第27話 順序数 ω

湾は問題と定義を確認する。


ord(ℕ,∈)を求めよ


定義

集合Sと二項関係<が整列集合を成すとする

このとき、定義域をSとする関数Gを次のように定義する

G(x)={G(a)|a<x}

このとき、(S,<)の順序数をord(S,<)と書き、次のように定義する

ord(S,<)={G(k)|k∈S}


「とりあえず、何がおこるかわからないけど、代入する感じかな」

「そうだね」

「何が起こるかわからないけど代入って少しワクワクするね」

「そう?」

「藍はそうでもない?」

「私は、とってもワクワクする」


集合ℕと二項関係∈は整列集合を成す

このとき、定義域をℕとする関数Gを次のように定義する

G(x)={G(a)|a∈x}

このとき、(ℕ,∈)の順序数をord(ℕ,∈)と書き、次のように定義する

ord(ℕ,∈)={G(k)|k∈ℕ}


「ます、1行目」


集合ℕと二項関係∈は整列集合を成す


「これはOK。自然数が整列集合なのは散々確認した」

湾はキビキビと喋る。


「次は2行目」


このとき、定義域をℕとする関数Gを次のように定義する


「定義域が自然数全体ってことは、Gにはどんな自然数を入れてもいいってことだね。例えばこんな感じ」


定義域は{0,1,2,3,…}なので

G(0)

G(3)

G(244931)

等はOK


「3行目」


G(x)={G(a)|a∈x}


「怖いけど、とりあえずいつもどおり最小の0からやっていこう」


G(0)={G(a)|a∈0}=0

G(1)={G(a)|a∈1}={0}=1

G(2)={G(a)|a∈2}={0,1}=2


「これ、当たり前だけど、G(n)=nだね」

「そうなる。どんな自然数でも成り立つことはどうやって証明する?」

「証明…、当たり前のことを証明するのは難しいな」

「全ての自然数で成り立つことを証明するのに便利な公理、知らない?」

「数学的帰納法か!」


∀n∈ℕ(G(n)=n)

を証明する。証明は2ステップ

φ(x):↔(x∈ℕ→G(x)=x)

として、

①φ(0)

②∀m∈ℕ(φ(m)→φ(m+1))

を証明する。


①φ(0)

G(0)=0は上で計算済み


②∀m∈ℕ(φ(m)→φ(m+1))

全ての自然数mに対し

G(m)=mならばG(m+1)=m+1

を証明したい。

定義より、

G(m+1)={G(a)|a∈m+1}

なので、…


湾の手が止まる

「こう続けよう」

藍が助け舟をだす。


G(m+1)={G(a)|a∈m+1}

={G(a)|a∈m∨a=m}

={G(a)|a∈m}∪{G(m)}

=G(m)∪{G(m)}

=m∪{m}

=m+1


「これは、テクニカルだね…難しい」

「G(m+1)の要素はこうなっているはず」


{G(0),G(1),...,G(m-1),G(m)}


「これをこう分解した」


{G(0),G(1),...,G(m-1)}∪{G(m)}


「この右側はそのままG(m)になっている。そして仮定よりG(m)=mだから、こうなる」


m∪{m}


「そして、これはm+1に等しい」


m∪{m}=m+1


「フォン・ノイマン構成において、+1,つまり後続数の定義がそもそもこうだ」


x+1:=x∪{x}


「例えば、4+1なら」


4+1=4∪{4}

={0,1,2,3}∪{4}

={0,1,2,3,4}

=5


「そっか、自然数の要素の最後に自分自身を加えると次の自然数になるってことだね」

「そういうイメージだね。とにかくこれでステップ②もOK。数学的帰納法より次が示された」


∀n∈ℕ(G(n)=n)


「なんだか、直感的に当たり前のことを言うのにめっちゃ手間かかるね」

「これは注意だけど、いま無限を扱っている。無限はいつでも直感を破壊する。無限を扱った歴史的な数学者で、直感通りに全て上手く行った人など一人もいなかったのではないか、と思う。だから、論理を使おう」

「論理か…」

「では、最後、4,5行目いくよ」


このとき、(ℕ,∈)の順序数をord(ℕ,∈)と書き、次のように定義する

ord(ℕ,∈)={G(k)|k∈ℕ}


「つまり、これは最後の式を見ればいいね」


{G(k)|k∈ℕ}


「G(n)=nだから…」


{k|k∈ℕ}=ℕ


「あれ?」


湾は混乱している。?マークが空を飛んでいるのが自分でもわかった。


「はははっ!面白い顔してるよ、湾」

「あれ?順序数、ℕなの?」

「そのとおり」

「ℕって数なの?」

「こう見ると、数に見えるかな?」


ℕ={0,1,2,3,…}


「まあたしかに自然数に似てるね」

「そう。自然数全体を順序数として見るときは、記号は"エヌ"ではなく"オメガ"を使う」


ω=ℕ


「そして、我々は初めて要素を無限個もつ順序数を手に入れた」


ord(ℕ,∈)=ω


「これはωの定義だから、こう書いても良い」


ω:=ord(ℕ,∈)


「このように、いかなる自然数、すなわち有限順序数よりも大きい自然数を超限順序数と呼ぶ。順序数にはギリシャ文字が似合うので、"アルファ"を使ってこう書けるね」


∀α((αは順序数∧∀n∈ℕ(n∈α))→αは超限順序数)


「どう?」

「ωより大きい順序数がたくさんあるってこと?」

「そう。たくさんある。それらは全て超限順序数で、ωはその中で最小のものだ」

「ωに順序同型な整列集合って例えばどんなものがある?」

「こんなのはどう?」


a(n)をn文字続いた「あ」とする

{a(k+1)|k∈ℕ}={あ,ああ,あああ,…}

≪:文字数の大小

このとき、

Ord({a(k+1)|k∈ℕ},≪)=ω


「ずらっと一列に並んでればωと順序同型ってことか」

「いや、そうとも限らないよ」

「あれ?」

「ずらっと一列、の意味が曖昧だからね。超限順序数で、ωではないものをこれから見ていこう…、だけど、ちょっとここに長居しすぎたね。一旦空気を入れ替えようか。ちゃんと頭に血、通ってる?」

「あれ…」


言われてみると湾は喉の渇きと、軽い目眩を覚えていた。


「慣れないことに触りすぎると大変だからね。さて、昼食のお礼にここは私が払おう。ちょっと散歩だ」

「わかった、ありがとう」


こうして二人は喫茶店ブラザーズを出た。

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