第103話

 銀悌は、白の傷ついた腕に手を置いた。


「すまなかったな……」


 一瞬にして、傷を完治させて俯いた。


「今上帝は皇后と睦み合うた……事は動き始めておる」


「……朱様も、恋をお知りになられた……」


「もはや後には戻れまい?」


「……お母君様は、今上帝様と皇后様との間にご誕生になられる、青龍を抱けし皇子様をお望みだ」


「なんと?摂政の青龍をか?」


「……そうは申されぬが……できうるならばそうされたい」


「摂政から奪うおつもりか?」


「青龍が望めば、宿替えなど容易くするものだ……」


「……で、あるが?」


「それをいたすには、朱様の全身全霊をかけたお力が不可欠……」


「ゆえに二人に、愛情が不可欠なのか?はっ?馬鹿げてる。愛情とは数多とあるもの、何も男女ので無くとも……」


「鸞一族の神気はでできている、と言うても過言ではない……ゆえにお母君様は、を望んでおいでだ……あわよく事がなった折に、皇子様が抱かれし青龍を抑えるお力も、朱様がお持ちになられる」


「つまりは夫婦の愛情で、朱に今上帝を護らせるおつもりなのか?」


「鸞一族のは、深いからな……」


「なんと……」


 白は唖然として、銀悌を見つめる。


「しかし、朱が恋をせねば、如何致されるつもりだったのだ?」


「その為の、美貌であろうよ?……そしてそなたの言う通り、今上帝様はそういう体質たちでご誕生なされ、朱様の囚われとなられた。さすがのお母君様も、朱様が今上帝様にお心を開く事をなさらなければ、この様な事を思いつかれる事はなかった」


「まさか?朱を人に混じらせなんだは?この為か?いやいや、まさかな……」


「そこまでは……だがあの美貌だ。人間の目には毒にしかならん」


「……ならば、早く教えてやるべきだが……やはり躊躇いが出たか?」


「…………」


「朱はまこと純朴な性質たちよ。あれ程に愛らしい男は珍しい……。そなたが教えるは、もはや後戻りはできぬという事だからな……」

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