第七巻

第82話

 陰陽寮の陰陽師安倍琴晴が、なんと陰陽博士となった。

 これは破格の出世と云っていい。

 琴晴は安倍の姓を名乗っているので、かの有名人の安倍の一族とは言うものの、それは遠縁の遠縁だ。

 詳しくは解らないが琴晴が想像するに、かの有名人の縁の者……例えばきょうだい?例えば親戚?愛人?例えば一夜限りの遊び相手?的な遠縁の者の子供の子孫、じゃないかと思っている。

 なぜかというと、奇才の安倍家有名人程ではないが、不思議なもの達との繋がりを、幼い頃から持っていたからだ。

 父は高貴な身分であったらしいが、母は身分が低く女房として仕えてお手が付いたという処だろう。当然ながら愛人にすらも認めてはもらえなかったが、琴晴はちょっと不思議な力を持っていた為に、父の縁故で陰陽博士の下で学生がくしょうとして、学ぶ事ができて陰陽師となれた。


 あの夜……今上帝様のご容態が思わしく無く、焦られた皇太后様が陰陽寮に女官を遣わされ、偶々琴晴が雑用を仰せつかり残っていた為に、絶対琴晴など近づく事すら許されぬ清涼殿に遣わされた。


 今思えばそれも、かのお方のお力が働いていたのかもしれない。

 そして其処でかの君、神楽の君様とお会いしたのだが、我が身分をかんがみればそれこそ何かの力が動いていなければ、琴晴が神楽の君様の片棒を担げるはずは無い。

 そして神楽の君様の、それは愛おし過ぎる程の無垢というか無知というか、呆れるばかりの愚策に加担し、無事今上帝様の初夜の儀を終えた事で、当人が吃驚する程の出世を遂げてしまった。

 摂政様が焦れに焦れていた、皇后様との初夜の儀を無事済ませられ、それから皇后様に対して今上帝様がお優しくなられたので、摂政様はご満悦であるらしいし、琴晴は今は知らないが、今上帝様の思いをお遂げになられる、片棒を担いだ(色恋沙汰全般に疎い神楽の君様をうまく唆した)のであるから、当然のご褒美と言っていいかもしれない。

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