第98話

 つまり神楽の君様は、やはりあの術を施されたのか?

 あの妖しくも怪しいは本物だったのか?


 あれからずっとずっと、琴晴は気に掛かって仕方がないのだが、今ここで神楽の君様にお聞きする勇気は持ち合わせてはいない。


「そうか……皇后と仲睦まじくされておいでならば何より……」


 神楽の君様は先程よりも、微かに頰に紅をさされて言われる。

 その可憐なご様子は、今が盛りの泉の周りに咲き誇っている桃の花弁の様だ。

 琴晴は魅入られる様に、その頰を見つめる。


「主上は皇后と、仲睦まじく致すが幸せだ……。お二人はまだまだお若くあられるから、焦らずとも御子様を御授け頂けよう……」


「はい。お妃様は暫しの時が必要だと……」


「ならば尚の事……お二人が睦まじくいられる事が肝要だ。は后妃などさほど持てぬ体質たちであろうから、焦らずにお二人の御子様のご誕生を待つしかない……」


「お妃様もそのように……」


「そうか?お母君様もその様に申されてか?……ならばじっくりと致すしかあるまいな……」


 神楽の君様はそう言われると、微かに口元を緩められて立ち上がられた。


「琴晴。流行病を退治致す薬草を探して帰ろう……」


「しかしながら、神楽の君様のお心地が……」


「いや、大事無い。くと致さねば、この先の銀悌がこさえた、私の修行の為の屋敷に泊まらねばならぬぞ?まっ、そなたと二人であらば、式神とやらにいろいろとさせて、のんびりと致せるか?銀悌の酒もある……」


「疾くと致しましょう」


 琴晴は慌てる様に立ち上がる。

 冗談ではない。

 神楽の君様と二人だけ……など、それこそ失敗らないという自信がない。

 近寄らぬ神に祟りなし……と言うものだ。

 決して琴晴は女体にしか興味がない人間だが、神楽の君様だけはヤバい相手と言っていい。

 親しくなればなる程にそう思う。

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