第12話 同級生の勤め先
職場の近くのカフェで、ぐうぜん、中学のときの同級生のAさんを見た。地元を離れて働いているため、会うのはほんとに数年ぶりだ。
しかし、最初はそれがAさんだと思っていなかった。
じつは、これまでにも何度か昼休みのこの時間、制服を着て歩く彼女を見かけたことがある。
ただ、そのときは正直、文緒より五十歳は年上だと思っていた。髪が真っ白なのだ。とても文緒と同じ二十代に見えない。
だが、その日はたまたま、同じカフェに入り、近くのテーブルについた。
なにげなくながめた横顔が、Aさんのおばあさんにそっくりだった。
なので、初めはAさんではなく、Aさんのおばあさんだと思った。でも、よく考えたら、Aさんのおばあさんは、文緒たちが中学を卒業する前に亡くなったのだ。
(あれ? じゃあ、Aさんのお母さんかな? でも、中学のころから十年で、ずいぶん老けたなぁ)
Aさんとは特別に親しいわけではなかったので、ふつうに食事をして、そのまま声をかけることなく外に出た。が、ちょうど、そのあとを追うようにAさんもカフェを出てきていたらしい。
しばらくテナントビルの並ぶ大通りを歩いていると、すぐうしろで声が聞こえた。
「あら、Aさん。昼休み、もう終わり?」
「あっ、社長。ちょっと早めに帰ってきました」
間違いなく、同級生のAさんの名前だった。Aさんの名字はとても変わっているので、同姓同名ということは絶対にない。
思わず、文緒はふりかえって、まじまじとAさんを見た。Aさんと目があってしまい、ちょっと気まずい思いをする。そそくさと逃げだそうとすると、Aさんから呼びとめられた。
「もしかして、辻浦さん? 小中がいっしょだった」
気づかれてしまった。
しょうがなく、立ちどまって愛想笑いを浮かべる。
「ひさしぶり。Aさん」
「ほんと、ひさしぶりだねぇ。十年ぶりかなぁ」
十年。中学卒業からのわずか十年で、Aさんはなぜ、こんなにも老けこんでしまったよだろう。近くで見ると、顔のシワも深い。どう見ても七十代だ。
でも、Aさん自身は、そのことにまったく頓着していないようすだ。
「あなた、Aさんの知り合い? 初めまして。わたし、
「伏木さんは、わたしの勤める会社の社長さんなのよ。社長にはほんとによくしてもらってるの」
「そうなんだ」
中学生か高校一年生くらいにしか見えない女の子が社長。そのよこで笑うAさんは二十代のはずなのに、七十歳に見える。なんだか、異様だ。
そして、二人の脇をすりぬけて、次々と女性が目の前のビルに入っていく。Aさんと同じ制服を着ている。伏木の会社の社員なのだろう。その人たちが、みんな、老婆なのだ。いや、髪は白く、肌はシワだらけだが、老人にしては妙にスタイルがいい。バストと位置やウエストのくびれ、伸びた背筋。まだ若いのかもしれない……。
伏木は文緒のことをじろじろ凝視して言った。
「あなたもわたしの会社で働いてみない? 週休四日で月百万よ。もうすぐ、辞める子がいるから、ぜひ、あなたみたいな若い人に来てほしいの」
「辻浦さんもいっしょに働こうよ。ほんとに、いい会社だよ?」
Aさんも勧めるが、条件がよすぎる。ただの事務職のはずがない。
自分より五十歳も年上に見えるAさんをながめるうちに、文緒は冷や汗が流れてきた。
「いえ、あの、わたしは……」
あわてて、逃げだした。
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