第86話

「私はお兄君様であられれば、それで良いのだと申しました」


「……その様に申しておられたは確かだが?」


「私はあなた様であられれば、男でも女でも構わぬのです」


「???主上よ。男であれ女であれ私に変わりはない」


 お二人は暫しジッと見つめ合われる。

 そして今上帝様が徐ろに微笑まれる。


「……では今し方お兄君様は、如何して〝今女では無い〟と仰せでございます?」


「はて?そなたとの禊ぎの時に、女体を知らねばならぬゆえ女となった」


「はい」


「ゆえに女が良いと思う」


「如何してにございます?」


「そなたは皇后と子を成さねばならぬゆえ……」


「それは皇后との事でございます。あなた様との事ではございません」


「?????」


 神楽の君様は、今上帝様の腕の中で至極考え込まれてしまわれた。


「私はあなた様が良いのでございます」


「私は私だ。女であろうと男であろうと……現世はこのどちらかであるから、私は男として此処に在るが、別段女にもなり得るし、どちらでも不自由ではない。しかしながら、長年この体なのでこれで良いのだが、そなたが望めば女となったところで良いと思うておる」


「はい。私もあなた様ならば良いのでございます」


「……ならば、女となるまで待たれよ」


「如何程待てばよろしいので?」


「うーん?私も変わった事が無いからな……この間は仮の姿であったので、完全なる女では無かった」


「はい……皇后と枕を共にいたし解しました」


「そうか?やはり下手くそであったか?」


 ……まっ、術を施すまでの間と思っていたから、見た目をチョチョいと変えてみただけなのだが……とは、口が裂けても言えない。

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