第31話 順序数 和の順序
「とりあえず、定義に戻って3+ωを計算してみたいけど、これまでの知識も活かしていくよ」
湾は気合いを入れ直して計算に取り組む。
3={0,1,2}に対し集合Aを次のように定義する。
∀x((x,0)∈A↔x∈3)
このとき、
A={(0,0),(1,0),(2,0)}
「どう?」
「湾の成長を感じる。ωのほうもやってみよう」
「よし」
ω={0,1,2,3,…}に対し、集合Bを次のように定義する。
∀x((x,1)∈B↔x∈ω)
このとき
B={(0,1),(1,1),(2,1),(3,1)…}
「いいね。では次は?」
「大小関係だね。これはω+3のときをそのまま流用するよ」
x◁y:↔
(x[R]=y[R]→x[L]∈y[L])
∧
(x[R]≠y[R]→y[R]=1)
「いいけど私はこっちの方が好きかな」
藍は式を書き直す。
x◁y:↔
(x[R]≠y[R]→x[R]∈y[R])
∧
(x[R]=y[R]→x[L]∈y[L])
「ああ、なるほど!右を見比べてから、左を見る感じがよく出てるね。式も対称的できれい」
「そう思ってくれるとうれしい。じゃ、これは三角に対して、どんな順序になってるか図示できる?」
「うん」
(0,0)◁(1,0)◁(2,0)◁(0,1)◁(1,1)◁(2,1)◁(3,1)…
「いいね。先ほどのω+3と見比べてみよう。どう違うかな?」
(0,0)◁(1,0)◁(2,0)◁(3,0)…◁(0,1)◁(1,1)◁(2,1)
「えっと、そっか。テンテンテンが真ん中にあるのと、最後にあるのが違うね」
「そう。それはとても大きな違い。早速Gを計算しようか」
「よし」
定義域をA∪Bとする関数Gを次のように定義する
G(x)={G(a)|a◁x}
このとき、(A∪B,◁)の順序数をord(A∪B,◁)と書き、次のように定義する
ord(A∪B,◁)={G(k)|k∈S}
「いつもどおり小さい順に見ていけばいいから、こうだね」
湾は図と見比べながらGを計算する。
(0,0)◁(1,0)◁(2,0)◁(0,1)◁(1,1)◁(2,1)◁(3,1)…
G((0,0))=0
G((1,0))=1
G((2,0))=2
G((0,1))=3
G((1,1))=4
G((2,1))=5
G((3,1))=6
…
「ありがとう、湾。ここからだよ。この列に全ての自然数は出てくるかな?」
「出てくるよ。数学的帰納法を使えばいいね」
「よし。では、この列にωは出てくるかな?」
「出てこないことを言うためには何を証明すればいいの?」
「全ての自然数nに対しG((n,1))はωの要素になることを言えばいい」
「うっ、書かないと難しい。こうかな?」
∀n∈ℕ(G(n,1)∈ω)
「そう」
「ほんとにこれで良いの?」
「よい。なぜなら、これで全て調べられているからだ」
G((0,0))=0
G((1,0))=1
G((2,0))=2
はOK
残るは、n∈ω(=ℕ)に対してG((n,1))のみ
「なるほど。じゃあ早速、数学的帰納法を使うよ」
∀n∈ℕ(G(n,1)∈ω)
を証明したい。数学的帰納法は2ステップ。
①G(0,1)∈ω
②∀n∈ℕ(G(n,1)∈ω→G(n+1,1)∈ω)
この二つの式を証明すればよい。
①
G(0,1)=3∈ω
②
∀n∈ω(n+1∈ω)
だから、
G(n,1)∈ω
→G(n+1,1)=G(n,1)+1∈ω
「よし、いいよ。これで、Gの値は、ωの要素全部で、それだけだということがわかったね。ということで、AとBの和集合の順序数は?」
藍はノートに書く。
3+ω=Ord(A∪B,◁)=
湾は付け足す。
3+ω=Ord(A∪B,◁)=ω
「あっ…」
「何か思うことは?」
「足す順序が大事ってことか」
「その通り。順序数の和では、交換法則は成立しない」
藍は得意気にノートに書く。
ω=3+ω<ω+3
「これ、定義に戻ればわかるけど、どんな自然数も、ωの左に足せばωになるってことだよね」
「そういうことだね。ωの性質をこう見るのも楽しい」
ωは1+α=αを満たす最小の順序数である
「あ、なるほど。たしかに。でも、右から足すのと左側から足すので異なる値になるってのは少し怖いな。普段の計算ではあんまりどちらから足すか意識しないもんね。あれ、ということは、こんな順序数も存在する?」
α+1=αを満たす最小の順序数
「これは存在しない。なぜなら、α+1の要素にαが必ずあり、αの要素にはαは無いからだ。式にするとこう」
∀α∈ON(α∈α+1)
「そうか、それはそうだね」
「よし、順序数の和に交換法則が成り立たないことがわかったので、最後の問題だ」
「これだね」
第三問
ω+ω
「だんだん慣れてきた。まず、左側のωに対応する集合Aはこうだね」
∀x((x,0)∈A↔x∈ω)
A={(0,0),(1,0),(2,0),…}
「それで、Bはこう」
∀x((x,1)∈B↔x∈ω)
B={(0,1),(1,1),(2,1),…}
「これに対して大小関係◁をこう定義して」
x◁y:↔
(x[R]≠y[R]→x[R]∈y[R])
∧
(x[R]=y[R]→x[L]∈y[L])
(0,0)◁(1,0)◁(2,0)◁…◁(0,1)◁(1,1)◁(2,1)◁…
「そして、Gがこう」
定義域をA∪Bとする関数Gを次のように定義する
G(x)={G(a)|a◁x}
G((0,0))=0
G((1,0))=1
G((2,0))=2
…
G((0,1))=ω
G((1,1))=ω+1
G((2,1))=ω+2
…
「そして、この順序数がこう」
このとき、(A∪B,◁)の順序数をord(A∪B,◁)と書き、次のように定義する
ord(A∪B,◁)={G(k)|k∈S}
ord(A∪B,◁)={0,1,2,…,ω,ω+1,ω+2,…}
「これは、全ての自然数nに対して、ω+nよりも大きい順序数だね」
「慣れたもんだね。よし、そのとおり。これは今まで出てきたどんな順序数とも違うことがわかるので、この順序数をこう書こう」
ord(A∪B,◁)=ω+ω
「ってことはだよ、こう書いても良いのかな?」
ω+ω=2ω
「それは良くない」
「あれ?順序数に掛け算は定義できないのかな」
「いや、そういうわけではないが、掛け算の定義はあとで厳密にやるとして、2ωの意味する式はこうなってしまうんだ」
2ω=2+2+2+…(ω個)…
「あれ?でもちょっと待って。2xってこうじゃない?」
2x=x+x
「まあ、たしかに係数は個数のように見えるから、その気持ちは非常によくわかるけども、2xといったときの2は整数か実数か複素数、xは実数か複素数を意図している事が大部分で、順序数の積とは定義が違うんだ。だから…」
呼吸をおいて藍は続ける。
「順序数の積を計算ルールと記号をともにしっかり定義することにしよう。いま、何時かな?」
湾は時計を確認する。
「8時40分だね」
「よし、まだ時間はある。積の定義を見たらお風呂に入って、それから和と積の性質を見て、今日は終わりにしようか」
「よし、早速積の定義、お願いします!」
湾は楽しそうにペンを藍に渡した。
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