 地が茶色、水が水色、火が赤色か橙色、風が黄緑色、光が白、闇は漆黒、氷は青、雷は黄色、植物は緑、空は紫、複数属性は其々の色が交互にといった具合。

 光の強さでも魔力の強さを教えてくれる。

 それを魔導具が数値化して、属性と一緒に分かる様に表示されるのだとか。

 


 そして、掌で包めるくらいの水晶が光ったら帝立魔法学校に入学出来る、かもしれない、という。

 だから、基礎教育学校の中でも特別な学校に入る事になるらしい。



 この国には学校は大きく分けて二種類ある。

 基礎教育学校と高等教育学校だ。



 帝国の成り立ち上、戦闘訓練と魔力の使い方は男女共に必須だから、平民は魔力測定を終えたら、基礎教育学校に入学し基礎を学ぶのが当たり前なのだとか。



 貴族は家庭教師を雇い教えを乞うという。



 貴族以外で裕福な者も魔力検査後、同じように家庭教師を雇うことも多いらしい。

 あくまでも学校の勉強の補填でだが。

 普通の平民は基礎教育学校に満六歳から満十三歳まで入る。



 その後は満十四歳から帝立の魔法学校か、それ以外の高等教育学校、もしくはそれぞれ専門的な学校に入学する。



 基礎教育学校は義務教育で、国が学ぶ物を決めている。

 基本授業料、教科書、ノート、筆記用具は無料だが、教科書、ノート、筆記用具は申請しなければならず、不自然な申請は審査され、場合によっては受理されない。

 ノート、筆記用具は自分で用意しても良いのだという。



 国立や公立の学校以外に私立の学校もあり、魔力検査後、優秀だとそちらに入学する生徒も多いらしい。

 有能なら補助金が出たり、とても優秀だと色々の費用が免除になったりするのだとか。




 特に優秀な子供は国中から集められて、特別な国立の全寮制の基礎教育学校に入学するという。

 これは基本的に無料。



 その上、特別な国立の全寮制の基礎教育学校に入学資格を有すると、国から助成金が出るらしい。

 市町村にも助成金が入るという。

 だから教育には市町村をあげて力を入れていたりすると聞いた。



 その子の家が学校から遠くても両親がお金に困らないようになっているらしい。

 助成金で学校に通ったり学校まで行く旅費は賄えるし、色々必要な物を揃えてもお釣りがくるという。

 だから倍率は凄まじいとか。

 ただ助成金をもらった場合、学校を卒業したら軍に何年か所属するのは絶対らしいが。

 元々軍に入隊するのは当たり前だから、特に不満は出ないという。



 貴族は例外で、普通は入学年齢に達したら必ず帝立の魔法学校に入学する。



 基礎教育学校は皇族と貴族以外は義務。

 高等教育学校は寮生活が当たり前みたいだ。



 帝立の魔法学校が最高峰であるがそれ以外も学校はあるのだという。



 ただし、学生は全て無料なのは帝立の魔法学校だけ。

 学費は基本的に帝立と国立、公立は無料なのだが、帝立の魔法学校は寮費や食費も無料だと言う。



 帝立の魔法学校は給与も出るから、後に軍に入隊することが絶対だったりする。

 それ以外にも、貴族や士爵や一定以上の富裕層を除き、助成金が出るという。

 給与の出る学生は、一定以上の成績をおさめないと給与が出なくなるし、助成金もなくなるらしい。




 これとは別に、後に返済するならという事で援助してくれる基金もある。

 それで他の国立や公立の高等教育学校に入学したりする子もいるらしい。

 学費は無料だが、諸経費がかかるから申し込む人も多いという。



 貴族や士爵、裕福な平民以外は、基礎教育学校で改めて詳しい数値を調べるらしい。

 その結果次第で、学校が変わったりする場合もあるという。



 貴族や士爵、裕福な平民は個別に検査と測定を行うから、詳しい数値を一気に調べるのだとか。

 そのために役人が来ているという。





 そんな説明も、湧き上がる胸の高鳴りと、押し寄せる胃のキリキリとするような痛みを紛らわせるのに丁度良かった。



 意気揚々と、とは、とてもいえないが、貴族令嬢としてはそう恥ずかしくない所作だと、お母様を思い浮かべながら自己評価しつつ、恐る恐る水晶に触れ――――






 検査と測定の結果に、家中の皆が右往左往している。

 役人が大幅に増えて、もう一度調べ直したが、やはり、魔力は、少しも無かった。

 水晶はどちらとも、全く反応しなかったのだ。

 それこそピクリとも。



 その場が一瞬瞬時に凍りつき、一気に解凍する様に騒がしくなったのを覚えている。



 私が魔力無しと判ってから、お父様も家の皆もとても忙しくて、色々訊けずにいるのだ。

 判るのは、前にも増して過保護になった事。



 魔力検査と測定の結果が出た直後からお父様は難しい顔をしていて、家令や家政婦長の人たちをはじめ、家に仕える人たちが皆心配そうな顔をしている。



 やはり、魔力無しは貴族の家にとって問題なのだろう。

 その上、我が家はたしか、近しい親族も含めると、お父様の娘である私しか子供がいないはずだ。



 何せ帝都に着いてから、父に似て優しそうな祖父や、キリッとして気高さあふれる祖母には引き合わせられたが、父の兄弟には会った事がない。

 お祖父様は祖父というより、伯父様って感じがする。

 それはお祖母様も同じだけど。

 祖父母は頻繁に会いに来てくれるから、父の兄弟がいたら、やはり訪ねてくると思うのだけれど。



 仲が悪いのかとも思ったが、話題にもならないし、いないのだろうと結論付けた。



 そうなると、かなり不味い状況じゃないだろうか。

 女が跡を継げるかは分からないが、筆頭大公爵家現当主の一人娘が魔力無しって、相当困った事態だろう。

 しかも、代わりになる身内もいないわけだし。



 私、やっぱりこの世界に要らない存在なのかな。

 ルーは大丈夫だって言ってくれたけれど……



 私、どうなるのだろう。

 家を追い出されたりするのかなあ……



 でも、優しい父や祖父母がそんな事をするとも思えないし、信じたいけれど、貴族の義務だからとか、そういう法律があったらどうしよう……



 家族を信じたいのに、悪い想像ばかり浮かんできて、気分は自然と鬱々となるし、視線も知らず知らずのうちに下ばかり見るようになってしまった。

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