第5話

 ルーの馬車に乗せてもらって、アンドの家である帝都にあるゾンデルスハウゼン大公爵家に向かう。

 他の皆は其々の馬車に乗ってだ。



 今日は初夏にはまだ早いから桃色のドレスだが、侍女さん達は私に可愛い衣装を着せたがるのだ。

 フリフリは可愛いと思う。

 まだ大人っぽいのは早いと認識しているから、否やはない。



 元々、目立つのは苦手である。

 前世で色々あったし。

 今は護衛とかいてくれるからも手伝い、ちょっとは可愛い服を着ても大丈夫かな、と思えている。

 やっぱり可愛い服とか綺麗なのは基本的に好きなのだ。






 景色を眺めていると、この帝都に初めて来た日の事が思い出される。



 お父様とお母様との初めての旅行みたいで、忙しかったけれど大変楽しみにしていた。

 お父様たちも私の為に、初めて帝都に行くのだからと帝都の中を通って屋敷に着く道順になるように、【第二転移門発着港】に公都の【転移門発着港】から着くようにしてくれたのだ。



 本来、筆頭大公爵家ならもっと帝宮と屋敷に近い、【第一転移門発着港】が使えたらしい。

 こちらを使えるのは皇族や上位貴族と緊急性の高い事柄のみだという。



 帝都の第二転移門発着港は、帝都の外れにあって、空港のように待合室があったり発着の手続きをしたり、皇族専門や貴族専門等々ある。

 発着時間は決まっていて、皇族、貴族は特別便といって割り込む形らしい。

 私達は当然の様に特別便だった。



 港と同じ敷地内だと言っていた通り、海に近い場所に第二転移門発着港はあった。

 公都の転移門発着港も人が沢山いたが、こちらは更に賑わっていて驚いたのを覚えている。

 その門を通ると、門に入る前に設定した別の門に着くのが転移門だ。

 とても巨大で吃驚したものだ。

 転移門は大貴族の治める領地等の重要な場所と帝都を結ぶ物だと教えられた。





 転移門発着港には何か前世のアニメで見た宇宙船みたいな形状の船? のような物体があってあれは何かと聞いたら、貨物船に輸送艦だと言われて驚いた。

 さらに驚いたのはあれが空を飛んでいる姿を見た時だ。

 驚いている人はいないから、あれが普通なのだろう。



 空も水の上も中も両方大丈夫なのだとか。

 自家用の物や戦艦もあるが、戦艦等は主に軍港にあると教えてもらった。

 本当にビックリする事が多い。





 馬車を牽くのは馬みたいな動物だけど、何か違うな、こう迫力というか、幻獣であるアギロに近い存在感だと思っていたら、【命獣】という種族の馬だと教えてもらった。



 命獣というのは帝国の領土にしか存在しない特別な生き物らしく、幻獣と普通の獣の中間の生物で、帝国でしか飼育出来ないらしい。

 魔素を吸収しているため、食事も水もほとんど要らないという。

 魔素を吸収しているからかとても力が強く、頑丈で、耐久力が凄くて、足がとても速かったりするのだとか。



 飼い慣らしているものが命獣で野生のものは令獣というのだという。



 命獣はある一定以上の魔力持ちには温和で従順。

 戦場でも気後れせず、帝国基準では魔力が弱くても言うことをきく。

 魔素もエネルギー源にしているから、成長も早い上に子供も沢山産むし寿命も長い。



 糞はとても土に良くて、発酵させて混ぜると植物の成長が目に見えて違うという。

 他のただの獣の糞でも良いけれど、命獣だと段違いらしい。

 命獣令獣の糞はわずかな量でも土地を豊にするというから凄いという。



 命獣令獣、それから魔獣の骨も肥料にとても良いらしい。

 極め付けに魔石も採れる。

 命獣は良いこと尽くめの存在なのだ。



 それから、幻獣や魔獣以外の生き物を使役獣とする事ができるという。

 使役獣というのは、使役している者を主とし、その意志に従い、けして逆らわない獣の事だという。

 普通の獣は元より、鳥類も使役できるという。

 命獣や令獣も可能で、他の人類より魔力が強い帝国人ならではの技能だとか。

 同じく魔力の強いレムリア人の王侯貴族なら使役獣は作れるという話だ。



 幻獣も使役獣を作る事が可能で、幻獣と魔獣以外の命獣、令獣を含め獣や鳥類を使う事があるらしい。



 馬車も驚いたものだ。

 何せ車輪が無い。

 どうやって走るのかと思えば宙に浮くのだ。

 これには本当にびっくりした。



 馬車の装飾が凝っていて美麗なのは、城館や庭を日常的に見ていた為それ程衝撃は受けなかったが、やはり高そうだ。

 壊しはしないかハラハラしてしまうのは根が庶民故だろう。





 命獣が牽く馬車で帝都を走る。

 地面は【地瀝青】つまりアスファルトの様なもので覆われていた。

 それから所謂車道と歩道が分かれている。



 列車や新幹線みたいな高速鉄道もあるらしい。

 やはり宙に浮くのだろうか。

 興味は尽きない。





 山脈を背後にした帝宮を基点に扇形に広がる帝都。

 碁盤の目のように整然と整えられた美しい都だ。



 帝都の人口は世界中で比べてみてもこの世界で上位になる位多いらしい。

 帝都より上位は全てレムリア王国で、一番多いのは友好国のレムリア王国の王都ラレースだという。



 帝宮から近い場所は上位貴族の屋敷が占める。

 帝都の中央部には大きな噴水があって、都庁があり、その周辺に帝国銀行本店や帝都中央郵便局、帝都警察本部庁舎、大神殿、劇場、国立図書館などの大型公共施設が集中する。



 帝都の中央部より帝宮に近い場所は、いわゆる高級な住宅街と高級なお店が並んでいる。

 港の付近には倉庫が立ち並んでいたり、高層ビルみたいなのが沢山見えた。

 大きな楕円形の、何だろう屋根のある国立競技場みたいなものかな? っていうのも見えたり。



 高層ビルみたいなものは、帝宮や高級住宅街から見たら海への眺めの範囲外にしかないのが凄い。

 基本的に一般市民用や高層の建物は中央から海寄りにしかないみたいだった。

 色々決まりが在るという事かも。



 大小様々な公園や街路樹が沢山あって、上下水道は地下を流れているが川や噴水などもあり、水や緑が豊かなのが帝都だ。





 すれ違う馬車の違いも教えてもらったのだ。



 帝都から出ない乗り合い馬車は車体が白く、通称白馬車。

 行政が運営していて、決められた道順を走り決められた場所に停まる。

 暗くても目立つように車体が白く出来ているのだとか。

 つまり周遊バスか、電車みたいなものと認識した。

 大型の馬車で、料金は安いという。

 前世のバスみたいなものや電車みたいな物もない訳ではないらしいが。



 貸し馬車は通称黒馬車と言い、車体が黒く、個人で利用するもの。

 街中で呼び止めたり、乗り場で待っていると来てくれるし、劇場や大きな店の近くに必ずいるという。

 家に呼んで利用する場合もあって、大型から小型まである。

 御者も値段で違ってくるという。

 一日貸切にしたり、数日貸し切ったりという使い方も出来るとか。

 御者付きにするかどうかも選べるらしい。

 料金は白馬車より高い。

 タクシーかレンタカーみたいなものと理解した。

 浮く物や、タイヤで走らない馬車以外に、前世で在った様なタクシーやレンタカーの様な物もあるみたいだが。



 乗り合い馬車で茶色の車体の馬車は、通称茶馬車。

 帝都の外の様々な都市や町、村を繋いでいて、やっぱり同じ道順、同じ場所で停まる。

 国が運営していて、とても大きくて長いし速いものもあるという。

 人を乗せないで荷物だけ運ぶものもあるそうだ。

 電車や新幹線で、貨物列車みたいなものだと思った。

 貨物列車や新幹線は別にあるみたいなのだが。



 個人所有の馬車は維持費も含めとても高価で、貴族か士爵、富豪しか持っていないと教えてもらった。

 思ったのは、この私が乗っている馬車、前世での従兄弟の車に乗ったみたいに乗り心地が良い。

 宙に浮いているからか揺れが感じられないし安定している。



 御者を必要としない車みたいな物は平民でも持つのは普通みたいだ。

 車なのだろうけれど、やっぱり宙に浮いているのとタイヤで走るのとある。

 見た限りだとタイヤで走る方が若干多いかな。

 本当に謎だ。





 帝都では、皇祖に導かれた人々がこの地にたどり着いたのを記念した祭も秋に行われるという。

 騎士団や魔導師団のパレードや、季節市場の秋市場も開かれる盛大な物だという話だ。

 収穫祭も兼ねているとか。



 市場は毎日、帝都のそこかしこで開かれるけれど、季節市場は帝国中から色々なモノが集まる、一種のお祭りらしい。

 大道芸みたいな外国の人達とかも集まって、本当に賑やかなのだとか。



 季節市場は春夏秋の三回あるのだが、春は忙しかったから行けなくて、夏と秋の祭りはお母様が体調を崩して行けなかった。

 だから、来年は行こうねと約束していたのだが……






 視線を感じて視てみると、ルーに見つめられていた。


「どうしたの?」


「――――もうじき着く。あまり泣くな。どうしてよいか分からなくなる」


 心配させてしまったらしい。

 ルーの瞳が揺れている。


「泣いていないよ。心配してくれてありがとう。大丈夫だから」


 感謝を込めて微笑んで言ったのだが、まだ不安そうだ。

 困ったな……人に心配されるといたたまれない。

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