第11話 錯覚



 飲み屋で軽く一杯ひっかけて出てきた文緒は、路地に立つ男を見てギョッとした。


 街灯の光が、やけにまぶしく男の頭部を照らし、まるで男に首がないように見えた。


 えっ? まさか?——と思いながら、ちょうど進行方向だったので近づいていく。


 数メートル手前まで来て、よく見れば、男は首を下にむけて、うつむいている。手にしたビニール袋をのぞきこんでいるだけだ。そこへちょうど、街灯の光が頭の位置に来て目がくらんだため、うしろからは、たまたま首がないように見えたのだ。


(なんだ。そんなことか)


 文緒は安心して、男のよこをすりぬけ、追いこした。

 大通りにまじわるところまで来たので、まがりかどをまがる。そのとき、なんの気なしに、さっきの男をチラリとながめた。


 そして、一瞬で背筋が凍った。


 男はうつむいていたわけじゃない。

 頭部がちぎれ、だらりと皮一枚でぶらさがっていた……。

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