第26話 順序数 順序同型

順序数の定義が一応ひと段落して、ぬるくなった紅茶とコーヒーに口をつける二人。


「無限集合の順序数に行く前に、順序数自身の順序数を考えてみようか」

「順序数自身の順序数?」

「順序数は集合だよね。たとえば6ならこう」


6={0,1,2,3,4,5}


「うん。これは何度もやったね」

「これの順序数を考えよう」

「えっと、もう一回順序数の定義確認したい」

「もちろん」


湾はノートをめくって順序数の定義を確認する


集合Sと二項関係<が整列集合を成すとする

このとき、定義域をSとする関数Gを次のように定義する

G(x)={G(a)|a<x}

このとき、(S,<)の順序数をord(S,<)と書き、次のように定義する

ord(S,<)={G(k)|k∈S}


「今回のSが6なのは6が集合だってことがわかってるからいいけど、二項関係もそのまま"小なり"でいいのかな」

「湾!」

「えっ、何?」


藍は湾の手を握り締めて言った。


「湾はすごい」

「えっ、そんな大変なことを言った?」

「集合が違えば二項関係も違うかもしれない。そういう疑問はとても大事だ。6の要素は0,1,2,3,4,5だから、そのまま"小なり"が使えそうと思うのが普通だけど、そこを疑うというのは、数学をするうえでとても大切な態度だ。特に新しいものに触れるとき」

「なんだか、すごい褒めてくれるけど、そんな大したことを言ったつもりはなかったな…」

「その感覚をずっと大切にしてほしい。では、今回使う二項関係について説明すると、実は"小なり"ではない」

「あれ?"小なり"でもよさそうだけど」

「"小なり"でも良い。うまく行く。でも、後々のために"属する"を使おう」

「あ、"属する"も二項関係なんだね」

「そう。まずこれを確認するよ。具体例から見てみよう」


4∈6

∵4∈{0,1,2,3,4,5}


「この点三つの逆三角形は何?」

湾は∵を指さす。

「これは、なぜなら、という記号。まあ特に大事でない」

「わかった。確かに4は6に属してるね。そうか、6未満の自然数は全部6に属してる。当たり前だね」

「そう。実は自然数の"小なり"は"属する"を使って定義されているんだ」


自然数の大小関係<の定義

∀x,y∈ℕ(x<y↔x∈y)


「まあ、それはそうか、という感じだね。"小なり"と"属する"は区別できないんだ」

「そう。ただし、実は順序数は自然数よりも大きい」

「自然数よりも大きい?」

「自然数は順序数の一部だ。だから自然数にしか使えない"小なり"ではなく、集合にならいつでも使える"属する"を使ったほうが便利ということ」

「わかった」

「それで、いまから6の順序数を考えてみよう。定義に代入してみるよ。それに応じて少し日本語を変えた」


6={0,1,2,3,4,5}


集合6と二項関係∈は整列集合を成す

定義域を6とする関数Gを次のように定義する

G(x)={G(a)|a∈x}

このとき、(6,∈)の順序数をord(6,∈)と書き、次の集合となる

ord(6,∈)={G(k)|k∈6}


「まず、本当に6と"属する"が整列集合を成すか、だね」

「そう。これは整列集合の部分集合は整列集合であることと、自然数が"属する"すなわち"小なり"に関して整列集合であることからわかる」

「まあ、実際確かめるまでもなくわかるよ」

「よし。じゃあ関数G(x)を考えてみよう。まず何から考える?」

「定義域は{0,1,2,3,4,5}だから、一番小さい0からかな」

「いいね」


G(0)={G(a)|a∈0}


「これはもちろん空集合だね。0、すなわち空集合に属する要素なんてないんだから」

湾はノートに書き続ける。


G(0)={G(a)|a∈0}=∅=0


「よし。次は?」

「もちろんG(1)でしょ」


G(1)={G(a)|a∈1}={G(0)}={0}=1


「どんどん続けるよ」


G(2)={G(a)|a∈2}={G(0),G(1)}={0,1}=2

G(3)={G(a)|a∈3}={G(0),G(1),G(2)}={0,1,2}=3

G(4)={G(a)|a∈4}={G(0),G(1),G(2),G(3)}={0,1,2,3}=4

G(5)={G(a)|a∈5}={G(0),G(1),G(2),G(3),G(4)}={0,1,2,3,4}=5


「思ったけど、G(n)=nという関係がありそうだね」

「その通り。順序数と"属する"に対して関数Gは恒等関数になる」

「恒等関数?」

「与えられた項をそのまま返す関数」

「なるほど。結局6の順序数はどうなるかというと…」

湾はノートを確認する


このとき、(6,∈)の順序数をord(6,∈)と書き、次の集合となる

ord(6,∈)={G(k)|k∈6}


「だから、こうだ」


ord(6,∈)={G(k)|k∈6}

={G(0),G(1),G(2),G(3),G(4),G(5)}

={0,1,2,3,4,5}

=6


「なんかつまんないけど…まあ、順序数の順序数はそのものってことだね」

「そういうこと。もうわかると思うけど、次の整列集合の順序数はどうなると思う?」


{あ,い,う,え,お,か}

≺:五十音順


「要素が6個あるから6になりそう」

「その通り。この時、この整列集合は6と順序同型という」


(6,∈)

({あ,い,う,え,お,か},≺:五十音順)

は順序同型。どちらも順序数は6


「なるほど」

「順序同型の定義はこう」


整列集合(S,<)と(T,≪)が順序同型であるとは、次の式を満たすことをいう

ord(S,<)=ord(T,≪)


「そして、整列集合なら必ず一つの順序数に順序同型になる」

「えっと、それはとてもすごいこと?」

「すごいこと…かどうかはわからないな。なぜなら、整列集合であれば順序数が定義できてしまうからね。あえてすごいことがあるとすれば、どんな整列集合でもGが定義できること、かな」

「たしかに。なんかすごい無限集合みたいなのがあったらGが定義できなくてもおかしくなさそう」

「では、いよいよ無限集合について順序数を考えるよ」

「おっ。どんな無限集合?」

「まずは、自然数全体と"属する"について、順序数を考えよう。問題にすると、こう」


ord(ℕ,∈)を求めよ

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